匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(いつかの船上同様に眩くはにかむ姿を見やり、こちらも口許を緩めていたが。さりげない一言を耳にした途端、表情がかすかに失せる。……なにか、言葉通り以上に大切なことを云われた気がしたのは何故だろう。揺れた視線を曖昧に落とす間にも、相手は身の回りの物をこまごまと片付け、今宵の寝支度を始めていて。何も考えずただぼんやりとその様を眺めていると、不意に振り返った相手から、今度は猜疑心も露わな表情を向けられてゆっくりと目を瞬く。どうやら、強情なギデオンが本当に体を休めるか、真面目に危ぶんでいるらしい。魔力を繊細に操作した反動で疲れも出てきたのだろう、既に少しずつ眠たげになってきたのに、ご丁寧にもこちらの裾を捕まえていると気がつけば、淡い苦笑を取り戻す他なく。──ヒーラーの休息命令に戦士がきちんと従わなければ、ヴィヴィアンの立つ瀬もなかろう。どのみち、諦めるほかなかったのだ。そう状況を受け入れて穏やかな息をひとつ吐けば、「右にする」と言質を与えて立ち上がり。出窓、次いで部屋の扉の施錠を今一度確認すると、燭台の明かりは真ん中の大きな一本を残し、息を吹きかけて消してしまう。途端に光量を大きく落とした室内は、夜独特の青い闇に沈み込み、静寂も増して感じられた。一日の疲れを洗い流し、バディによる初めての診察も終えた、これであとはもう眠るだけ。部屋の中央にゆっくりと戻ってくると、寝台の片側に乗り上げ、相手が程よく崩してくれた上掛けのなかに下半身を滑らせる。せめてもの妥協案として、無駄に四つもある羽毛枕のひとつを相手との間に置き、顔が間近に見えないように隔てさせると、ようやく上体も深々と横たえ。わざわざ近づかない限りは触れ合わずに済む寝台の広さに安心し、目を閉じて深呼吸する。まんじりともせずに夜を明かすかと思っていたが──意外にも、自分も随分眠くなってきた。相手の眠気が移ったのだろうか。)
…………、明日には……キングストンに帰れるといいな。
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