狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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───さぁ、式を始めようか。
(縁側から眺める庭の景色は格別なもので、それを眺めている時はこの喧騒から離れられているような感覚に陥る。式と言ってもほぼ形だけのものに近く、大昔のような厳格さはここ数十年でどんどん薄れている。扇子を開いて嫌に蒸し暑い空気を払うように扇いでいれば鼻に掛かる香りと、開けられた襖から姿を現した相手の姿煮僅かに目元を細め。周りから好機や妬みにも思える声や視線が相手に向けられる中、いくばか困惑している様子を見て取れると立ち上がり。騒がしい連中の間を抜けて相手の前までやって来ては軽く身を屈め「よく似合っている」相手の耳元でたった一言だけ伝えると、抱え込むように横抱きにしては先程まで座っていた位置に戻り膝に抱えるようにしてそのまま腰を下ろしては片膝を立てて左手で相手の身体を支えるようにしては、口元に弧を描いて。周りからはなんやかんやと野次も飛んでくるがお構い無しに強行すると、めかしこんだ使用人が目の前に盃を置いてそこに酒を注ぎ終えるのを待てば片手でそれを持ち上げ相手の前に差し出して)
これは俺に捧げられた神酒だ。だが呑めたとて、お前の身体では敵わんだろう──盃に口を付け呑む真似だけで良い。
(畳の部屋にずらりと並んだ親族と、隅の方で待機する大勢の使用人。囃子の音や鈴の音、式に捧げられる音楽が響く中で相手の歳も考えると酒は呑むものでは無いと判断し、耳打ちをしては支えていた左手を動かして相手の頬へと移すと軽く撫でて)
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