Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.108 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-21 01:58:30 




……母を尊敬してるから、"その娘の私"の気持ちには応えられないんだって、聞きました。

( たった二週間にも関わらず、久しぶりに触れた大好きな暖かい手に、どこか懐かしささえ覚えれば、そっと指を絡め返す。そうだとも違うとも答えてくれない相手に、また誤魔化す気なのかと誤解して。つるりとした眉間に皺を寄せれば、怒りを顕にする珍しい表情を。そうでなくとも、ギデオンが言いたくなかったことを、密かに教えてくれたマリアを売るような真似をする気は毛頭なく。言葉を繰り返すのは聞き分けのない子供のようなのに、「私、結構傷ついたんですよ。」と続けた言葉は、どこか冷静で冷たい鋭さを含んでいる。 )

ママを……殺した私が憎いなら、それで良いんです。
……良くないけど、それは"事実だから"……

( 思わずその指に力が籠ったのは、やはりシェリーの話題で──幼い頃から周囲にはよく恵まれていた。ビビには甘い父と、賑やかな冒険者達は皆優しく、誰もビビの前でシェリーの話をしなかった。だから、母の死因について初めて知ったのは、かくれんぼだと、1人こっそりギルドに忍び込んだとある日。その迂闊な冒険者たちも、ただビビに気づかないまま、シェリーを悼んだ思い出話に華を咲かせていただけで、悪意があった訳ではなかったのだ。不幸だったのはその時ビビの傍に、その責任はビビにはないと言ってくれる大人が誰もいなかったということで。そのまま誰に相談することも出来ないまま、眠れぬ夜を何度も過ごして、ヴィヴィアンの中でその負い目は大きく膨れ上がっていく。それこそ、自分が母の命を奪ったという空言を事実だと信じ込み、力のない憔悴した笑顔を浮かべる程に。 )


( / お世話になっております。今回はシリアスで切ない感情描写ありがとうございます。それ以前のケバブやダンスの描写も本当に素晴らしくて、読むだけでありありと味や光景が思い浮かびました!
今回、ギデオン様が断った花火に誘うにあたり、一方的にマリア様の話だけを信じて怒るビビが少し解釈違いだったため、一度正面から問うシーンを入れさせていただいたのですが……当初花火を見ながらするべき会話を奪ってしまっているような気がして、どうしたものかと迷っております。
此方としては
・シェリーを自分が奪ってしまった故にギデオン様に疎まれているという勘違いの否定
・ギデオン様がビビ自身を見ていなかったことの肯定
以上を受け、改めて花火を一緒に見て欲しいとビビがお願いし、花火シーンでは
・2度目の告白
・再アタックの了承
という展開を考えておりますが、あまりハッキリとした展開を思いつけておらず、今回かなりお返事しづらいロルになってしまっているかと思います。もし、背後様がなにかアイデアをお持ちであれば、今回のロルは書き直させていただきますので、教えていただければ幸いです。
こちらの細かいこだわりでお手数をお掛けして申し訳ございません。お時間ある際にご検討お願い致します。 )


  • No.109 by ギデオン・ノース  2022-07-21 05:52:20 




(/打ち合わせ優先のため、一旦背後のみで失礼致します!

まずはこちらこそ、いつも素敵なロルを紡いでくださりありがとうございます。つんと怒ったり無邪気にはしゃいだり、幼いころに植わってしまった罪悪感で弱った一面を垣間見せたりする様々なビビがもう本当に本当に可愛くて、何度も過去ログを読み返しては愛おしく思う日々です。
主様のビビに関する拘りは、それだけ彼女のことを大切にしている現れだと捉えていますので、背後はむしろ大喜びですし、是非是非拘り抜いてください他でもない公式供給なので……!!(懇願)
今回に限らず、主様のご負担にならない範囲で、お互いに納得するまで立ち止まったり修正したり相談したり、といったことを遠慮なく楽しめたら幸いです。

肝心の本題なのですが、実は当方も同じように、「夜の花火を観に行く前にふたりが大事な話に差し掛かりつつある」と感じておりました。
主様ご提案の流れに概ね同意の上で、いちばん大切な会話は一緒に花火を観ながら交わす、というのを、雰囲気的にも展開的にも是非推したいなと……!
なので少々細部をアレンジしての提案をしたく。


・今いる東広場にて、「シェリーを自分が奪ってしまった故にギデオンに疎まれている、というビビの勘違いの否定」を進めようとしていたところ、建国祭を揺るがす大きなハプニングが発生(例:よそ者による同時多発集団強盗事件)。警備員として至急出動すべく、話を切り上げねばならない事態に。

・しかしその際、仕事モードに切り替わる前に、「この件を後できちんと話す」ことを、普段逃げがちだったギデオンの方からしっかりと約束。

・ハプニング対応は夜まで長引き(ダイジェスト進行)、あっという間に花火の時間に。ようやく退勤した後に落ち合うと、元々賭けのご褒美だった花火デートも叶えつつ、きちんとこの話の続きを進めて互いへの理解を深めることに。

・そこにて、
「シェリーに関する話の続き」
「ギデオンがビビ自身を見ていなかったことの肯定 (なぜ遠ざけていたかの説明や謝罪)」
「2度目の告白」
「再アタックの了承 」
を行う。

という流れに進めることで、恋人関係には至らぬものの関係を築き直し、これからの新たな展開に向かっていく……というのをイメージいたしました。御検討くださいませ!

※またそれとは別件で、ギデオンのヘタレ感が必要分よりも強かったりするだろうか……と悩んでいたりするのですが、主様的に現状のギデオンの感触は如何でしょうか? 度々の確認で申し訳ありませんが、口調であったり振る舞いであったり、主様やビビの好みに刺さるものを取り入れたく……! 或いはロルに関してなども、随時御要望を受け付けております。)



  • No.110 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-21 12:11:04 




( / 相談に乗っていただきありがとうございます。
いつも此方があまり気にせずに済むようなお優しい言葉をかけてくださって、なんとお礼を申し上げれば良いやら感謝の言葉もございません。

いちばん大切な会話は一緒に花火を観ながら、に大賛成です!
非常に素敵で劇的な流れの提案もいただいて、これ以上の展開を思いつける気が全く致しませんので、是非そちらでお願い致します!
背後様の提供してくださるストーリーは、いつも世界観情緒がたっぷりかつ、劇的な中に繊細な気持ちの変化も自然に流れ込んできて、背後様の素敵な文体と合わさって、当方の貧弱な語彙では表し切れませんが、本当に本当に日々の活力となっております。

ギデオン様の性格について、たまに見せてくださる所謂ヘタレな部分も、ギデオン様の優しさを強く感じることができて非常に大好きな部分です。少しずるくて可愛いヘタレなギデオン様を見た後に、シルクタウンやグランポートの戦闘シーンを読み返す時のギャップも本ッッ当に最高で!!
お気遣い頂いて申し訳ございませんが、何も申し上げることが出来ないほど、ビビにとってもこれ以上ない、まさに理想のヒーローですので、是非そのままでお願いしたく存じます……!

お返事ありがとうございました。そうしましたら、昨晩のロルは書き直した方が進行しやすいでしょうか。背後様が一番やりやすいように致しますので、ご要望があればお申し付けください。 )


  • No.111 by ギデオン・ノース  2022-07-21 16:20:23 




(/当方もこの物語にとても心を寄せているので、主様も同様とのこと、大変嬉しく思っております……! ふたりを取り巻く冒険者としての暮らしやその中で出会う人々についても、いつも面白くあたたかく描写してくださるので、読み返すたび広がる世界が本当に大好きです。
ギデオンのこれからについても了解いたしました。ビビとのプライベートにおいては狡かったり空回ったり不器用に陥ったりしつつ、平時の一冒険者としてはしっかり頼り甲斐のあるかっこいい大人として描写していきたいと思います。(余談ですが、他人といるときのギデオンはもっと淡白に落ち着いており、ビビの前でだけ自然と表情豊かになるらしいことがのちのちわかってくればいいなあとも思っております。)

昨夜のロルはそのままで大丈夫です! むしろ、ギデオンとビビがきちんと大事な話をするきっかけをご用意くださってありがとうございました。ハプニング発生までの短い間、ほんの少し話し合うところから続けてまいりますね。引き続きよろしくお願いいたします……!/蹴り可)



(普段は天真爛漫な笑顔が咲く相手のかんばせに、ひやりとした怒りの色が滲んでいるの読み取れば、いったいどういうわけかと眉間に皺を寄せて聞き入る。しかし、やがて彼女が呟いた恐ろしい自嘲の言葉に、ざっと顔色を失って。「──違う、」と、ほとんど反射的に否定の言葉を口にするが、そうして絞り出した小声だけでなく、彼女に向ける青い双眸さえも、激しい狼狽に震えてしまう。木陰とはいえ真夏の昼下がり、あたりは明るく陽気な賑わいに溢れているというのに、周囲の音はろくに耳に入らず、体は芯から凍り付くようだった。目の前にいる彼女の、深い闇に囚われたような表情が、それほどませに恐ろしく。「……ヴィヴィアン、」と、迷子の彼女を掬い上げるような一心で名を呼び、重ねていた掌を思わず、彼女の片頬にそっと添わせる。今は暗く影の差してしまったグリーンの瞳、その奥をまっすぐ覗き込み、今までのどれよりも真剣なまなざしで語りかけ。)

事実じゃない。──事実じゃ、ない。おまえがあのひとを死なせたなんて、俺はそんな風に考えちゃいない。
お前にそう思わせるようなこと自体、俺もあのひとも……絶対に、望んじゃない。




  • No.112 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-23 01:10:16 




( その否定は何に対する否定なのか。ふと上げた視線に飛び込んで来たのは、夏の陽気を全く感じさせない無色の頬。形の良い唇もどこか白ずんで、どんなにビビが迫ってもただ厳かに光っていた瞳まで、今は色濃い狼狽に揺れている。──どうしてそんな顔してるんですか。チクリと痛んだ胸に眉をひそめて、思わず相手の名の混じった吐息を漏らせば、事情もわからぬままに励ますように力を込めかけた指が、その寸前でするりと解かれ。指が空をかく虚しさに、小さく息を吸った瞬間。どこか切羽詰まった、けれども真剣な声に呼ばれて、優しく頬へ触れられる。普段のビビならば真っ赤になって逃げ出すところだが、ギデオンの真剣な眼差しに絡め取られて逃げることもできず。ずっと誰かにそう言って欲しかった言葉を、一番言って欲しかった相手から貰えば、そのあまりの都合の良さに身が竦む。二週間前に突き放しておきながら、どうしてこんな、まるでこの気持ちを諦めなくていいと言っているような、残酷なことが言えるのだろう。 )

っなんで──

( 今度は此方から手を重ねて、その温もりから相手に大事にされていることを感じ取れば、まろい頬をじわじわと林檎に染める。相手の行動の矛盾に混乱して、今にも泣き出しそうな表情で口を開くと──その時、背後で上がった悲鳴とざわめきに、影と涙に揺らいでいた瞳へ、一瞬でいつもの理性的な光が取り戻される。職業病で思わず立ち上がってから、ふと名残惜しそうにギデオンを振り返れば、この機を逃して相手はまたビビの追求から逃げ回るのだろうと、諦めたようなギデオンへ何も期待していない笑みを浮かべて。すぐに冷静に自体を把握しようと周りを見回せば、自身の杖に手を添えて )

──っ、今のは……大通りの方ですね。一体なにが……

  • No.113 by ギデオン・ノース  2022-07-23 16:46:26 




盗人騒ぎみたいだな。……、

(目の前の相手にどれほど集中していようが、ひとたび周囲で異常が起これば即座に臨戦態勢を。それは戦士たるギデオンもまた同じで、纏っていた空気をぱっとかき消しながら騒ぎの方角を確認する。遠い向こう、人ごみがより密なメインストリートの方で、「泥棒!」と繰り返す必死な叫びが響いていた。しかし今度は別の方角、そしてまた違う方角からも、バチバチという不穏な物音、人々の悲鳴や怒号、おまけに魔法を撃ち合う喧騒までもが次々と上がりはじめて。複数人による攪乱込みの犯行か、と冷静に見立てをつければ──付近にいた精霊使いと祓魔師に目配せし、コンクール会場の人々の誘導を予め託すことにすると、再び彼女に向き直る。……改めて花火に誘い直したくらいだから、今夜少しも話す暇がないということはないだろう。どこか怯んだように微笑む相手の表情を読み取り、「ヴィヴィアン、」と、真剣な声音でもう一度名を呼べば。先ほどの動揺が見られなくなった瞳には、代わりにどこか懇願の色が宿っていて。)

今起きてる件を片付けて、無事に仕事を上がったら……この話の続きをさせてくれ。例の花火を観ながらになるかもしれないが、有耶無耶にしたくない。

(──それで、もし成り行き上一旦別れることになったら、そのときはここで落ち合うことにしよう、と。念を押すように、真剣な思いが伝わるように祈りを込めて提案すれば。掌中に集めた魔力を抜き身の警棒に吹き込み、さすまたへと換装させて。)




  • No.114 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-24 21:05:25 




……っ!約束ですからね!

( にわかに騒然とし始めた広場に、手馴れた動作で杖を抜く。撹乱を狙った組織ぐるみでの計画なら、この会場にも犯人や怪我人がいるかもしれない。警戒に目を細めて魔素の流れに集中していたところ、背後から真剣な声をかけられれば、冒険者らしい責任感に溢れた表情で振り返り。てっきりこの状況に対する指示を下されるものと思っていたということもあるが、いつもビビのアタックを曖昧にはぐらかすギデオンが、此方を真っ直ぐに見つめるものだから、素直な驚きに目を見開いてしまう。更に具体的な約束までギデオンから言い出してくれた。その真剣さを嬉しく感じて、つい頬が綻ぶものの、周りの状況と相手に対する怒りを思い出せば、喜びを隠しきれていない様子で態とらしく眉頭を寄せてから、騒音鳴り止まぬ現場へ駆け出した。ここまでされてギデオンに恨まれていると思い込み続けるほど卑屈ではない。相手の事情は分からないまでも、想像以上に自分はギデオンに大切にされている──今はそれだけで大丈夫、そう思えた。 )

( とはいえ、現場の状況はとても楽観視できるものではなく。祭りの人出に反比例するように、質屋や両替商、その他一部の商店は普段より人が少なく、鍵こそ閉めていたものの、従業員全員が祭りのメインストリートの方に出払っていた店舗さえあった。それを狙った同時多発的な犯行に、キングストン中の警察と警備要員の冒険者達は日が暮れるまで走り回るハメとなり。勿論2人も例外ではなく、犯人たちが捕まりギデオンと別れた後も、騒動と混乱のさ中、逃げ出した人々にぶつかり踏みつけられた怪我人の治療に追われ、建国祭最終日にして一番忙しい一日となった。
そうして駆け回っているうちに、建国祭の花火が上がる刻限が近づいてくる。やっと何とか事態が収まってくれば、本来シフトではなかった者達から帰宅が許されるも、今から下宿に帰って身嗜みを整えるような時間はなさそうだ。仕方なく顔の煤だけハンカチで拭えば、薄ら浮き出るそばかすは夜闇に隠れる、と信じることにして東広場へ歩を向けて。昼間の騒乱をもってしても、花火に集まる人出を抑えるには力不足だったらしく、夏の爽やかな夜闇を多くの出店や舞台の光が照らす明るい夜に、昼間とはまた違った雰囲気の装いの市民が増えてくる。周囲の楽しげな笑顔を見れば、それを守れたことへの安堵と歓喜が湧き上がるものの、出店のガラス細工に映った自分が目に入れば、小さく溜息をつき。半日人混みや破壊された建物の粉塵の中を駆け回って薄汚れた姿。前髪は汗でぺったりと潰れ、豊かなポニーテールは逆にくるくると膨れ上がって手に負えないボリュームを誇っている。気にしても仕方がないと頭を振り、昼間のギデオンに思いを馳せれば、彼は何を言わんとしていたのだろうかと、賭けに勝った歓喜の瞬間を思い出し、まだ残っている気がする感触にそっと唇に指を触れる。「──やっぱり、慣れてる……よね」思い出したのは、ビビの唇が触れても、大して動じていないように見えたギデオンの姿。湧き上がった小さな嫉妬心には気づかない振りをして、祭りの光に見とれつつ東広場へ足を踏み入れると、頬を撫でた生ぬるい風に気持ちよさそうに目を細めて。 )

ギデオンさん……もうついてるかな、


  • No.115 by ギデオン・ノース  2022-07-25 23:42:36 




(相手の言葉にこくりと頷き、以降はギデオンも完全な仕事モードへ切り替えて。ともに現場へと急行し、同じく駆けつけた他の冒険者と即座にチームアップすれば、あとはひたすら事態収拾に向けて奔走する。これほど大勢の人出があっては、逃亡犯の捕獲からして一筋縄では行かぬもの。それでも尚、カレトヴルッフとキングストン警察の名に懸けて、全員をお縄につける所要時間は半刻程度に収められた。しかし問題はここから先だ。被害の全容の確認、怪我人の手当て、荒らされた現場の復旧、悪漢どもの余罪の追及、警備体制の見直しと、兎角後始末が多い。己は今年こそ一般警備に回っていたが、無駄に年季が入っていることもあり、事後検証や詮議立てには顔を出さねばならない立場。気づいた時にはヴィヴィアンの姿を見失い、他のヒーラーと怪我人の手当てに行ったようだと周囲の会話から察した。……こればかりは仕方がない、適材適所というやつである。間違っても忘れぬよう、最後に交わした約束のことを脳裏にちらつかせながら淡々と仕事に当たれば、あっという間に日が落ちて。夜の帳が下りた街には、色とりどりの魔法灯が人々の影を和やかに揺らめかせる光景が其処此処で広がっていた。こうして平和を取り戻した建国祭も、いよいよ最終盤──数千発の花火の時間が、まもなく始まろうとしている。)

(着替える時間こそなかったが、半日走り回ったこともあり、最低限の身嗜みだけは整えようと薬屋に立ち寄った。とはいえ、臭い消しの魔法薬が入った小瓶を買い、全身に噴霧しただけではあるのだが。三十路を超えたら臭いにゃ重々気を遣え、とは先輩のホセの言である。やたらめったらトラブル好きで悪鬼とさえ呼ばれる男だが、色事などにおいては繊細に気遣う一面がある。去年の暮れだったか、まだ二十歳にもならぬ娘に惚れられて電撃婚を遂げたのだから、奴の助言は大いに活用するべきだろう。──なんだか、余計なことをやけに自然に考えたような気がして、誰がいるわけでもないのに気まずそうに顔をしかめ、ぐしゃりと横髪を掻く。息を吐き、小瓶を公共の塵箱に投げ捨て、東広場へ足を駆る。
建国祭最後の花火はキングストンのどこからでも観られるが、東広場は庶民の人気スポットだった。集合場所として指定するのはまずかったか、こんな混雑の中で長く待たせてしまったか、と心配しながら辺りを見渡せば。そう遠くない先にヴィヴィアンの姿を見つけ、ひとまずはほっと表情を緩めて。日ごろ鍛えている冒険者の連中は別として、大抵の人間はギデオンよりも背が低い。そう苦労することなく人混みを掻き分けて進み、夜風を受けていた様子の相手のそばにやってくれば、「悪い、待たせた」と声をかけ。その姿をようやく間近に眺めて浮かんだのは、身仕舞がなっていないというような冷淡な感想ではなく、今日も今日とて、ヒーラーとしての職務を果たすべくずっと懸命に働いていたのだろう、という温かな気づきだった。であれば、まずは一息つくのが先決と判断し、自分の黒い革財布を掲げて。)

……とりあえず、夜食を買って落ち着けるところに行かないか。流石に腹が減った。



  • No.116 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-26 10:49:47 




ギデオンさん!お疲れ様です!

( 端的だが気遣いのこもった優しい声に、相手の顔を見るまでもなく、意中の相手だと気がつき振り返る。ギデオンが約束を破るとは思っていなかったが、今晩されるだろう話に、自分でも知らぬ間に緊張していたらしい。ビビにしては少々硬かった表情を、ギデオンの顔を認めた瞬間、頬を上気させてうっとりと好意に綻ばせても、全身ヨレヨレで薄汚れた今のビビを振り返る人間は誰もいない。髪やら服の乱れを恥ずかしそうに撫で付けつつ、相手が近づいてくれた残りの距離すら惜しいとばかりに小走りで近づけば、トネリコ、白檀、ドワーフの蒸留酒、それから少しだけ無属性の魔素、普段ギデオンからしない香りに、相手の気遣いには気付かぬ振りをしてはにかんで。ギデオンが財布を掲げるのを見つめれば、自分の気の効かなさに口元に手を当て赤面する。こういうところがホセさんとの恋を成就させた彼女や、リザとの違いだと痛いほど思い知らされると、せめてもの気遣いに、昼間ギデオンがそれは美味しそうに食べていた好物に違いないそれの方向を指さしながら歩き始めた瞬間。この空気にテンションが上がっていたのだろう、周りを見ずに大きく横に飛び跳ねた青年にぶつかられて、思わず小さくよろめけば、この人混みではそんなたった一瞬でギデオンとの距離が開く。──これくらいなら許されるだろうか、なんとかギデオンとの距離を詰め、そっと手を伸ばすと相手の服の裾を小さく掴んで。 )

あっ、そうですよね……そういえばお昼のケバブ屋さん、まだそこで営業してましたよ……あっ、


  • No.117 by ギデオン・ノース  2022-07-26 12:49:52 




(女性としてはすらりと長身なヴィヴィアンだが、やはり性差というものはある。自分より大きな男に勢いよくぶつかられれば、受け止めきれぬのも当然のことで。押し流された相手を見てはっと立ち止まり、こちらからも拾いに行こうとしかけたが。どうにか無事に戻ってこられたのを出迎えれば、「大丈夫か」なんて当たり障りのない声をかけ。無事を確かめて今一度、目当ての店の方向へと向き直った──青い瞳を、ほんのかすかに見開いて。……原因はギデオンの左腕、おそるおそる縋り付くような控えめな感触があるせいだ。それをもたらす人間など、ここにはただひとりしかいない。立ち止まったまま前方の虚空を見つめていたのはほんの数秒の話だが、その間ギデオンの脳裏に自然と蘇ったのは、シルクタウンでのあの夜のことで。当時は努めて意識しないようにしていたが、あの時も彼女は、こうしてそっと触れてきた。それを受けて咄嗟に封じ込めたはずの、どうしようもない感情──本能的な、よくわからぬ欲のようなもの。相手を守りたいと、自分の手の内で無事でいさせたいと欲してしまうような、ひどく不当で不可解なもの。そんな想いが、この不意打ちのせいで、あの時よりも強く、明確に、自分の意志など無視して湧きあがりそうになってしまう。軽く視線を落としながら、それの促すまま、相手の華奢な手を緩く握ろうと、躊躇いがちに身じろぎする己の掌。しかし結局は寸前で、普段から稼働させている過剰な理性がほぼ条件反射的に発動し、しぼむ様に戻してしまい。「……危ないからそうしてろ、」と、彼女が控えめに取り縋るのをただ許すだけにとどめれば、何事もなかったかのように祭りの人混みの中を歩きだす。ギデオンがエスコートすれば幸いスムーズに行く手が開き、程なくして昼間のあの屋台に辿り着いた。どうやら夜は盛況のようだ。主人のほかに、その妻らしき浅黒い肌の美女や、アルバイトと見られる十歳ほどの少年も忙しく調理している。やがて順番が近づいてくれば、不意に顔を上げた店主が「お! あの時の!」と大変嬉しそうな顔をして。「最終日だから特別メニューも増やしたんだ、おまけもするから見てってくれよな!」なんて威勢よく宣伝されたので、傍らに立てかけられた黒板のメニューを見やる。通常のケバブサンドやタコスラップのほかに、伝統的な揚げ物であるファラフェル、グラタンに近いムサッカ、甘い蜜を絡めた焼き菓子バクラヴァなどが書き足されている。メインはさておき、警備の仕事も無事終えたことだから、ビールも頼んでしまおうか。普通の酒ならそう悪酔いしないたちだし、何より今夜これからを思えば多少は酒の力を借りたい──忙しない思考によって先ほどの自分の有様を無意識に忘れようとしながら、「おまえはどうする?」と隣の相棒に尋ねてみて。)



  • No.118 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-27 12:11:48 




……ふふ、ありがとうございます。

( また振り払われたらどうしよう。袖を引かれて立ち止まった無言の背中を、祈るような気持ちで見つめていたから、その手が曖昧に伸ばされ萎んだことには気づかなかった。振り向きもせずに歩き出すギデオンの指示に心底安心して息をつけば、その吐き終わりの部分を小さな笑みに震わせる。振り払われるのも辛いが、全く反応されなくてもどう判断したものか迷ってしまう。考えた末にビビから縋る分には許してくれる、ただそれだけのささやかなことが嬉しく感じるほど、ビビにとってもこの2週間は辛く無味乾燥とした時間で。それから屋台に着くまでのほんの短い時間、心地よい沈黙に頬を染め、夢見るような視線はずっとギデオンを追っていた。そうして昼間ぶりに屋台の主人と顔を合わせれば、相手に負けず劣らず嬉しそうに目を輝かせ「わあっ!全部美味しそう!」と小さく飛び跳ねるビビに、だらしなく相好を崩した主人がエキゾチックな美人に小突かれる頃には、いつの間にかギデオンの袖から手は離されていた。レモンの効いたサバサンドに目を奪われながらも、アルコールと書かれた看板を示すバディの方身を乗り出せば。先程のギデオンとはまた違った意味でシルクタウンの夜を思い出し、恥ずかしそうに鬱向いて。普段であれば見くびられないためや、背伸びをして飲むそれも、今晩はギデオンが好むなら自分も同じ味を知りたいと、心からそう思えて。いつかグランポートで人から借りた口説き文句を、思わず口にしていることも、屋台の方から微笑ましげに見守られていることも気づかずに、以前一度酒で迷惑をかけた手前、胸の前で両手の指を合わせると照れくさそうにお伺いをたてて。 )

……ギデオンさんと一緒なら少しだけ、飲みたいな。


  • No.119 by ギデオン・ノース  2022-07-27 16:54:15 




……ワイン以外なら許可してやろう。

(はにかみながら打ち明けられた要望に、一瞬ぴくりと眉を動かす。思い出すのは、眩しい陽射しが降り注ぐ海辺の町でのあの会話。たとえ男とふたりきりの状況で酒に強くない自分が酔いすぎたとしても、『ギデオンさんだけならいいじゃないですか』──などと。潮風に吹かれながらこちらの顔を覗き込んできたヴィヴィアンが、随分あどけなく笑ってくれたものだ。あの時こそ彼女の過ぎた無防備さについため息を零したが、それから半月以上経ち、他の様々な出来事も未だ記憶に新しい今、ギデオンの胸に沸くのは単純な懐かしさで。可笑しそうに目を細めては口角を緩く上げ、相手も思い出しているであろうあの夜のことを今さら揶揄ってやりながら、屋台に近づいて店主の妻に注文を。程なくして、揚げたてのファラフェルサンド、塩気と柑橘が爽やかに香るサバサンド、ラム肉と獅子唐を使った大振りのシシュケバブ数本、蓋つきの紙コップに入った冷たい酒、それにおまけの何かまで入れてもらった紙袋を、表に出てきた幼い少年に差し出される。それを片手で抱え上げれば、残る片腕の袖を掴むよう相手にさり気なく示しつつ、屋台を離れて再び何処かへと歩き出すことにして。……忘れてはいけない、今夜こうして一緒にいるのは、賭けに勝ったヴィヴィアンの望みを叶えてやるためだけではないのだ。昼下がりに交わした、聞き捨てならないあの会話。あれをきちんと続けられるような場所を、と思いながら採算辺りを見回すが、生憎どこも人、人、人、の大混雑っぷりである。参ったなと感じつつ、しっかり話したいと言い出したのはギデオンの方なので、責任を持って探さねばならない。自身の歩調と、先ほどの男のような不注意な輩の気配に注意を払いつつ、腰を落ち着けるまでの暇潰しにとりとめのない雑談を振って。)

昼間の件は大変だったな。そっちはどうだった、酷い怪我人はいなかったと聞いてるが。




  • No.120 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-27 21:13:42 




人が気にしてるの知っててそういうこと言います!?

( これまでのギデオンは、ビビのアタックに困惑の表情を浮かべつつ、誤魔化し受け流すばかりだったはずだ。──こんな、意地悪い笑みを浮かべるような人だっただろうか。あの医務室以前のビビならば『ビールでも酔っちゃったら、家までおくってくれます?』なんてギデオンの腕に縋り付いたかもしれないが、爽やかな甘さの中に抗い難い色気の滲む表情に一瞬見とれては、いつもと違うギデオンの様子に、これからされるだろう話を予感して緊張がぶり返し。林檎のように頬を染め、色気のない抗議に両の拳を握りポニーテールを揺らすのが精一杯。その上、勝手な気まずさから救世主となってくれるかと思われた少年が、ビビの細腕をスルーして、ギデオンに全てを纏めた紙袋を持たせて「女の子には花より重いもんは持たせねえ主義なんだ」と、普段であればこれ以上なく愛くるしく感じられるキメ顔を披露してくれたものだから、益々やり場のなくなった手を彷徨わせる羽目になり。そこへギデオンから袖を示唆するさり気ない追い打ちまで心臓に喰らえば、恥ずかしさからくるキャパオーバーに眉尻を下げ、袖を掴んだ指は行きよりずっと控えめで。暫くは東広場とは違う方向へ進んでいることに気づく余裕もなく、静かにギデオンの後ろを歩いていたが、仕事に関する雑談を振られれば露骨に安心した表情を浮かべて顔を上げ。 )

本当に!こんな日を狙うなんて許せないですよ!
……怪我の方は、良かったって言ったらダメですけど、重症の方はいなくて、

( そうして、楽しい祭りに水を指す無粋な犯人に、素直な怒りを表すまでは元気が良かったものの、一瞬言葉を考えるように黙り込めば、眉間に寄せた皺が怒りから不安げなものに変わる。犯人を捉えて安心したのもつかの間、建国祭の期間限定で立てられた救護テントは、巻き込まれた一般の負傷者達で溢れかえっていた。事件の社会的な始末におわれるギデオンの一方で、ビビは後輩のヒーラー数名と、傍で手持ち無沙汰になっていたバルガスを力仕事要因に引き連れてテントに向かっていた。不幸中の幸いで命や後遺症に関わるような怪我をした者はいなかったが、冒険者たちと比べて非常時や怪我になれていない市民たちの空気は最悪で。常々、被害者たちの恨みの矛先は、加害者よりも、助けた人間に向かい易い。お前らの警備が甘かったせいで、こんな事件を見逃すなんて!と、決して気分の良いものでは無いが、ヒーラーとして3年目を迎えれば、ビビにとってはとっくに慣れた叱責も、冒険者達の中で守られ感謝される経験の方が多い新人ヒーラー達には辛い。どんどん顔色の悪くなる後輩たちを、何とか鼓舞しながら治療に当たっていたものの、逃げる人に押されて腰痛を悪化させた老夫に、受付のリザが突き飛ばされたのを見て、責任感の強いバルガスがとうとうキレてしまった。基本的に前線で立ち回る彼は、自分の活躍は周りの支援のお陰だとヒーラーや、事務方の構成員を非常に大切にする。しかし、今回はそれが最悪なタイミングで発揮されてしまい。今にも老夫を捻り上げ兼ねない彼を宥めすかして、別の部所の応援に出している間、ビビなしで働いてくれた新人達の心労は如何程だったろう。明日以降の精神的なフォローを考えて深い溜息をつけば、ビビに惚れていることが公然となっている男の名を漏らしたのは、そういった事情で。 )

どっちかと言うと、皆の方が心配です。
特にバルガスはすごく落ち込んでたから……泣いてないといいけど。

  • No.121 by ギデオン・ノース  2022-07-28 03:24:30 




(頬を真っ赤にした相手の必死な抗議に小さく笑い、妙な気を利かせた少年のませた言動にまた笑い。自覚こそなかったものの、そのときのギデオンはたしかに、表情豊かに寛いでいた。ヴィヴィアンとふたりでいるときの彼を知らぬ者が目撃すれば、いつも顔色の変化に乏しいあの男にいったい何が……!? とさぞや目を丸くすることだろう。──そうして連れ立って歩く道中、相手が教えてくれたのは、なんとも困った苦労話で。見当違いの非難というのは、救護職も担う冒険者にはしばしば付き物の辛酸である。しかし、慣れねばならぬ種類のそれとはまた違うはずなのだ。斜め後ろを歩く相手を時折気遣わしげに見やりながら低い相槌を打っていたが、最後に落とされた呟きには、ふと一瞬遠い目をして。……バルガスがヴィヴィアンに惚れている、というのは、ギルド内では有名な話だ。そんな彼が、意中の娘に不甲斐ない様を想像されているのは、同じ男として少し同情したというか、気の毒に感じられ。)

……あいつは軟な男じゃない。明日にはまた、いつもの獅子奮迅ぶりを見せつけてくれるだろうさ。

(そう唸り、彼の面目にほんのささやかな力添えを。とはいえ言葉に嘘はない、ギデオン自身も彼を普段から評価しているのは真実だ。己の知るバルガスという男は、兎角熱い好青年である。肉体だけでなく思想や言動にも筋肉質なきらいがあり、直情的過ぎる一面も目立つことには目立つのだが、真面目な働き者で、情に厚く、周囲をよく思いやる。先輩にも後輩にも好かれる彼の人望は、いずれ未来のカレトヴルッフを支える柱のひとつになるだろう。……奴とヴィヴィアンにはいずれ内密に知らされるだろうな、とうっすら確信しながら、ギデオンはあることを思い出す。今日の事件の事後調査にて、とある疑惑が浮上していた。曰く、この集団強盗事件はなんらかの陽動なのではないか。年に一度の建国祭という、明らかに強力な運営が目を光らせている催事で、白昼堂々及ぶにしては酷く無謀で粗末な犯行。これには何らかの裏があるのではないか、別の深刻な犯罪の隠れ蓑なのではないか、というのが、対策本部に集った警視やベテラン冒険者たちの総意だ。このため今も、魔力体力に満ち溢れた元気いっぱいな冒険者が多数駆り出され、キングストン市内の調査と厳重警備に当たっている。表向きはあくまでも、今日の事件を受けての念のための警備増強。しかしごく少数には、真の狙いが知らされたことだろう。そしてそれは、今は非番となっているヴィヴィアンも、じきに同様となるはずで。シルクタウンの帰り、指揮を執るようなクエストを多数こなせというギデオンの助言を素直に受け取った彼女は、キングストン周辺のモンスター狩りで巧みな采配を振ったと聞いている。その時に伸ばした能力は、こうして今日実際に、現場で見事役立った。自身も未だ若輩の部類でありながら、同世代や後輩の労務管理によく気が回るのは、上に立つ者の才があるからに他ならない。資質のある人間にはどんどんふさわしい場を与えて伸ばす、というのがカレトヴルッフの方針──案外、彼女が自分と同じ場に登ってくるまでそう時間はかからないかもな、なんて思いながら、それを楽しみにしている自分がいることに不意に気づいて。……そうこうするうちに、人混みが僅かに疎になる。どうやら中央広場の手前、特に屋台があるわけでもない暗い小道に来ていたようだ。周囲の風景でふとある伝手を思い出すと、「こっちだ」と案内しながら大きな建物の影に入って。──それは築200年の厳かな時計台。歴史的景観を重んじるため、こういった派手な祭りの際には、周囲に出店が立つこともなければ、一般の立ち入りも完全に禁止となっている。だがあくまでも“一般”の話、裏手の出入り口で警備をしている古株の爺さんに顔が利くならどうということはない。ギデオンが暫くぶりに若い女性を連れ歩いているのを見かけ、真っ白な髪の老人は興味深そうにふさふさの眉を上げたが、何も言わずに裏手の扉を開けてくれた。「暗いから足元に気をつけろ」と声をかけつつ、相手と共に鉄の階段を登ろうか。他にも同様にお忍びで入り込んだ先客はいるだろうが──時計盤の上にある柵に囲まれた展望台は、キングストン中の夜空を眺められることだろう。)



  • No.122 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-28 10:51:48 




そうだったら、いいですよね。

( 狭いテント内から上がる熱い呻き声。上がった怒声に振り返れば、こんな私が人の役にたてることが嬉しいんです、と控えめに笑っていたマリアが、顔を青くして目に涙をため、鋭い嫌味が聞こえた方へ視線を向ければ、カッコつけの癖に毎日の鍛錬を絶対に欠かさないセオドアが、指先が白くなる程強く拳を握っている。静かな顔をして座っているリザの視線も、真っ先に恨みをぶつけられる受付では、心做しかいつもの鋭さが欠けていて。雪のように白い肌を真っ赤に染めているバルガスの腕を掴み宥めながら、ビビだって大切な仲間たちを罵倒する者達をテントから放り出してやりたい気持ちと戦っていた。治療においては自身の方が特性が高いとはいえ、ここにいるのがギデオンさんだったなら──と不毛な想像を何度も繰り返した相手に、( 真意は男同士の同情とはいえ ) 己に都合の良い言葉を貰ってしまえば、そう信じ込みたくなってしまう甘い己を戒めるように小さく微笑んで。 )

うわぁ……、……すご、い。
すっごく綺麗……。私、こんな素敵な場所初めてです。

( 今日の事件の裏で起きようとしている、何か大きく嫌な事態に今は気付かぬまま、祭りの喧騒に恍惚と目を細め、大好きな腕に引かれるまま歩を進めていれば、もうずっと遠くから見えてはいたが、風景の一部でしか無かった時計台を見上げて、目を大きく見開き。ギデオンと老人の間合いを見れば、入っていいんですか?なんて無粋な質問は意味が無いことくらいビビでもわかる。扉を抑えてくれた老人に柔らかい笑みを向けて小さな会釈をして。ギデオンの声がけに「ありがとうございます」とその袖をしっかりと掴み直せば、暗い階段をぐるぐると無言でのぼり。途中で現れた巨大な時計の裏側、その精巧な歯車や機械の噛み合い動く様に見とれていたから、バディが開けてくれた展望台の扉から飛びこんできた風景に、一瞬言葉を失って。天の川のかかる満点の星空に、下は色とりどりの魔法の光が大きな通りや、広場の形を浮かび上がらせ。その奥遠くにはキングストンの市民が毎日見上げる白亜の城が、今日ばかりは愉快な色の光に照らされている。正しく宝石箱をひっくり返したような光景に、走るのも忘れたかのようにゆっくりと手摺まで歩を進め、爽やかな夜風に髪を抑えて、感動のあまり表情時抜け落ちたあどけない顔でギデオンを振り返り。きっとそのまま、ビビが気まずそうに言葉を待っていれば、ギデオンは約束を果たしてくれたに違いない。しかし、バディの話したくないことを話させるのであれば、せめて誠実さだけは失わずにいようと、一度閉じて開いた目に、真っ直ぐな光を灯すと覚悟した表情で口を開き。 )

……、ギデオンさん、ギデオンさんがあの時私を振ったのは、私がシェリーの娘だから、ですか。


  • No.123 by ギデオン・ノース  2022-07-28 16:19:07 




(辿り着いた薄暗いそこには、いくつかの長椅子や持ち込まれたらしいささやかな食卓のほか、ごくまばらな人影があるのみ。組み合わせは夫婦や恋仲の男女に限らず、お偉方と思しき微笑ましい家族連れや、密談をしに来たらしい身なりの整った男同士も見受けられた。しかしそのだれもが信頼できる身元であることは、あの老人……かつてはギルバート同様、大魔法使いと呼ばれた人物が、彼なりの判断基準に基づいて通したことから明らかだ。幸い、知り合いの姿は見当たらない。地上とは打って変わって物静か、加えて他所への興味を互いに差し向けない心地良い空間に、ギデオンもまたゆっくりと足を踏み入れて。──ちらちらと輝く星空の下、カラフルな魔法の明かりを背に振り返るヴィヴィアンの顔は、そのまっさらな幼さでそれらのどれより輝いて見える。いつかの船上の眩い光景、あれを目にした時と同じような感慨が胸に湧くのを覚えながら隣までやってくれば。それまで景色に感激していた彼女がふっと真面目な顔になり、数時間前と同じ疑問を口にしたのが左耳に届き。それまでの相手に倣い、手摺にもたれて賑やかな地上に視線を落としていたギデオンの目が、何もない中空を見やる。相手もそれなりに覚悟してここに来たことは、その声色から伝わっていた。どこへともなく目を伏せる──きちんと、話すべきだろう。)

……そうだ。シェリーの……師匠の、娘だから。おまえを大事にしたかった。

(好意を無碍にしておいて、それが相手を大事にすることに繋がるなどと。おかしなことを口走っているのは、自分でもわかっている。だが、どうすれば自分の思いが伝わるだろうか。選ぶ言葉に迷いながら、抱えていた紙袋を開け、水滴の浮いた冷たいビール瓶を取り出し。食事の入った紙袋は一旦足元に置くと、小瓶の一本を相手に渡し、己もゆるりと手に取って。既に屋台で開封されている瓶の口を唇のそばに合わせながら、ぽつり、ぽつりと思い出話を語りだす。どこを見るわけでもない青い目に浮かぶのは、過去の──在りし日の、彼女の姿。どんなに月日が経とうとも、あの真夏の太陽のような笑顔を忘れたことはなかった。弟子のギデオンを可愛がる親愛に満ちたそれも、母親としての穏やかな慈愛が宿るようになったそれも、ギデオンの胸には今もしっかりと残っている。だからこそ、それを裏切るわけにはいかないのだと。目を合わせない横顔は、罪の色に暗く翳って。)

おまえのことは、生まれる前から知ってる。……シェリーは、いつも嬉しそうに話してたよ。授かったのが娘だとわかってから、こんな服を着せてやりたい、一緒にこんなお菓子を作りたいと言って。おまえのことを心から愛してた。
それを知ってたから、シェリーの死を悲しみこそすれ……あのひとが命懸けで産んだ宝を責める気になんか、なるはずがない。……立派に育ったその子の人生を、俺自身で歪めるなんて、そんなのはもってのほかだ。



(/※酒が入っているのは蓋つきの紙コップ、としていましたが、風情と容量を考えて小さめの瓶へと変更いたしました。ご了承いただければ幸いです……!/蹴り可)




  • No.124 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-29 11:28:19 



……ッ、

( 伏せられた目を真っ直ぐに見つめ、ギデオンの言葉を待つ間、漠然とした不安や緊張から、自然と手摺を掴む手に力が篭もる。数秒にも満たない、されどこれ以上なく長く感じられた沈黙の後、バディから発された肯定と、矛盾した発言に下唇を噛めば、指先に剥がれた金属の塗装が刺さる痛みが走る。昨晩からの怒りが再燃するのを落ち着けるように、小さく息を吐きながら手摺を離し、両の手のひらを軽く擦り合わせれば、パラパラと宝石箱の中に落ちていく塗装の欠片を見つめるように俯く。受け取ったビール瓶の水滴が擦り傷に少しだけ滲みて、口に寄せたそれはやはり苦くて美味しくなかった。自分の知らない2人の思い出話に、どちらに向けたものか分からない嫉妬が腹の底に渦巻いて、自分の汚さが、子供っぽさが嫌になる。大好きなギデオンにとって、大切で綺麗な思い出を、良い気持ちで聞けない自分が嫌い──しかし、言葉を選んだ様子のギデオンに宝とまで言われて初めて、ギデオンが母の事で自分を恨んでなどいなかったのだと、この優しい人がそんなこと思うわけなどないのだと、ギデオンに父に母に恨まれている、そう思いたかったのは自分自身だと気がついて。そうでなければ母が報われないとさえ信じ込んでいた。そうして初めて、昼間ヴィヴィアンがシェリーを殺したと言った瞬間のギデオンの狼狽した顔の意味を知り、自分のコンプレックスと罪悪感に引っ張られ、自分勝手に傷つけてしまった相手にハッと息を飲んで顔を上げ。その暗く沈んだ顔色に思わず両手を伸ばし、約束など忘れてその頬へ触れると、最愛の人を貶された怒りをはっきりと表して。 )

歪めるってなんですか……!ギデオンさんといることが、不幸みたいな言い方しないで下さい!
……私、ギデオンさんが話してくれなかったら、ずっとママのこと勘違いしたままでした。ずっと、私は母から恨まれてるって、母がどんな人かも知ろうとしなかった。いつだって、ギデオンさんには助けられてばかりで……こんなに大好きで、幸せで、好きだって言えないだけで、すごく辛いんです。
──愛してます、ギデオンさん。
ギデオンさんの師匠は、こんなに貴方の事が大好きな私のこと、適当に突き放して喜ぶ人なんですか?

( 背けられたギデオンの顔を無理やり正面から見つめ、理不尽とさえ言える愛をぶつける様子は正しくいつものビビで。周りに気を使って少し声を落とせば、表情こそ珍しい怒りに歪めているものの、淡々と言い聞かせるように熱烈な愛を口にすれば、流石に一瞬覚悟するように瞳を伏せ、ゆっくりと瞼を持ち上げれば、シルクタウンぶり2度目の告白を。続けた言葉は嫌味ではなく純粋な疑問、決定的な答えを恐れてシェリーのことを周りに聞けなかったヴィヴィアンとはもう違う。悪酔いの果てとは違う真剣な告白に、いつか来るだろう関係の結末を覚悟して、睫毛を小さく震わせれば、覚悟の決まった意志の強い瞳を細める笑みはやはりシェリーとよく似ていた。 )

"師匠の娘"じゃなくて、私を見てください。
それで、私のことがどうしても好きになれないってギデオンさんが思った時は、ちゃんと諦めるから、


  • No.125 by ギデオン・ノース  2022-07-29 14:31:11 




(ことり、と何か置いた音がしたかと思えば、横から白い手が伸びてきて、ギデオンの顔を優しく包み込むように捕まえる。そちらを向かされたそのままにようやく相手と顔を合わせれば、どこまでもまっすぐで温かな、相手の怒りの表情に困惑を。しかし、艶やかな唇が懸命な言葉を紡ぎ、一拍ののちに真剣な愛を告白すれば、曖昧に揺れていた目を大きく瞠り。……そして、続く問いかけと、吹っ切れたような明るい笑みを浮かべての懇願に、今度は一転、どこか痛みをこらえるような苦々しい色を浮かべて。)

……そんな風、には、

(反射的に開いた口がごく曖昧に否定しかけたのは、“どうしても好きになれないと思うなら”という部分だった。そんなことはあり得ない。彼女を少しも好くことができないなら、今夜こうして真剣に向き合う機会を作ろうとすらしなかっただろう。……ヴィヴィアンのことを、なんとも思っていないわけではないのだ。むしろ、憎からず思うからこそ、一歩間違えればより深い情を抱き得る危機感があるからこそ、苦悩が付きまとうわけで。自分とて相手にある程度の好意を持っている、だから彼女の一方通行を理由に退けることなどできない。そして、“尊敬するシェリーの娘だから”という考えを抜き去ったところで、自分の人生にとうといだれかを巻き込めない、という自制心と諦念がまるきりなくなるわけでもない──それだけは、決して譲れない。手にしていた瓶を手摺に置き、きちんと相手に向き直ると、彼女のほうにわずかに身を傾げ、頭を寄せる。せめてもの誠意として、事情の説明を……懺悔をするためだった。目は合わせない、合わせれない。まっすぐな相手を恐れるように、足元に落としたままだ。端から見ればそれは、歳も経験も充分に重ねた男とまだうら若い娘が向き合っている図のはずなのに、ギデオンのほうだけがやけに弱々しく、情けなく映ることだろう。だがそれほどに、相手が優しく差し伸べてくれる手を今は決して掴めぬほどに、ギデオンの患う罪悪感もまた、奈落の如く深いもので。一度、心中の何かを飲み干すように目を閉じながら息を詰めると、視線を落としたまま再び緩やかに開け。小さな声を震わせながら吐きだしたのは、しかし裏を返せば、ヴィヴィアンと共にあるのは己にとって幸せになり得るという、無自覚な本音だった。)

おまえ自身を、ちゃんと見ていなかったのは……すまなかった。……だが、それでも……おまえじゃなく、俺のほうに問題がありすぎるんだ。
──何人もの、人生を……永遠に……壊してしまったことがある。今もその償いの最中で……いつ終わるかも、償いきれるかもわからない。
そんな人間の人生に、だれだって巻き込むわけにいかない。他人の人生を奪ったままで、幸せを得るなんてことは……許せないんだ。自分自身が。




  • No.126 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-30 00:38:18 




( もう見慣れてしまった、何故ビビがこんなにギデオンを愛しているのか、一切理解できないと言いたげな困惑の表情。こんな簡単なことも分からないなんて、仕方ない人だなあ──と眉を下げれば、親指で相手の頬をそっと撫で。ギデオンの曖昧な否定と苦々しい表情を、"適当に突き放して喜ぶ人なんですか"という問いにかかるものだと解釈すれば、そうでしょとばかりに、どこか得意気な表情で頷く。──ガラスの瓶と金属の手摺がぶつかる音、小さく見開いた瞳に映るのは、此方に傾いだ上半身と合わない視線、消え入りそうな小さく震える声。そんなシルクタウンで恋に落ちた凛々しい姿とは正反対の姿を見ても尚、最早相手に対する気持ちは揺らがないものとなっていた。ずっと背中を追ってきた相手に、言外に自分といるのが幸せだとさえ言われてしまえば、純粋な嬉しさに目を細めて、相手の首に手をまわす。そんなことを言われて、素直に諦められるほどできた人間じゃない。 )

──そっか、そうなんですね。……話してくれてありがとうございます。

( 手の中にあった命が、自分の指から零れ落ちていく。その絶望はヒーラーであるビビもよく知っている。だからこそ深い事情も知らぬまま、貴方は悪くないなんて言葉が、如何に無意味で軽率かは分かっていて。相手の言葉を否定も肯定もせず、指通りの良い金髪を掻い潜り、形の良い頭を撫でる手つきは、ぐずる子供にそうするような優しいもの。こうしていると、もう何年も隣にいるような気さえしてくるが、シルクタウンからまだたった3ヶ月、ギデオン自身が許せないと言うならば、今のビビにできることはないだろう。それでも心からギデオンを幸せを思っている、その気持ちが伝わるよう祈って腕に力を込めると、抵抗されなければそのままギデオンを抱きしめて。 )

ねえ、ギデオンさん。その償いが終わるまで、待っててもいいですか?
……ダメって言われても、もうギデオンさんとじゃなきゃダメだから、手遅れなんです。
責任取って、ちゃんと……私とじゃなくてもいいから、幸せになってください。


  • No.127 by ギデオン・ノース  2022-07-30 04:44:27 




(言葉少なな自覚は、あった。ここできちんと話さなければ、だがやはり知られたくない──そんな葛藤がありありと滲む、自分勝手で独り善がりな言い回しばかりだったことだろう。だからギデオンの説明は、非常にわかりづらいものだったはずで。更なる詳しい説明を追求されるのではないかと自業自得な恐れに陥り、しばらくの間押し黙っていたのだが。……相手の反応は、予想とは大きく異なった。するりと細腕を回してきたかと思えば、暗がりで蹲る子どもをあやすように、ギデオンの頭を緩く、優しく、愛しむように撫でただけ。ほんのわずかにしか打ち明けられないギデオンの拙い言葉に、穏やかな相槌を打っただけ。あまりに慈愛に満ちたそれらに、最初は唖然としていたのだが。やがてギデオンの表情は、どこか敗北の色を宿したような、彼女の温もりを黙って味わうだけのそれへと変わっていき。体から、余計な力が抜け落ちていくのを感じる。──努めて堅く閉ざしていたはずの何かが、急速に、ほどくように融かされていくのを感じる。それでいて、それを食い止める気にはならないところに、彼女に抱きつつある己の感情の正体を、ようやく自覚しはじめていた。だから相手が、ほんの少しだけヒールを浮かせて温かく抱きしめてきても、返すような反応こそしないが、拒むような身じろぎも何ひとつ行わず。ただされるがまま身を寄せ合い、互いの吐息さえ感じ取れるような距離感で、相手が募らせる言葉にそっと聞き入る。……責任も何も、自分なんぞに惚れたというのなら、それはヴィヴィアンの勝手だ、なんて、先ほどまでなら言えたかもしれないが。こんな風に彼女の腕に優しく囚われた状態では、とてもじゃないが、そんな暴言を吐く気になれない。だから代わりに、ゆっくりと目を閉じてから、彼女の小さな頭に自分の頭をかすかに寄せて。一度だけ、ごく小さな声を落とす。それは聞こえこそ投げやりなようでいて、確かに彼女の要望を受け入れるもので。)

…………。……おまえの、好きにしろ。

(──歴然とした歳の差、相手が敬愛する師の娘であること、そして何より……到底消えぬ、己の罪深い過去。そのすべてが原因で、彼女の想いには応えられない。応えてはいけないという考えは、依然、決して譲れない。しかしそれを承知して尚、ヴィヴィアンもまた、ギデオンを慕い続けることを、諦められないというのなら。……互いに相手のそれを認め、互いなりに受け入れるのが、きっとひとつの落としどころなのだろう。幸せになって、という言葉には、今はやはり何も返せないが──長年患ってきた自罰の意識は、そう簡単には拭い去れないものなのだが。自分とじゃなくてもいいから、という言葉に切実な願いを感じてしまえば、どんなに野暮なギデオンとて、頑固に否定したりはしない。相手がくれるあまりに多くの祝福を、ほんの少しだけ、受け取ろうという気になっていた。……そのまま、どれほどそうしていただろう。不意に耳に届いた特徴的な音に、ふとそちらを見上げると。いつの間に始まっていだのか、風流のある派手な破裂音を鳴らしながら、色とりどりの大輪の花火が夜空一面に咲き乱れていた。これを観に来たはずだというのに、どうやら完全にそっちのけになってしまっていたらしい。密着していた体をごく自然に離し、しばし夏の風物詩に見とれてから、正面に立つ相手に目を戻すと。曇りのなくなった凪いだ声音を聞かせながら、足元の紙袋を抱え上げ、空いたベンチのほうを緩やかな身振りで示して、すっかり忘れていた夕餉に誘い。)

……冷める前にこいつを食べよう。飲み食いしながら眺めるってのも、悪くない。





(/たびたび背後が失礼します。花火デート編もきりよいところに差し掛かってきたので、今後のご相談をしに参りました(今回、ギデオンの心情をいつにもましてみっちりじっくり描写させていただきましたが、互いに対する愛情が着実に深まっていく過程を彼とともに追うのがたまらなく楽しく、何度も何度も読み返しております。特に今回のビビの慈愛の深さと言ったらもう……! いつも素晴らしいロルや展開をくださり、本当にありがとうございます)。

主様の方で、花火デート編の最後をこんな風に締めたい、この話が明けたら次はこんなことをしたい、などなど、イメージしているものはありますでしょうか? 当方もいくつか先の展開のアイディアはあるのですが、いかんせん直近に向きそうなものがなく……! もしあれば、是非是非お聞かせいただけると幸いです。)




  • No.128 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-07-31 00:28:18 



……、はい、覚悟しておいてくださいね。

( ──絶対に諦めてあげないから。相手の根負けしたような投げやりな言葉にくすくすと笑えば、最後の一言は口にせずとも、腕に込められた女性にしては逞しい力が、そのちょっとやそっとじゃ諦めないビビのしぶとさを表している。ギデオンはその大きな手を周りの人々には差し伸べておいて、自分は誰の手も借りずに1人で生きていこうとする人だ。選ばなくても良い辛い道を、彼を助けたい人間の手を振り払って1人で進んで行ってしまう。だから、そんな彼がすぐ隣の楽な道に気がついた時、其方へ突き飛ばしてあげるために。もし気づかずに茨の道を歩ききってしまっても、振り返った彼が一人ぼっちにならないように。1人くらい迷惑がられても、受け入れられなくても、執拗くついてくる人間がいたっていいだろう。相手が鍛えられたギデオンでなければ苦しく感じるだろう程に、痛いほどの愛を思い知らせるように、ぎゅう、と相手を抱き締めれば、夜空に大輪の華が弾ける音に、ビビもまた今日の目的を思い出し、そっと踵を地面に下ろした。 )

……!…………違うんです。
最近ずっとあまり食欲なかったんですよ。そしたらダイエットにも丁度いいし、別にいいかなって……
今日も昼のケバブサンドだけで……なんで急に、

( 回していた腕もそっと下ろし、数秒間程うっとりと空を彩る光を白い顔に反射させていれば、足元から上がった紙袋の擦れる音に、口でする前に腹の虫で返事を。こんなに豪勢な花火の、ほんの一瞬の間をついて出た音に、咄嗟に何に対するものかよく分からない否定を口にすれば、先程までの慈愛に満ちた穏やかな表情はどこへやら、後れ毛がふっくらと揺れる項まで血の色に染めると、口元を手の甲で覆って視線を逸らし。"健康的な"自身の胸元や太ももを見下ろせば、何が悲しくて惚れた男に目方の話をしているのか、と増える墓穴に今更涙目になって。 )


( / お世話になっております。程よいタイミングでのお声がけありがとうございます!(こちらこそギデオン様の揺らいでいく様子や、弱さの中に揺るがない誠実さに、ビビ共々心臓を鷲掴みされておりました。愛しさを掻き立てる心情描写、本当にありがとうございます。)

花火デート編の締め方については、これから大きな展開を起こすよりは、祭りの後片付けの仕事など囁かな『また明日』を約束するような、日常に戻っていくちょっぴり切ない、祭り最終日の雰囲気を楽しめればいいなと考えております。
今後については、黒い舘編の前に、ギデオン様の過去の女性と関わるような展開があっても良いかなあと。また若干時間軸が前後するのですが、以前仰ってたダブルベッド・デレる前 編もやってみたく……!今度こそ潜入先で夫婦漫才をすることになった2人も見てみたいです。ここ数回、ビビが強い展開が続いたので、演技と言えどギデオン様に自分の女扱いされてタジタジになればいいかと()

・箸休めの番外、ダブルベッド事件
・ギデオン様の過去の女性&夫婦漫才
・黒い舘編

の順番ですとスムーズでしょうか。個人的にビビはギデオンの過去の交友関係の派手さに、うっすら気づいているつもりでロルを回しているのですが、ギデオン様としては矢張り知られたくないものでしょうか…… )


  • No.129 by ギデオン・ノース  2022-07-31 04:35:28 




(しっかりと、逃がすまいとするかのように強められた抱擁は、彼女らしい宣戦布告にも感じられ。それならば甘んじて受け入れようと、目を閉じたまま、それを味わい続けていた。──だがしかし、ひとたびその時間が終わればどうだ。彼女の腹から上がる間の抜けた鳴き声、途端にぼっと赤くなる顔。わたわた取り繕おうとしてますます墓穴を掘っていく、恥ずかしそうに覆い隠された口元。先ほどまでとはまるで別人の、どこにでもいる初心な若い娘の姿に、思わず可笑しそうに噴き出して。)

ダイエットって、おまえ……別にそれ以上痩せる必要はないだろ。連日働き詰めだったんだ、空腹ならちゃんと食べたほうがいい。

(最後のひと言を付け加えたのは、やはり面倒見の良いギデオンらしい気遣いの声。とはいえ、相手の食欲不振の原因は自分自身に他ならないなのだが、それを察する力があれば、そもそもここ2週間のような事態は起こらなかったはずで。──手摺のビール瓶を取り、目を潤ませる相手を連れて長椅子に腰を下ろすと、紙袋の中身を取り出していく。幸い、どこの飲食店でも重宝される保温効果の無属性魔法が袋にかかっていたようだ。焼き立てではなくなったもののまだ温かいそれを彼女にも渡し、ようやく夕食にかぶりつく。昼間ほどの衝撃はないにせよ、やはり不思議な美味しさが舌の上に広がれば、自然と心も軽くなって。「この店のは美味いな」だとか、「これはビールに合う」だとか、ラムの串焼きを差し出しながら「このところ食べてなかったならもっと肉を食っておけ」だとか。夜空にはじける極彩色に照らされながら他愛もない会話を交わす、穏やかな時間が過ぎていき。)





(/今後に関する方向性のご共有、ありがとうございます……!

まずは今の花火デート編について。こちらも先ほど交わした対話が今夜いちばんの見どころと感じておりましたので、主様の案に賛成です。それではこの後は、ほどほどにダイジェストしながら結びへと向かっていきますね。

またこの先の大きな展開について、これもすべて大賛成です。
実は提案したはずの自分自身、目の前で起こるギデオンとビビの関係変化に目を奪われてすっかり忘れていたもので……ダブルベッド事件について覚えていてくださり、ありがとうございます。時間軸が前後するとのことで、今夜の会話よりも前、ということでよろしいでしょうか。過去ログを追って時系列を整理したところ、挿入できるとしたらグランポート編終了~花火デート編開始までの空白の1カ月辺りになるのかな? と考えまして。具体的な背景に関する、ちょっとした提案が。


●アーヴァンク討伐編

グランポートからようやく帰る日。ギデオンとビビは行きと同じように船に乗り、2日ほどかけて遡上するはずだった。ところが途中で、川の水位が何故かどんどん下がっていき、ついに船が止まってしまう。
原因は上流に出没した魔獣、アーヴァンク。青黒い大きなビーバーのようなモンスターで、その怪力により岩を運び、ダム型の巣をつくる。キングストンに帰るための運河は、このアーヴァンクの営巣活動によって堰き止められてしまったらしい。
正式に依頼されたわけではないが、冒険者としてアーヴァンクを討伐することに決めたギデオンとビビ。しかし実はこの魔獣、極端にメスが少ないたためにオスはほぼ万年女日照り。そのせいか、人間の美女──とりわけ、ビビのような若い娘に目がないという害獣だった……


箸休めということで、要所要所飛ばしつつやるのがいいかなあと考えているのですが……進行不能に陥った夜、船の乗客たちが1か所の宿に押し寄せたせいでダブルベッド事件が勃発するだとか、ビビがアーヴァンクたちに惚れられて巣に攫われてしまうだとか、害獣のくせにビビにだけやたら紳士なものだからギデオンが若干イラっとするだとか、ギデオン相手だとガチ戦闘を繰り広げたくせにビビの可愛いお願いひとつでアーヴァンクたちがコロッと撤退するだとか、そういったコミカルな要素を楽しめればと想像しております。
またそれ以外にも、初めてビビだけでギデオンの肩を診るシーンも挿入して、戦場でもないのに見ることになったギデオンの上裸にやたらどぎまぎしてしまうビビが見てみたかったり。背後の欲望盛りだくさんなのですが、主様敵に如何でしょうか……?

ギデオンの昔の女の登場&ビビとの初夫婦漫才、も是非やりたいストーリーです……! 時計台での会話である種吹っ切れたギデオンが、鈍感かつ遠慮なしに、往年の手練手管を発揮してしまう流れになるでしょうか。紳士全開のギデオンにたじたじになるビビ、絶対可愛い絶対見たい……。夫婦を演じる必要に迫られる一環として、何かしらの上流階級のパーティーに正装で潜入する、なんていうのも良さそうです。

ギデオンの過去の女性関係についてですが、彼自身はやはり、今や意中の相手+無垢な乙女である(と思っている)ヴィヴィアン相手に、若いころの爛れた奔放さは隠したがるとは思います。ですが背後の方は、薄々察されていることも、何なら次第にがっつりバレていく展開すらも大歓迎です()。
これは私得妄想なのですが、“あるクエストのために仕方なく、12年前の事件以降時々利用していた娼館を訪ねたところ、かつて指名していた嬢に「なんでお店に来てくれなくなったわけ……?」なんて甘ったるく絡まれていた場面で、同じく仕事でやってきたビビとばったり鉢合わせてしまう”……というような修羅場があったりしたら最高に面白そうだなあ、などと以前から思い描いておりました()。その回では依頼達成のためにあらゆる人脈を頼らねばならなかった結果、単なる水商売の女性だけでなく、各地の別業の女性たちをも好き放題ひっかけていたこと、むしろそっちのほうで有名ですらあったことなどが、ぼろぼろバレてしまえばいいなと。今は完全に落ち着いた上ビビひとりに本気になりはじめたのに、過去の悪さが今さら自分の首を絞めてくるせいで悶絶するイケオジはいいぞ……! 「あの」ギデオンが本気で惚れた相手がいると聞きつけた「昔の女」たちが、ビビをやたら可愛がったり心配したり、或いは嫉妬してちょっと意地悪したり、なんてこともあるかもしれませんね。
この辺り、ビビの抱き得る心情や主様ご自身の許容範囲に合わせて、もっとマシな程度に緩和したり、逆により過激にしたり、といった加減の変更が可能です。何にせよ、ギデオンには酷なようですが背後は大変乗り気である、ということをお伝えさせていただきますね。)




  • No.130 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-01 00:47:27 




……狡い。見てないから言えるんですー、もう脱いだら凄いんですから。

( 一瞬正気に戻りかけていたにも関わらず、遠慮なく噴き出してくれたギデオンに拳を握り「酷い!笑わないでくださいよ!」と抗議すれば、サラリと痩せる必要ないと言いのける相手に、ムッとした表情で頬を染め。照れ隠しに投げやりな自虐をしながらベンチに向かえば、それでもちゃっかりギデオンの隣にピッタリと腰を下ろすあたりが強かで。その見せかけの不満顔も、ギデオンの差し出したサバサンドに被りつけば、輝く目とともにアッサリと霧散する。小さな口を必死に動かし、しっかり飲みこんでから「ギデオンさん、これ凄く美味しいです!」と、周りを意識した声のボリュームで、それでもその感動が溢れんばかりの表情をギデオンに向ける辺りが、隠しきれない育ちの良さを感じさせ。以降も慣れない串焼きに苦戦したり、次に上がる花火の形を予想したり、本当に他愛もないこの幸せな夜を、ビビはこの先何度も思い出すこととなるのだろう。そして迎えたフィナーレ、白金の花火の群れが薄い煙となってパラパラパラ、と落ちる火花の最後まで目に焼き付けると、そっとギデオンの肩に頭を乗せて。 )

ギデオンさん、お祭り楽しかったですね。
──我儘聞いてくれてありがとうございました。

( トネリコ、白檀、ドワーフの蒸留酒、それから少しだけ、大好きなギデオンさんの香りに瞳を閉じて。まだ明日一日、祭りの後片付けが残っていることは承知の上で、油分を拭った手をグッと前に伸ばせば、この二週間の気苦労を流すような長い長いため息を。 )


( / 今後の展開についてご理解ありがとうございます。

花火デート編について、二人の互いを思うゆえのすれ違いに、もどかしい気持ちもありましたが、背後様の素晴らしい描写で、此方まで異国のお祭りに参加できたような、このご時世にとっても楽しい時間を過ごすことが出来ました。本当にありがとうございます!

ダブルベッドについては、当方かなり楽しみにしており笑
花火デート編で思いのほか早く二人の関係が進み始めた時は、嬉しく感じつつもどうしたものかと考えておりましたので、時間を遡る提案にご賛同いただけて安心致しました。
具体的なタイミングや、展開は背後様のご提案が今回も非常に素敵ですので、是非そちらでお願いします!細かいご提案も想像するだけで楽しそうで、今からワクワクしております!

女性関係についてのギデオン様のスタンスもありがとうございます。
若い頃のヤンチャに首を締められているイケオジは当方も性癖ですので、今から非常に楽しみです。付き合ってるわけでもないのに、冷ややかな視線を向けるビビと、言い訳をするギデオン様に、付き合ってないんだぜ、馬鹿みたいだろって訳知り顔するモブになりたい人生でした()
お着替えの提案も非常に魅力的で、ビジュアルの良い2人の正装を想像するだけでテンションが上がって参ります。

此方はベタなご都合設定や、ある程度色っぽい展開も好物ではあるのですが、ロルの経験が少ないのと、セイチャの規約もございますので、その都度、色気は話し合いつつ進めて行ければ幸いです。
それでは引き続きよろしくお願い致します。 )


  • No.131 by ギデオン・ノース  2022-08-01 23:19:43 




(無意識に男を煽る発言は、相も変わらず不用意に出てくるようで。他の野郎にもこんなことを言ったりしてないといいんだが……などと、甚だ見当違いな呆れ交じりの吐息をつくものの、おざなりに聞き流す己の表情が仄かに柔らかいのは自覚していた。そうしてのどかに過ごす建国祭最後の夜も、あっという間に終曲の時刻。神木ガオケレナの花を模した、一際巨大な花火の残滓が、宵闇に淡く溶け落ちていく……その様を、何とはなしに無言で見届けていたところ。ふと肩に乗った心地良い重みに、一瞬だけ呼吸を止め、それからわずかに頭を動かすようにして見下ろす。近すぎて顔は見えないが、どうやら満足しきった様子の相手が控えめにもたれかかり、彼女なりにごくささやかに、ギデオンに甘えているようだ。──再び、胸の奥でふと湧きあがる未知の感情。しかし今は、それを過剰に封じ込めることはせず、かといってそのまま味わうでもなしに、水面下でただ見過ごすことにする。……今の自分たちの有様は、端から見れば完全に誤解されてもおかしくない。とはいえ、運良く人目などないようなもの。そしてこの2週間のことを思えば、今夜、今この瞬間くらいは、特別に許してやるべきだろう。彼女のしおらしい声に、いつもとは違う穏やかな吐息をひとつ。「我儘も何も、勝ちは勝ちだからな」と、昼間の己の見事な慢心ぶりを思い出しては、若干遠い目をして呟くが。自身もまたその目を閉ざすと、ベンチに深く背をもたれ。軽く天を仰ぎながら、ようやく得られた安心がありありと滲む一言を。)

……、明日からまた、よろしく頼む。


(──そんな、長いようであっという間だったひと夏の日々から、遡ること3週間前。今思えば、建国祭での決定的なすれ違いは、このとき既に予兆があった。何かと言えば、やはり原因はギデオンの発言にある。魔物ファーヴニルや悪党レイケルとの戦いを切り抜けた帰りの船にて。蜃気楼魔法により体力を酷く消耗したヴィヴィアンを案じたつもりが、まるで下手糞な子ども扱いをしてしまった。うら若くも誇り高いヒーラーは当然の如く憤慨し、ちょっと深刻な気まずい空気がふたりの間に初めて生じる。しかし、その後の慌ただしいあれやこれやや、グランポートの医者が柔和な顔で言い放った「あなた死にます」的発言により、何だかんだで有耶無耶に。“彼女自身を一個の人間としてきちんと見ていない”という問題を、ギデオンはもっときちんと考えねばならなかったのに、建国祭を翌週に控えるころには頭から抜け落ちてしまうほど、とにかく他の厄介ごとが多かった。そしてその極めつけが、キングストンへの帰路で遭遇したあの事件だ。……忘れもしない、あの忌々しい害獣どもの騒ぎである。
グランポートの立て直しのために滞在を延長していたふたりだったが、これ以上はそれぞれの冒険者業に差し障るということで切り上げさせてもらい、いろいろ手土産を持たされながら港に別れを告げたその日。実に半月ぶりの乗合馬車に揺られた後、キングストン行きの旅客船へと乗り込んだまでは良かった。行きと違い、運河を魔力で遡上する帰りはどうしても時間がかかる。とはいえ、二泊三日の船旅はすぐに終わるだろうと高をくくっていたのだが、状況が変わったのは二日目の夜。何やら騒がしいと船室の外に出てみたところ、船乗りたちの顔がわかりやすく蒼白だ。このところ日照りはなかったのに、と言い合うところを見るに、どうやら川の水位が極端に下がっているらしい。このまま強引に運航すれば転覆しかねない、ということで急遽着岸し。山中そこそこの距離を歩き、それでもいちばんの最寄りだという宿に身を寄せることとなったのはまあ仕方ない。そこから先に、問題がみっつ。ひとつ、通過していたその地域は山間の小さな田舎町であり、人を泊められるような宿はその小規模な一軒しかなかったこと。ふたつ、宿を満杯にするほどに船の旅客が多かったこと。……つまるところ、ギデオンとヴィヴィアンは鍵をひとつだけ渡されたのだが、これだけならまだ、真顔で無言に陥りつつも、未婚の娘と同室というのはかなりまずいのではと思案しつつも、空きがないなら仕方ないかと、どうにかぎりぎり飲み込めた。みっつ目、最後の大問題は──割り当てられた部屋の扉をがちゃりと開け、燭台に明かりを灯してみれば。部屋の中央にどんと鎮座しているのは、まあまあな広さのダブルベッド、それがどこからどう見てもたった一台ということで。宿への道中湧いたモンスターを率先して倒した疲れの残る体が、旅荷を肩に引っ掛けたまま、「…………」とわかりやすく硬直して。)





(/進展が嬉しい一方ですれ違いやその他の都合が悩ましかったの、とてもよくわかります……! 次の詳細についても採用ありがとうございました。今回のストーリーの余韻をたっぷり味わいつつ、早速その方向で誘導させていただきますね。
ギデオンのやらかしについても概ね問題がないようで安心いたしました。規約順守はこちらも大事にしたいなと考えておりますので、世界観のスパイスになる程度、過分には効かせぬ程度をともに探っていければと思います。こちらこそ引き続きよろしくお願いいたします……!/蹴り可)




  • No.132 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-03 01:11:20 



( そもそも賭けに乗る義務はなかったにも拘らず、ビビとの関係修復のために乗ってくれたことへの感謝でもあったのだが。遠い目をした彼の優しい吐息に昼間の相手、こちらが煽ればすぐにムキになり、その後負けるとも知らずに余裕綽々と微笑んでいた、その可愛らしさを思い出せば「それもそうですね、」と小さく吹き出して。相手との距離感を探るように寄せた額が拒絶されず、相手の声に安心が滲むのに、この一週間と比べれば凡庸で、されど愛しい人の隣にいられるこれ以上ない幸せな日常の帰還を悟れば、えへへ、とこの世の幸福を詰め込んだような柔らかい笑い声を漏らし、「勿論です!」と、頭を硬い肩に小さくこすりつけ、触れることを許された温もりを堪能した。 )

──ギデッ……ギデオンさん!息してください
何かの間違いですよ、私奥様に言って来……マジか、

( そのあからさま( も何も、宿の部屋にベッドがあるのは当然なのだが。 )に置かれた大きなベッドに、思わずヒュッと息をのむ。ビビもまた、怪我をしたばかりのギデオンが、グランポートの事後処理に、あちこち駆り出されるのを心配し、帰ってもまた依頼が待っていることは分かっていても、本拠地であるキングストンへ帰れることを非常に嬉しく思っていた。その思いの強さといえば、不可抗力で止まった船に珍しく、身勝手な苛立ちさえ覚えたほどで。故に、安全とは言えなかった山道を、なんとか他の乗客を守り抜き、明らかにこの人数を泊めることを想定していない、こじんまりとした宿へ着いたとき、渡された鍵の本数が表す意味など目に入っちゃいなかったのだ。脳内にあったのは、やっとギデオンさんを休ませてあげられるという安堵と、今晩の診察についてだけ。ギデオンの背後につき部屋の鍵を回す段になって、やっとその違和感に気が付けば、次の瞬間視界に飛び込んできた、ふぁーお、とハート付きの効果音が聞こえそうな光景にめまいさえ覚えて、思わずギデオンを見上げる。その一切動じた様子のない涼しい表情に、一瞬自分がおかしいのかと常識を疑い掛けるも、すぐに相手のそれが完全な硬直だと気が付けば、自分より動揺している人を見ると人間何故か落ち着くもので。微動だにしない相手の顔の前で手を振り、変な空気にならないよう努めて爽やかに、入ってきた扉を逆に開けるも、たまたま廊下にいた小太りの女主人が「すみませ……もう、部屋はそのっ」と蚊の鳴くような声で縮こまるものだから、ニコッと得意の笑みだけ残して、静かにそっと扉を閉じる。思わず漏れたビビらしくない俗っぽい語彙は、結局出航までに二度ほど夕食に招待された被害者少年の影響だろう。仕方なく、もう一度与えられた部屋を見回してみれば──そもそも何がまずかったのかしら。むしろチャンスじゃない?グランポートでもその恵まれた肢体を使って、ギデオンを誘惑しようとしたじゃないか。ビビの気持ちにこたえる気がない相手は多少困った事態かもしれないが、その視線が案外露骨に胸元に滑ったり、押し付けられれば一瞬不快とは違った意味で強張ることをビビは知っている。一瞬の間にたどり着いた結論は、後から考えればやはり動揺してどうにかしていたとしか思えないそれだが、今ばかりは天啓とさえ思えた。ペタペタとダブルベッドに近づけば、いっそ今すぐにでもわざとらしく乗ってしまおうかと思ったが、洗ってない体で触れるのは気が引けて、自身の荷物を床に置きながら脇のスツールに浅く腰を掛け。白々しく相手を振り返れば、あざとく小首をかしげて。 )

……まあ、空いてないなら仕方ないか。
肩の調子は……シャワーの後の方がいいですよね。ギデオンさんお先にどうぞ。


  • No.133 by ギデオン・ノース  2022-08-03 03:15:44 




(背後でぱたん、と、扉が控えめに閉まる音。女主人の酷く萎縮した声は、こちらの耳にも届いていた。ヴィヴィアンが珍しく崩れた言葉遣いをするが、ギデオンも完全に同意で、ようやく硬直が終わったかと思えば、俯きながら片手で頭を抱えてしまう。……今になって、女主人の倅らしき小男が鍵を渡してきたときの、憎むような羨むような、妙な視線の意味を知る。労働力が必要な田舎の夫婦は、大抵子沢山だ。そのため、夫婦ふたりで大切な時間を過ごす際には、子どもたちに気取られてしまわぬようにと、わざわざ同じ村の宿に外泊することも少なくない。おそらくこの部屋はそういう客向けなのだろう、手狭かつ質素ではあるものの、少しだけ良い雰囲気の内装をしていた。しかしそんなのは困る、完全に無用の長物である。ヴィヴィアンはあくまでも後輩……もう少し言えば、シルクタウンとグランポート、2回に渡って良き連携を果たしてくれた相棒だ。──間違っても恋人ではない。こういう部屋に通されたところで、すこぶる居心地が悪くなるのが関の山なのだ。どうにか抜け道はないかと頭を回しかけたところで、不意に聞こえた無邪気な足音に顔を上げる。自分と違って気後れのないらしい彼女が、すんなり腰を落ちつけるのを、表面だけは無感動な眼差しで眺めれば。体を緩く捻って小首を傾げる相手の姿は、燭台の揺らめく灯りも相まって、いつか見た絵画にあったような、妙な美しさを放って見えた。しかし、そんなミューズがさらりと口にした言葉には、しっかりと流されない。途端に真面目腐った表情になって「ダメだ」の一言、引っ提げていた旅荷を自分も床に下ろす。麻紐で縛った着替えを取り出せば、しゃくって見せたのは浴室ではなく扉の方。相手の優しい申し出にも拘わらず、頑固に一定の距離を置く構えで。)

多分、どこかに共用の風呂場があるだろ。俺はそっちで済ませてくるから、お前はここでゆっくりすればいい。……21時くらいには戻ってきて大丈夫か?



  • No.134 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-03 10:06:39 



──ダメですよ
共用なんて休まらないでしょう

( あちらも相当な頑固なら、こちらだって強情度合いでは負けていない。部屋について早々出ていこうとするギデオンを、扉の間に体を滑り込ませて阻むと、上目遣いに小さく睨んで。その行動には勿論下心も含まれてはいるが、グランポートのあの夜から休みなく駆け回っているバディへの、純粋な心配が殆ど。最初こそダブルベッドに驚きもしたが、観光地もない田舎にしては小綺麗で、雰囲気のある部屋の意味も知らずに、休むことを知らない相手を休ませるには丁度良いと感じ始めていて。丁度、今日の診察用の魔法薬の用意のついでに、カミツレを使ったリラックス効果のある香油も作ってみてはいた。香りが苦手でなければ使って欲しいと渡すつもりでいたが、この部屋で使えば燭台の照らす暖かい薄暗さと相まってゆっくり眠れそうだ。下心で呼び止めたにも関わらず、最早相手を休ませることばかり考えているあたりは、警戒心のなさと職業病、目的のために周りが見えなくなる性格、全てが災いしていると言ったところ。なんにせよ、ギデオンが良からぬことを考えるなんてことは一切思いもせずに、相手への厚い信頼を表情に浮かべ半歩相手に近寄れば、アッと気づいた様な顔をして、的外れもいい所な斜め上の心配をして見せて。 )

──覗いたりなんてしませんから、安心して入ってきてください。
もし心配ならギデオンさんが入ってる間、私が外で時間潰してますから。


  • No.135 by ギデオン・ノース  2022-08-03 11:17:35 




……どうせ一晩かそこらで済む予定の宿泊だ、まともな休みならキングストンに帰ってからでも充分間に合う。

(ギデオンの言葉を聞くなり、サーペントのような素早い身のこなしでやってきて、絶対に通しませんよと強情に立ちはだかる相手。そうは言っても、同室でシャワーを済ませるのは流石にこう、いろいろとダメだろうと、ギデオンもぐっと譲らない。それがますます相手の心配を煽り立てるとも知らずに言い返し、共に危険を乗り越えた相棒同士でありながら、しばし相手を睨み合う奇妙な時間が続いたのだが。はっと表情を変えた相手が言い放つ頓珍漢な台詞、それにまるまる虚をつかれたような顔をしてから、思わずがくりと脱力してしまって。──毒気を抜かれたというか、なんというか。よく飽きもせず自分に構いつけているなとは常々感じているが、勿論そんないかがわしい真似をするような人間だなんて思っちゃいない、そんな心配はしなくていい。年頃の女性としてむしろこちらのほうを警戒してくれ、と言いたいのが山々だったが、それをわざわざ口に出す気力もないほどあらゆる意味で疲れていたのも事実で。数秒の沈黙の後に深々とため息をつき、「……わかった」と根負けした一言を。ただ、見知らぬ男たちのひしめく宿にいきなり泊まることになったとあって、相手の身の安全が心配だ。姿勢を直し浴室の方に足を向けるが、念の為、と注意事項をいくつか。それだけ伝えてしまえば、「……ありがたく頂いてくる」と、言葉に反し渋々といった様子で浴室に入っていき。)

……女将の人柄的にないとは思うが。自分たちの宿に上手いこと誘い込んで、無防備な夜中に客を襲う悪質な宿も珍しくない。部屋の外には行かなくていいから、窓辺や来客には気をつけてくれ。



  • No.136 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-04 09:24:02 



……。

( 案の定、休みを後でまとめて取ればいいという趣旨の発言をする相手に、ジトリと冷めた視線をむける。相手がギデオンだから我慢しているものの、これが調子に乗った同期なら、ヒーラーとして力づくで昏倒紛いでも強制的な休息を取らせるところ。しばし続いた睨み合いの末、少々ビビの反則感は否めないが、毒気を抜かれた様に溜息を着いた相手に、にっこりと強かな笑みを浮かべて。 )

はあい、──ギデオンさん、お父さんみたいですね。

( 浴室に足を向けたギデオンに、こちらも荷の整理に入ろうとして、かけられた忠告に振り返り。その子供にかけるようなそれに、一瞬キョトンと目を丸くするも、素直に荷物の中から自分の杖を取り出せば、これでいいかと問うように握って見せ。それから──それから、本当になんの悪気もなく、あまりに妙齢の男心に容赦ない一言を放つ様は、ギデオンへの安心と信頼に溢れた素なのだから余計にタチが悪い。ビビもまた口では好き好きと言い募るものの、安心出来る大人の男性に特別心を許しているに過ぎない面も無自覚にあって。ともかく、「いってらっしゃーい」の返事と共に、へにゃりと笑いながら相手を見送り、戻る頃には化粧品やら衣類やら、部屋の一角に、明らかに女性が滞在しているとわかる、よく整頓された空間が出来上がっているだろう。 )


  • No.137 by ギデオン・ノース  2022-08-05 03:26:15 




(“お父さんみたい”。そのあまりに無垢で残酷な喩えに一瞬びしりと固まったのは、致し方ないことだろう。先ほどまであった不承不承の表情には滑稽にもひびが入り、青い目の奥にはある種の衝撃がはっきりと浮かぶ始末。相手の温かな送り出しにもかかわらず、最早何も言わないまま黙って浴室の扉を閉めると、ひとりきりになった狭い空間でまずは虚空を見つめ静止。それから鏡台のほうを向き、両手をついて自分の姿を覗き込むように眺め。(まあ、そうだよなあ……)とどこか虚ろな眼差しをしてから項垂れ、先ほどの件を受け入れようとはするのだが。まだぎりぎり──本当にぎりぎり、かろうじて数年程度は余命があるのではないだろうか。心のどこかで自然にそう考えるのも事実、しかしそれは己の下らない矜持に過ぎない気もして、自分の愚かしさに余計気が滅入りそうだ。なんだかもう無駄に満身創痍である。このありとあらゆる疲労を無理やりにでも押し流そうと、ぐっと表情ごと切り替えて装いを解けば、とびきり熱い湯を浴びることにして。──十数分後、さっぱりして出てきたギデオンの格好は、紺色のシャツに緩やかな浅葱色のズボンといった、外を出歩いてもおかしくはないタイプの夜着。まだ髪が多少濡れているが、首元のタオルを適当に掻き込んでおけばすぐ乾くだろう。先ほどまではなかった可愛らしい雰囲気の一角を見て、ほんの少し面食らった顔をしたものの、「待たせた」と声をかけ。自分も剣の手入れ道具を取り出すべく荷をほどきつつ、一応の連絡を。……未だ業務連絡以外の会話が切り出せないところに、相手との距離を掴みあぐねている心理が実は表れているのだが、その自覚も改善も、もう少し後の話になろう。)

温度調節はちゃんと戻したつもりだが、最初はまだ熱いのが出るかもしれない。それだけ気を付けて、ゆっくり入って来てくれ。




  • No.138 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-05 13:05:22 




( 自身の不用意な発言が相手に与えた衝撃に気付かぬまま、と言うよりは、女としてのビビに大して興味のないギデオンが、今の発言を意に介す訳が無いと考えているようで。そんなことより、目下の問題である自身の寝巻きの前で腕を組めば、隣から聞こえるシャワーの音に気まずくなる余裕もなかった。テキパキと荷の整理を終えて、最後に取り出した今晩分のそれは、洗いやすさと速乾性、機能性に全振りした可愛らしさの欠片もないもの。そもそも男物のタンクトップと、紐で縛るだけの簡易なホットパンツはどちらも薄手で、ただでさえ気まずい一室でこれがよろしくないことくらいはビビでもわかる。──シスターに知られたら卒倒するだろうなあ、と学院時代の恩師を思い出せば、そもそも未婚の男性と同部屋な時点で手遅れかと諦めることにして。幸か不幸か、重ね重ねビビに興味を示さない上に、本人は隠しているらしいが、女慣れしたギデオンのことだ、案外涼しい顔で気にも留めないかもしれない。そう能天気に腕組を解けば、次の懸念事項を解決すべく、先程引き寄せて脇に置いておいた杖を手に取る。宙に魔法陣を描き口の中で小さく唱えたのは、グランポートで既に何度か唱えた蜃気楼魔法。これでギデオンの入浴を覗く──というつもりは毛頭なく、そもそもグランポートでは煌めきながら霧散して、ビビの姿を掻き消していたはずの魔法陣は、水蒸気にもならずに液体の水となってビビが慌てて差し出したグラスに落ちる。「やっぱりか……」と小さく唸ったのは、土地に伝わる古代魔法では良くあること。その地の魔素が発動に大きく関わっているらしく、苦労して身につけた魔法も他の場所では使い物にならないことは多々あるのだ。今回は水属性の魔法が使えるようになっただけでも、充分良しとするべきだろう。それでも、これがあればこの先どれだけ役に立っただろうと、名残惜しそうに溜息を着けば、その不純物の少ない冷えた水は、丁度シャワーを終えたらしいギデオンに差し出すことにした。 )

いいえー、おかえりなさい
ただの水ですけど良かったらどうぞ

( ギデオンの素っ気ない業務連絡も、今回ばかりは助かった。しっとりと濡れた金髪に、心做しか良い顔色、普段は油が少し抜けた質感の肌にも艶が乗って輝いている。見慣れぬ寒色のシャツもよく似合っていて、漂う同年代には出せない色香に、小さく動揺した胸中を隠せているつもりで微笑めば、「ありがとうございます」と、頬を微かに染めつつ、此方も端的なお礼をしてから逃げ込む様に浴室へ飛び込んで。そのまま、ギデオンの調節してくれた調度良い温度の湯で汗を洗い流す頃には、相手への下心とばかり戦っていたものだから、自身のあられもない寝巻きのことはさっぱり忘れていた。濡れて癖のきつくなった茶髪を下ろしたまま、ほこほこと湯気のたつピンク色の肌、頬も大きく空いた胸元も、太腿も無防備に晒して、浴室の扉を開ければ、気持ちよさそうに手で顔を仰いで。ギデオンがシャワーを浴びている間にできていた、女性の生活感が生々しい一角にぺたぺたと歩を向けて。 )

はー、涼しー……
シャワーありがとうございましたぁ
肩、準備するのでちょっと待ってくださいね


  • No.139 by ギデオン・ノース  2022-08-06 02:33:17 




……ん。

(甲斐甲斐しい声に振り向くと、唸るような返事をしながら透明なグラスを受け取り。風呂上がりの喉に流し込んだその冷水は、不思議と全身の隅々まで瑞々しく染み渡る気がした。この辺りの湧水なのだろうか、やけに美味いな、とグラスの中身を不思議そうに眺めるギデオンの頭には、もちろん真相など浮かばない──天文学的な確率で最高に相性の良いヴィヴィアンの魔力にかかれば、一般には不味いとされる魔法水さえ良い効能をもたらしたのだ。そうとは知らずに飲み干して喉の渇きを潤す間に、相手はそそくさと浴室に消え、程なくして柔らかな水音がくぐもった具合で聞こえてきた。……さて、とグラスを小机に置けば、部屋全体を改めて見渡す。部屋の面積のほとんどを占めるダブルベッドに、申し訳程度の机とスツール、窓際には革張りの一人用肘掛け椅子。心底残念なことに、カウチは備え付けられてない。防音性のために壁を厚くしているのか、出窓の框ならばギデオンひとりが横向きにゆったり座れる広さがあるが、寝場所としては向かないだろう。どうしたものか、と頭を抱えた矢先にノック音。少し警戒しながら扉を開ければそこにいたのは女主人で、良かったら、とよく冷えた葡萄の皿を差し出してくれた。背後の手押し車の中身を見るに、他の部屋にも差し入れている心配りの品らしい。気遣いに礼を述べ、ついでにロビーにでも寝かせてもらえないか頼んでみるが、お客様にそんな真似はさせられないと涙目で首を振るばかり。ならばこの辺りで野宿できそうな場所は……と言いかければ、女将は途端に目をかっ開き、「絶っっっ対にいけません!!」と猛烈な反対を食らう。夜の魔獣がどれほど狂暴かおわかりでしょうだとか、いくら腕の立つ戦士様でもまともな休息は必要ですだとか、誰かと似たような心配さえ真剣に言い含められれば、流石に観念せざるを得ないというもの。女主人が帰った後、小机の上に土産の皿を鎮座させると、とはいえどうしろと……と再び悶々と悩みながら、化粧品の類が散らばる一角から目を逸らすようにして剣の手入れをしていたが。がちゃりと戸の開く音とともにふわりと漂う甘い香り、ついでほくほくと寛いだ声。何とはなしにそちらを向いた瞬間、さながら様式美のように再び全身が石化する。しどけない、というレベルを超えて、それこそ豊穣の女神でも舞い降りたのかと疑うような光景だった。普段とは髪型の違う、素朴に下ろした濡れ髪。幸せそうに緩んだ唇、桃色に上気した頬。惜しげもなくさらけ出された、はち切れそうな胸元に太腿。真っ白な肩のまろみやしなやかな脹脛、通り過ぎざま魅せつけてくれた薄い肩甲骨の隆起なんて、呆れ返るほどに目に毒だ。おまけに風呂上りとあって、全身が真珠色に輝き、やたら魅力的な匂いがしている。──これは、完全に、駄目だろう。改めてそんな風に、やけに冷静に断ずることができたのは、単に閾値を大幅オーバーしていたからで。普段と変わらぬ涼しい顔にすっと戻ると、いきなり立ち上がり、やけに無駄のない足さばきで自分の荷物の元へ。グランポートで清潔に洗ったいつもの深紅のシャツを取り出せば、相手の顔に被せるようにぼふりと緩く放り投げる。いささか乱暴だが、自分が理性で抑え込む苦労を思えばこうもしたくなるものだ。そのまま相手を軽く睨めば、その無防備さを遠回しに叱って。)

──……、流石に気が抜け過ぎだろう。命令だ、そいつを羽織れ。




  • No.140 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-07 00:28:05 




えぇー、命令って……!

( ぅわぷ。と、避けようと思えば避けられたそれを、そのまま正面で受け止めたのは、ギデオンがいつも馴染みの仲間達としているような、荒っぽくも信頼関係を感じさせるやり取りが嬉しかったから。とはいえ、飛んでくる物体の正体を見極める様な余裕があったのは最初のみで。シャツを受け止めた瞬間、ふわりと洗剤の中に大好きなギデオンの香りを感じれば、思わず勢いよくシャツを引き剥がし。此方の動揺などつゆ知らず、涼しい顔のギデオンを見やれば、流石のビビでも自信を無くし、今晩物にしてやろうという野望はみるみる絞んでいく。そんなに魅力ないかなあ、と渋々シャツを羽織りながら、八つ当たりの様にベッドへ腰を下ろせば、ギシ、と生々しい音が部屋に響き。態とやるまでもなく、必然的に余った袖から白い指先だけを覗かせて、男女逆の合わせに一寸苦労しながら、モゾモゾと釦をかけていく。邪な野望がなりを潜めると、最初こそ渋々羽織ったそれも、憧れの冒険者のトレードマークを羽織っている事実に、素直なファン心が湧き上がり。第二ボタンまで締め終われば、嬉しそうに紅い袖をまじまじと見つめ、ぴょいとベッドから立ち上がる。女性にしては身長のあるビビでも丈の余るシャツは、胸元は普段よりも露出を抑えてくれたものの、上半身と臀部にかけての凸凹に引っかかり上がった裾は、ホットパンツの存在感を薄れさせるにも関わらず、太腿は全く隠せていない。それでも嬉しそうに自分の格好を見下ろせば、ギデオンに向き直り悪気がないからこそ凶悪な、ピクシーの様な微笑みを浮かべて。 )

──えへ、似合ってます?


  • No.141 by ギデオン・ノース  2022-08-07 15:15:11 




(不満げな声を聴き流しつつ、広い背中を彼女に向けて。荷物脇に再び屈み、布に砥石、ドリアードの油といった手入れ道具を淡々と片付けていく。その間、寝台が軽く軋む音やら、しゅるしゅると袖を通す衣擦れの音やら──何故か真逆の動作にも聞こえたが、気のせいと思うことにした──妙に宜しくない物音のせいで、秘かに落ち着かない気分を味わい。どうにか上手くやり過ごそうと気難しい顔でため息をつけば、眉間の皺を強く揉み解すことで、堅い精神統一に努める。しかし、声をかけられたからとやおら立ち上がり、彼女のほうに向き直れば。この部屋を初めて見た時と全く同じ反応、すなわち、涼しい顔を崩さぬまま数秒固まる様子を見せた。──いっそあまりに見事な墓穴だ。風呂上がりのヴィヴィアンに、自分が愛用する普段着なんぞを着せてしまったものだから。少なくとも肌面積で言えば先ほどよりマシなはずなのに、先ほど以上に強烈に煽情的で、ないはずの独占欲やら庇護欲が無理やり掻き立てられてしまう。おまけにここはふたりきりの部屋、夜の薄暗い部屋を燭台のオレンジの明かりがゆらゆらと妖しく照らす、追い打ちのような環境で。焦点を定めぬまま「…………、」と口を開きかけるも、結局何も出てこなかったのは、これ以上あれを着ろそれはダメだとうるさく言い募ろうものなら、逆にそんなにも邪な目で見ているのかと訝しがられる気がしたからだ。別に先刻の“お父さんみたい”の殺傷力をまた向けられたりしたらと考えたからではない、違う、断じて違う。結局右手を顰めた顔に、左手を腰に当てて俯き、返事のないまま数秒間沈黙してから。顔を上げた時にはもう思考をすっきり切り替え、相手の問いかけを露骨に流しながら小机のほうを指さし。今夜はもう用事を済ませてさっさと寝てしまおうと、今度は自分が寝台に腰を下ろして。)

……治療を頼む。それと、女将がさっき差し入れてくれた葡萄がそこにある。



  • No.142 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-07 23:24:29 




( あ、また固まっちゃった。確かにギデオンにとって戦況はこの2ヶ月の中でも最悪に厳しいかもしれないが、流石に処理落ちしすぎじゃなかろうか。やっぱり疲れてるんだなあと心底同情しながら、診察に向けて邪魔な腕を捲って。その間に復活し、それでも言葉を紡げずに沈黙するギデオンを鑑みれば、納得したような生暖かい視線と微笑みを浮かべ。ああ、男の子は好きよね──と、縫製のラインが余って落ちた自身の肩を見つめると、相手にも正攻法(と言うにはあまりに邪道だが)の誘惑が効きそうなことには一先ず安心した。それなら矢張り早く元気になってもらわなくては。此方は別に相手を都度フリーズさせたい訳ではないし、寧ろ辛抱堪らなくなっていただかないと困るのだ。そのためにも今晩は早く寝かせてあげようと、思惑はさっぱり違えども、計らずも2人の意向が一致して。「わぁ、急に来たのに優しい!終わったらいただきます」と早速自身の陣地に向き直った背後で、自分のより重く響いたそれが、やけに大きく聞こえた。サラマンダーの尾やマンドラゴラから抽出した軟膏を片手に振り返れば、寝台に腰を下ろしたギデオンが目に入る。その倒錯的な光景に押し倒すどころか腰が引ける辺りが、お嬢さん育ちといったところ。何か小さな拍子で今にも限界を迎え、逃げ出したくなってしまいそうな脚に内心喝を入れ、狭い室内では殆ど無かった距離を半歩詰めれば。密室で2人きり、患部を見るためとはいえ、寝台に座ったギデオンを脱がせて、その肌に触れるなんて──なんか、そんなの、駄目じゃない?相手から数周遅れの危機感に、そろそろ冷めつつあった顔色をぼぼぼっと赤に戻して深呼吸を。ただの治療行為に何を考えているんだ、男の上半身など幾らでも見てきたじゃないかと唾を飲み込もうとするも、口がカラカラに乾いて叶わない。彫りの深い甘く垂れた目元、高い鼻、経験豊かな年季を感じさせる顔立ちにかかる影が、燭台のせいでいつもよりしっとりと濃く見えて、何か見てはいけないものを見てしまった気がして思わず視線を逸らす。先程までの余裕はどこへやら、心臓はバクバクと主張し、ギデオンの顔を真っ直ぐみることすら出来ない。それでもヒーラーとして腹を括れば、ベッドの上に片膝を乗せ乗り出すも、先程もたてたはずの寝台が軋む短い音が、やけにいたたまれなくて、顔を真っ赤にしたまま、傷口の魔素を診るために、無言でシャツの上からそっと手を患部に這わせる。自分にはない筋肉の隆起にさえ動揺し、泣きそうな気持ちになりながら意識を集中させれば、良くも悪くも想像通りの残留魔素量に小さく息を吐き。患部の確認を済ませ、ふと顔を上げた瞬間、やっとその距離の近さに気がいてしまえば、他意の無い自分の指示さえ意味深に聞こえるようで、掠れてきていく語尾が余計その空気を悪化させ。 )

──……シャツ、自分で脱いでください、


  • No.143 by ギデオン・ノース  2022-08-08 00:55:24 




────…………、

(きしり、とまた発条の縮む音。見れば、あの能天気な無防備ぶりはどこへやら、明らかに今更恥じらいだしたらしい真っ赤な顔のヴィヴィアンが身を乗り出している。そのまま肩口に伸びた指先は、躊躇いが乗るからだろうか、酷くしおらしい這わせ方。かえって面映ゆいその感触に、呼び覚まされそうなものもあったが。目を閉じるだけでやり過ごせたのは、こうなったら何事もなく朝を迎えてみせようと、先ほど腹に据えたから。だから、取り立てて深い意味などないはずの作業を、蚊の鳴くような掠れ声で、語弊を孕ませて請われたときも。一瞬の間の後、ごくゆっくりと瞼を開いただけで。曖昧に投げた青い視線、薄く開いた口からは何も発さず、ただ首元に両手をやり、釦をひとつひとつ外していく。これでいい、?まれるな。ただ無心でいればいい。──そう自分に言い聞かせながらさらけ出されたギデオンの上半身は、蝋燭の揺れる明かりに照らされ、いくつもの陰影を描く。若者の瑞々しさには流石にいくらか劣るものの、日々鍛錬を欠かさぬおかげでしっかりと張りがあり、肉らしい肉などその体重の一割もない。自分たちのような職種は、鍛え上げた筋肉そのものがいちばん大事な鎧なのだと、かつて師匠に教わっていた。……その娘にこうして傷を診てもらう日が来るとは因果だな、と微かな感慨を覚えながら、相手が診やすいように上半身だけ緩くそちらに向ける。レイケルに貫かれた肩の傷は、腕のいいヒーラーのおかげでとうに穴こそ塞がった。しかし呪いのせいで治りは遅く、三つ並んだ傷口と周辺の肌はまだ青黒く変色したままだ。そこに軟膏を塗るだけなら自分でもできるはずだが、「せっかく相性の良い聖魔素の持ち主がいるんです、それごと塗りこんで貰いなさいね」とはあの意地悪な医者の助言。それを素直に実行するのは、今宵この場が初めてとなる。……しかし、初回がこんなに緊張した雰囲気では、いずれ来る二回目以降も変な空気になりかねない、それは御免だ。そう考えてふと切り出したのは、他愛もない雑談。低く落ち着いたトーンの声で、相手の緊張をほぐすべく、されど治療の邪魔にならぬよう、大した意味もない呟きを落として。)

……そういや、川の水位がおかしいくらいに下がっていたな。船員の話じゃ、こんなことは初めてで、それらしい気候の異変も全く見当たらないらしい。原因、何なんだろうな。



  • No.144 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-08 09:53:40 



──ッ、

( 無理!無理!絶ッ対無理!!自分から脱ぐように指示したにも関わらず、目の前の引き締まった上半身を前に、脳は必死に即時撤退を要求する。自分とは違う一切無駄のない美しい肉体は、まるで写本で見る古代の戦神のよう。豊かに盛り上がった胸筋は、直線的な影を鳩尾に落とし、腹もまた複数の硬質な影が、ギデオンの呼吸と、燭台の光の揺れに合わせて震えている。手から何から、全てが自分より大きくて、今この状況が許されているだけで、相手の気が変われば直ぐにでもねじ伏せられてしまうことが一目で分かる厚みの差。何より首や鎖骨、手首の発達した筋が、ギデオンの動きに合わせて、まるで精巧な機械のように浮き沈みするのが目の毒で、釦を外して袖を抜くだけの何気ない動作でさえ、癖になったらどうしてくれるんだと理不尽な八つ当たりさえ頭に浮かぶ程。熱に浮かされたような座った目で、無自覚にシャツが脱がれていくのをじっと見つめていると、緩く向けられた上半身にさえビクッと大袈裟に反応し。それでもグッと腹に力を込めて、痛々しい傷跡に視線を集中させれば、素直な心配と共に幾分か冷静さも取り戻されるようで、大分手遅れだが「ありがとう、ございます」と平静を装いながら、作り方とともに医師から手渡された軟膏の蓋を開け。その透明のスライムのようなテクスチャに、サラマンダーの魔素がオレンジ色に煌めく軟膏を指にとったところで、また問題がひとつ。この魔導性軟膏を塗り込む際に、あとから流し込む魔力の馴染みを良くするために、極小量の魔力を流し込むのだが、今この不安定な精神状況で上手くいく気がさらさらしない。そもそもこの手の調整は不得手で、そんな面倒なことをしなくても火力で流し込んだら、と言って医師からそれは冷たい視線を向けられたビビである。またシルクタウンの時のように、木造の宿に花のサークルか新芽を芽吹かせるのが関の山だ。とろみのあるそれを指で弄びながら、どうしたものかと薄目で時間稼ぎに徹していれば、ふと振られた話題にパッと顔を上げ。得てして各地の治安維持組織の管轄外の困り事を解決している冒険者は、何でも屋になりがちで。今回の異変について振られれば、流石の話題センス、寝台の上、至近距離という状況は変わらないものの、先程までの艶っぽい雰囲気は霧散して。ビビの表情も普段通りの爽やかなものに戻れば、無事右手の軟膏もサラマンダーの魔素がキラキラと金色に変色し。ギデオンに上手くやられていることに気づかないまま、傷口に伸ばす手つきは完全に事務的な、けれども心配の伝わる湿り気のない暖かなものに戻っていた。 )

……前例がない、となると確かに不安ですね。
天候に問題がないなら人為的なものか……明日以降もダメなら調査でも提案してみましょうか。
危険なモンスターだったら困りますし……あ、触りますね。染みたりしないですか?


  • No.145 by ギデオン・ノース  2022-08-09 04:18:05 




(相手がほっと緊張を緩める気配、次いで幾分冷静さを取り戻した声。気を逸らすためにとりあえずで振った雑談は、どうやら無事功を奏したらしい。人肌程度に温められた黄金色の軟膏を、労わりの宿る手つきでてきぱきと擦り込まれつつ。患者を思い遣るヒーラーの問いかけには、「大丈夫だ」と唸り声を返す。実際、魔素が溶け込む独特の感触はあるが、嫌な感じはまったくしない……どころか、うっすら纏わりついていた重い痛みがすぐさま和らぐ気さえしていた。おそらくこの一週間以上の日々で、呪いのもたらす状態異常に下手に慣れ過ぎていたに違いない。甲斐甲斐しい手当てに感謝の念を覚えながら、ようやく落ち着いて目を合わせ、相手の提案に賛同を示しつつ。背面の傷痕も診て貰うべく、再び体の向きを変えて。)

……ロビーで聞いたんだが、上流を調べに行く話は船乗りたちの間ですでに出ているらしい。それについていってみるか。

(──責任感の強い船乗りたちは、自分たちの客に不便な思いをさせることが心底申し訳ない様子だった。いかつい見た目で言葉遣いもガラが悪いが、仕事においては誠実そのものな連中なのだ。カレトヴルッフの冒険者にもそういう人種はたくさんいる。なら、彼らはいわば同業者のようなもので、そうとなれば手を貸さぬ道理もないだろう。相手に身を任せながらも、もともとベッドに投げだしていた羊皮紙の束をふと左手で引き寄せると、相手が容易に手に取れる位置にぽんと置く。グランポートでの依頼をこなすにあたり、水妖の仕業の可能性を想定してキングストンから持ってきた資料だ。セイレーンやセルキーなど、特に海辺に棲む魔物についてが主だが、うっかり視野を狭めぬようにと、それ以外の水棲モンスターや、或いは水際で起こる怪奇現象などの類も含まれている。とはいえ、この中に正解があるとは限らないし、今は手掛かりもほとんどないので、適当な予習程度にはなるだろうが。そうしてあくびをひとつかみ殺す、正式な依頼ではないため呑気な構えがありありと出ていた。)

こいつらに目を通しておけば、現場に行ったときに何かしら気づくかもしれん。……ま、眠くなるのにもうってつけだろう。




  • No.146 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-10 10:51:07 




……そうですね、お願いしてみましょう

( 軟膏越しに触れた傷口は、想像以上に魔素の再生が早い。気丈な返事をするギデオンの体の、嫌な強ばりが解れるのを見逃さず、無言で患部を労わるようにそっと手の体温で傷口を温めて。薬は滲みなくてもこれでは普段が辛いだろう、キングストンに帰ったら診察の頻度について魔法医に相談すべきか──兎に角、今そのことを患者に話して無駄に不安にさせるのは得策では無いと判断すれば、いつも通りの明るい表情を意識して浮かべ。身体の向きを変えたギデオンへの返事が少し遅れたのは、船から部屋までずっと同行していたにも関わらず、ビビの知らない情報を依頼中でなくともきちんと収集しているギデオンに驚いたためだ。素直な尊敬の滲む視線をギデオンに向けて、自分も相手の役に立ちたいという気持ちの湧き上がるままに、新鮮な気持ちで羊皮紙に目を向ける。軟膏で汚れた手で触れる訳にもいかずに上半身を乗り出せば、ギデオンの背中に一瞬柔らかいものを押し付けたのも無意識で。生まれも育ちもキングストンのビビには、あまり馴染みの無い魔物や話達に強く興味を惹かれるが、此方が乗り出す直前、欠伸を噛み殺したギデオンを思い出せば、その人間味に少し安心して小さく笑い、頼もしいはずのギデオンを甘やかしたくなる衝動は、どうやらこの時点で既に生まれていたらしい。もう片方の脚も浮かせて、完全に寝台に乗りあげれば、モゾモゾと正座の姿勢をとって相手の左肩をつつく。膝枕での治療は、同性の冒険者たちから、よく眠れると非常に評判が良い。『魔法も気持ちいいけど、枕の弾力が最高なんだよ。頼むから絶対痩せないでくれ』と腹に顔を埋めた女剣士のカトリーヌに言われた際は流石に複雑だったが、ギデオンが癒されるなら自分の贅肉も本望だろう。相手が振り返るのを待って、どうぞ、とばかりに両手を広げれば、小さく首を傾げて。 )

──アハハッ、あと魔素取り除くだけなので寝ちゃってもいいですよ
体制変えましょうか


  • No.147 by ギデオン・ノース  2022-08-11 00:36:36 




(青い視線を、またしても何も無い一箇所に据えてしまう。原因はただひとつ、ぽふりと無邪気に触れていった彼女の柔らかな感触で。相手が興味津々で魔物の資料を覗き込む一瞬、顰め面を片手で覆い隠しながら密かに諸々押し込める。いつものハニートラップか、あるいは全くの偶然か──今回は、おそらく後者なんだろう。何となく読める程度には、相手のことがわかるようになってきた。……なったところで、純真なたちの悪さに参ることには変わりないし、己だけが翻弄されてばかりいるのも──実はそんなでもないのだが──そろそろちょっと腹立たしくなってくる頃だ。そんな心中でいたものだから、ころころ笑った相手に可愛らしくつつかれながら不穏な提案をされようものなら、露骨に胡乱げな目を向けて。いつのまにか寝台にちょこんと乗っている相手、あざとく小首を傾げながら、まるでギデオンが身を委ねるのを待つように細腕を広げてみせている。何とは言わないが、仕草のせいで柔く寄せあげられたものがシャツに濃い影を落としているし、眩しいほど白い太腿に至ってはほぼ根元から生肌だ。それらをじろっと一瞥した目付きにはしかし、ここに来る前にギルドで見せたような、反射的疚しさはなく、むしろ妙にむすっとした色合いで。いつだったか、普段は気高い女である剣士仲間のカトリーヌに惚気られたことがある、あの子の膝枕は人をダメにする枕だと。要するにそういうことなんだろう、理解してしまえばますます、ギデオンの顔色は渋いそれへと変化していく。いっそ脅しで押し倒してやろうかとも思ったが、肩の治療はまだ終わっていない、本当に観念させねばならない時まで我慢するべきだろう。年の功の忍耐力をため息ひとつに収束すれば、とうに乾いた金色の横髪をがしがしと掻き。相手のそば、器に入ったオレンジの煌めきを指さすと、冷静を装った声でもっともらしい断りを入れて。)

……いや、このままでいい。そいつを背中にも塗ったばかりだ、シーツでうっかり拭ったら元も子もないだろ。



  • No.148 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-11 12:22:25 



はぁい。じゃあ失礼しますね。

( 素直に乗っては来ないだろうと思っていたが、困るでも叱るでもなく、大人な対応をされてしまえば、流石に諦めて小さく肩を竦める。ギデオンとじゃれあって(ビビとしては本気だったわけだが結果として)いた間に、軟膏もしっかりとなじんだのを確認すれば、患部にそっと手を当て、魔素に集中するように目を閉じて。『丁度良い練習台もいるんですから、この期にもっと魔力効率の良い方法も学んだら如何です。長生きしたいならですがね。』とは、大きなお世話ですが、と始まった意地悪な医者の言である。そうでなくとも以前から師や父、魔法使いやヒーラーの先輩から散々言われ続けて来たことで、そろそろ引き伸ばしてきた年貢の納め時だろう。普段はその精霊に愛されたかのような豊満な魔力を利かし、一気に治療するばかりで、あまり行わない繊細な調整は別の神経を使う。執拗い闇の魔素の分布を3分ほどかけて根まで辿り、聖の魔素を最低量流し込み終わった時、入浴後にも関わらず額の生え際にはうっすらと汗が滲んで、その柔らかい産毛を額に張り付かせていた。無意識に寄せていた眉間の皺をゆっくりと解せば、手の軟膏を布で拭いながら、不安そうな心配そうな、これでもかとギデオンへの愛が詰まった表情で張本人の顔を覗き込んで。 )

──うん、いかがですか?
大方取り除いたと思うんですけど、変なところはないですか?


  • No.149 by ギデオン・ノース  2022-08-11 13:39:57 




(すんなり聞き入れてくれた相手は、打って変わって真剣な表情を帯び、薄い手を傷にかざして魔素を探知しはじめる。そうして彼女の意識が逸れているときのほうが、こちらも自分のペースでいられるからだろう、間近にいる相手を何とはなしに見つめることにして。若葉色の瞳に影を落とす長い睫毛、化粧を落としてうっすらと星の散った頬、普段よりどこか幼く和らいで見える素顔。普段とちがって結われていない温かな栗色の髪は、つむじの位置に不思議な懐かしさを覚えた──ああ、あのひととまったく同じだ。視線を外してほんのかすかに口の端を緩めたのは、皮肉に思ったからか、それとも切なくなったからか。あのひとの娘を自分なりに大事にしようと適切な距離を置いてきたつもりが、今はこんなにも間近に接してしまっている。師ははたしてどう思うだろう、ギデオンなら道を過たないと信用を置いてくれるだろうか。しかし彼女は空にいる、尋ねようにももう叶わない。……そうこうするうちに無事治療が終わったらしい、凝らしていた表情をようやくほぐして手元を拭うヴィヴィアンに、不安そうに尋ねられれば、遠くにやっていた心を目の前の彼女にきちんと戻して。安心させるような笑みを浮かべ、軽く肩を回して実際に調子を確かめる。疲労もついでに癒してくれたのだろうか、随分と軽くなったと実感すれば、そばに置いていたシャツを引き寄せて再び袖を通しつつ、感謝のこもった声を返して。)

ああ、大丈夫だ。……利き腕側の負傷だから、医者の爺さんの話を聞いたときは正直どうなるかと思ってたんだが。これならたぶん、何も心配はいらなそうだな。



  • No.150 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-11 18:14:41 



よかった、
でも、絶対無理はしないこと……なんて、少しでも違和感あったらすぐ教えてくださいね。

( 優しい笑みと返答に心から安心し、惜しげもなく大輪の笑顔を咲かせると、柔らかいベッドの上に膝立ちし腰に手を当て説教臭いことを述べてみる。柄じゃない忠告に我ながらおかしくなってすぐ破顔すれば「ギデオンさんが怪我すると皆さん悲しみますから」と、どこか自分を大事にしないきらいのある相手をさらりと嗜めたのは、治療中の相手の思考を読み取ったわけではなく、疑いようもないただの偶然。相手の胸中にいるビビとも縁深い女性との関係を知って、愛しい想い人かつ世界一大切な相棒を、二度と一人ぼっちにはさせないと心に決めるのはもう少し先の話。今はただ良くなった相手の顔色に安心すれば、あふ……と大きな欠伸を漏らして。水位が戻ればまた船旅の後ギルドへの報告作業に追われ、戻らなければ上流へ調査に行くこととなる。そんな明日のことを思えば、そろそろ休んでも早すぎるということはないだろう。ギデオンの用意してくれた資料には非常に後ろ髪を引かれるが、早起きして読んだ方が効率も良い。下敷きにしない様にテーブルの上に寄せるついでに、瑞々しい葡萄を一粒だけつまんでから保存魔法をかけようとすれば、既にかかっていたようではじかれた。そのまま綺麗にベッドメイクされたデュヴェイを引いて丁度良い余裕を作り、獲物がある冒険者達は意外とこだわるそれを確認しながら、重たい瞼に従って潜り込もうとした瞬間、ふとギデオンの顔をまじまじと見つめて。今回のダブルベッドはビビにとっても予想外の事故だったが、それをビビが受け入れた後もまだ悪あがきしようとしている節のある相手に、まさかこちらが寝た後深夜に出ていくようなことはすまいなと、普段の瞳に溢れる100%の信頼は何処へやら、信用のない視線で一瞥し、既に眠気で鈍りつつある思考で相手のシャツの裾をキュッと握って。 )

そろそろいい時間ですね、葡萄は朝ごはんにしましょう
ギデオンさんベッド右と左どちらが……どちらがいいですか?


  • No.151 by ギデオン・ノース  2022-08-11 21:53:21 




(いつかの船上同様に眩くはにかむ姿を見やり、こちらも口許を緩めていたが。さりげない一言を耳にした途端、表情がかすかに失せる。……なにか、言葉通り以上に大切なことを云われた気がしたのは何故だろう。揺れた視線を曖昧に落とす間にも、相手は身の回りの物をこまごまと片付け、今宵の寝支度を始めていて。何も考えずただぼんやりとその様を眺めていると、不意に振り返った相手から、今度は猜疑心も露わな表情を向けられてゆっくりと目を瞬く。どうやら、強情なギデオンが本当に体を休めるか、真面目に危ぶんでいるらしい。魔力を繊細に操作した反動で疲れも出てきたのだろう、既に少しずつ眠たげになってきたのに、ご丁寧にもこちらの裾を捕まえていると気がつけば、淡い苦笑を取り戻す他なく。──ヒーラーの休息命令に戦士がきちんと従わなければ、ヴィヴィアンの立つ瀬もなかろう。どのみち、諦めるほかなかったのだ。そう状況を受け入れて穏やかな息をひとつ吐けば、「右にする」と言質を与えて立ち上がり。出窓、次いで部屋の扉の施錠を今一度確認すると、燭台の明かりは真ん中の大きな一本を残し、息を吹きかけて消してしまう。途端に光量を大きく落とした室内は、夜独特の青い闇に沈み込み、静寂も増して感じられた。一日の疲れを洗い流し、バディによる初めての診察も終えた、これであとはもう眠るだけ。部屋の中央にゆっくりと戻ってくると、寝台の片側に乗り上げ、相手が程よく崩してくれた上掛けのなかに下半身を滑らせる。せめてもの妥協案として、無駄に四つもある羽毛枕のひとつを相手との間に置き、顔が間近に見えないように隔てさせると、ようやく上体も深々と横たえ。わざわざ近づかない限りは触れ合わずに済む寝台の広さに安心し、目を閉じて深呼吸する。まんじりともせずに夜を明かすかと思っていたが──意外にも、自分も随分眠くなってきた。相手の眠気が移ったのだろうか。)

…………、明日には……キングストンに帰れるといいな。



  • No.152 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-12 00:24:50 




( 相手から得た言質にほとんど開いていない目をもにょもにょと瞬かせると、立ち上がる相手を強く止めもしないが裾を離すこともないまま、戸締りをするギデオンの背後をハルピュイアの雛の様についていく。寝台に入り込むギデオンに安心したのか、再び小さく欠伸をすればやっとその手を放し。約束通り左側のスペースに潜り込み、即柔らかな枕に顔をうずめると、スイッチが切れたかのようにピクリとも動かなくなっていたから、ギデオンの涙ぐましい工作には反応することはなく。それでも相手に声をかけられれば、必死に脳に酸素を取り込む音をさせてから、健気に絞り出した返事は明らかに寝入る寸前の物で。聞くものの眠気まで誘うような規則正しい寝息を立て始める寸前、やけに暖かくはっきりと呼んだのは何百回も繰り返してきた相手の名で。 )

──あい、みなさんと、久しぶりに、会えるの……たのしみ、です……ね。……おやすみなさい、ギデオンさん。

( それは100年寝ていたような、かと思えば意識を失った次の瞬間には目覚めたような、不思議な感覚と軽い体の調子から、質の良い睡眠がとれたことを感じながらの起床で。寝汚いのは酒が入っていなくても変わらない。まだ若い体には朝は辛いもの。かすかな小鳥の声と、うっすら開けた瞼から差し込んだ光の色を見るに、もう少し寝ていてもかまわないだろうと瞼を閉じれば、グランポートの気候になれつつあった体にうっすらと肌寒さを感じて。太陽の匂いがするデュヴェイをきつく巻き込もうとすると、半身程先に何か温かい物があるようだ。夢うつつの脳みそが出した答えは、知らない土地の初めて泊まった宿にあるわけもない、キングストンの自室に十数年、ビビの安眠を見守り続けた不死鳥を名乗るには間抜け顔のぬいぐるみ。その温もりにすり寄り額をこすりつければ、その非常に安心できる香りに再び健やかな寝息を立て始めるだろう。 )


  • No.153 by ギデオン・ノース  2022-08-12 11:31:22 




……おやすみ。

(暗闇のなか、隣からぽそぽそ返ってきた呂律さえ怪しい声に、最後にちらりとだけそちらを見遣る。そこには当然、自分の設けた枕の壁があるのだが、奥にいる娘がすぐさま寝息を立てはじめた気配は柔らかに伝ってきて。思わず音を立てずに小さく笑い、しばらく枕越しに眺めてから、低い小声で挨拶を返す。この糸が切れたような寝つきの良さといい、先ほどギデオンの裾を掴んだままふらふらついて回っていたことといい。ヴィヴィアンは眠くなると、普段も垣間見えるあどけなさが格段に増す性格らしい。それでいて、どんなに限界でもこちらの名前はしっかり呼ぶのだから可笑しなものだ。随分妙なのに懐かれてしまった。……それを決して嫌とは思わぬ自分がいることに薄々気づきながら、体勢を戻したギデオンもまた目を閉ざし。穏やかな暗がりの中へと、意識を手放すことにして。)

(──翌朝。窓の外の小鳥がまばらにちゅんちゅんさえずる声に、ごく自然と瞼を開ける。大抵は夜明け前に目が覚める習慣なのだが、案外深く眠り込んでいたらしい。明らかに疲労から回復し、生き返ったような新鮮な感触。かしそれは普段に比べてであって、それなりに歳を重ねた体には朝特有の心地良い気怠さが新たに纏わりついていた。深呼吸しながらそれとなく顔を巡らせ、眩しそうに細めた目で窓の方角を確かめる。紗越しに差し込む陽射しの角度からして、今は朝の七時過ぎといったところか。船乗りたちが上流調査に出かけるまで、あと一時間半ほどだろう。鬱蒼と茂る森を抜ける気ならば、夜行性の凶暴な魔獣たちが巣に帰るまで、充分時間を置かねばならない。もう朝も迎えたことだし、軽く柔軟してからいつもの素振りをしに出掛けようかと、上体を起こそうとして。そこで初めてそれに気が付き、ぴたりと凍り付いた。……ゆっくりとそちらを見下ろせば、そこには存外寝乱れている若い娘。どういうわけか、それなりに距離を置いてんていたはずが、今やギデオンに寄り添うようにぴったりとくっつき、何ならギデオンの腕にその細腕を絡みつけている。自分自身それをあまりに自然に受け入れていたことに謎の衝撃を覚えつつ、いや、これはまずい、と腹を焼くような焦燥感が芽生えだして。──男と女で、朝は少々勝手が異なる。こんな早朝から疚しい下心など湧くわけもないが、それはそうと、今のギデオンはそれに気づかれれば誤解されかねない状態にあるのだ。同室以上に同衾を避けたかったのはそういう理由もあったというのに、相手は呑気に、何故かやたら幸せそうに惰眠を貪っている有様。そんな場合じゃないと振りほどきたいが、自分の体の具合やら、相手が朝の光になかにさらけだす化粧っ気のない安らかな寝顔やらを思えば、下手に起こすのも憚られ。結局中途半端に半身を起こしかけたまま、早くも片手で顔を覆い、いつもの苦労性に陥り。……どれほどそうしていただろうか、いろいろと落ち着いたころになって、ようやくそっと手を伸ばし、相手の肩を揺り動かす。できれば相手が寝ぼけているうちに腕を引き抜いて、何もなかったことにしたい。上手いこと寝起きが悪いように祈りながら、「ヴィヴィアン、」と何度か穏やかに呼びかけて。)

……ヴィヴィアン、朝だ。起きろ。




  • No.154 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-14 00:27:30 




……う、おはよ、ございます

( 誰かの己の名を呼ぶ優しい声に呼ばれて、ゆっくり意識を浮上させる。瞼越しの朝日に顔を顰めると、目元を隠すために片手をギデオンから離して。尚繰り返される名前にやっとモゾモゾと起き上がるが、開けていない目とやけに深い呼吸音を聞けば、まだ覚醒しきっていないのは明らか。残りの片手からも、簡単にその腕を引き抜けるだろう。 )

んー、洗面所お先に失礼しますねぇ

( そのまま時間にして一分ほど、ぼんやりと尾を引く睡魔に頭を揺らしていたかと思えば徐に立ち上がり。口調こそ幾分かハッキリしたものの、普段のビビであれば朝準備の順番など些細なことこそ気を使い、最終的な順番こそ前後することはあれど、まず譲る句を口にするはずだ。まだどこか夢うつつな表情で、そんな実家の父にするような淡白な甘えを見せながら、ローブ以外の着替えを一式手に取れば、さっさと浴場の扉を閉めてしまい。たっぷりの冷たい水で寝起きの顔を清めると、ようやく意識も安定してきたようだ。小さくもよく磨かれた鏡を覗き込めば、今まで父以外の異性に見せたことのないはしたない格好に、思わず顔を背けて赤面し。──昨晩は本当にどうかしていたに違いない。こんな格好でよくギデオンに迫って、しかもその隣で熟睡出来たものだ。昨晩のことに加え連鎖的に、腕に残る逞しくも安心出来る感触を思い出せば、叫び出したい衝動を抑えるのに大変苦労する羽目となって。それでも元々いつ飛び出すことになるか分からない冒険者稼業、一般的な女性よりは素早く着替えを終えると、どんな顔を合わせれば良いのかと扉を開けるのを一瞬躊躇う。それでもギデオンだって準備があるのだ、調査について行くのであればあまり時間に余裕がある訳でもなく。覚悟を決めて扉を開けば、へらりと笑ってギデオンに投げかけた声が若干上ずって、どこか白々しく響いたのは許されたいところ。 )

失礼しましたー
昨晩はよく眠れました?……シ、シャツは洗って返しますね、


  • No.155 by ギデオン・ノース  2022-08-14 07:04:26 




(気の抜けた様子で洗面所に消えていく背を見送れば、乱れた前髪を掻き上げながら小さく安堵のため息を漏らす。次いで、薄い無精髭の生えた顎を撫でながら思考の切り替えに努め。彼女の身支度を待つ間、猪毛の歯ブラシや髭剃りのほか、念のため戦士服や装備の類も引っ張り出すことにして。)

……そうしてくれたら助かる。

(やがて、眠気を完全に振るい落としたらしいヴィヴィアンがおずおずと顔を出したころには、差し込む朝陽に白く眩くなる寝台の上、魔物の資料に目を通している最中。存外出てくるのが早かったな、と、紙面から顔を上げたことで、相手のぎこちない様子に気づく。格好こそいつものそれに戻ってはいるが、どこか気まずそう、というよりも気恥ずかしそうな面持ちだ。……昨夜の自分が如何に大胆な乙女だったか、今朝になって自覚が追いつき始めたのだろう。あんなに積極的だったくせに、妙なところでまったくの初心なのか。いじらしいギャップに思わず苦笑を漏らつつ、シャツの件を承諾すると、手荷物を持ち自分も洗面所へ。正直なところ、洗おうが洗うまいがこちらは大して気に留めないが、若い女性であるあちらには気持ちの問題というものがあろう、それを汲めぬほど朴念仁でもない。「別に急ぎじゃない、好きな時に返してくれ」と言いながら彼女の横を通り過ぎようとしたところで、不意にほんの少しだけ声を落とし。一言二言、耳打ちというほどの距離ではないが、ささやかな意趣返しを付け加えることにした。──ちらとだけ向けた横目には、笑みの気配こそないものの。昨夜や普段の過剰な防衛ぶりはどこへやら、昨夜の向こう見ずを揶揄う、意地悪な色がかすかに乗って。)

幸い、ぐっすり眠れたよ。……役得な思いをしたからな。



(/たびたびのご相談失礼いたします。ダブルベッド事件の一夜が終わりましたが、この後の展開についてご希望等ありますでしょうか? この後の討伐をひとつの事件として丁寧に追うのでも、飛ばし飛ばしで何か美味しいところだけ拾っていくのでも、或いは終わりに向けてまとめていき、後日談的にさくっと描写するにとどめて次の話に移るのでも、主様の好みの方向にさせていただければと思います。)




  • No.156 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-14 12:16:18 




わ、わかってて言ってるでしょう!意地悪……!!

( ──う、今日もカッコイイ…。浴場からそっと伺ったギデオンが、寝台の上で真剣な眼差しを書類に向ける横顔に胸がキュンと鳴る。そこへ朝の準備に声をかけるなんて新婚さんみたい──と浮ついた余計なことを考えるものだから、声が上ずったりするのだ。ギデオンのスマートな返答に無意識に助けられながら、咳払いをして自身を戒めるように腹に力を込めたにも関わらず、取ってつけたような平静の仮面は、揶揄われてしまえば直ぐに剥がれてしまう。役得なんて心にもないことを、と昨晩全くつれなかった相手に怒りさえ覚えるが、今回ばかりはあまりの自業自得ぶりに、真っ赤になって縮こまるしか無かった。 )

( そんな朝の一幕を乗り越えて。葡萄と共に女主人が必死に人数分用意してくれた朝餉に舌鼓を打てば、調査を手伝いたいという2人の申し出に、プロ意識の高い船員たちは最初こそ渋ったものの、最後はビビらの熱意に負け快諾してくれた。否、2人が冒険者と知ってもなお「でもお客様に手伝って貰うわけにゃぁ…」と渋る船員を、面倒になったビビがハニートラップで沈めたとも言う。昨晩寝る直前、珍しく早く帰りたいという趣旨の言葉を漏らした相棒の望みを叶えたかっただけなのだが、どうしてこれが本命のギデオンにできないのかは、本人のビビが一番知りたい。ともあれ、屈強な船員達と共に水かさの減った川を遡り、2、3時間も歩いた頃だろうか、どうしても先頭は譲らなかった船員達にどよめきが走って。ギデオンの方を一瞬見やり、大柄な船員達と鬱蒼と茂った木々の間を縫って川辺に顔を出せば、その巨大な建造物──荒く加工された人の丈もありそうな流木が幾つも積み上がり、その隙間に詰め込まれた泥と藁の混ぜ物が、作成主の知能の高さを知らしめているそれを見上げれば、既に真上に近くなった太陽が目に入る程。こんなものが水を堰き止めていたのだから、水量が減るのは当たり前だ。これほど巨大では無かったものの、見覚えのあるそれに確認するように相棒の名を呼んだのは、彼が用意してくれた書類で出発の直前に見たそれに、目の前の建造物がよく似ていたからで。 )

ギデオンさん、これってアーヴァンクの……


( / お世話になっております。ダブルベッド事件ありがとうございました。ギデオン様とのやり取りが非常に楽しく、思ったより長編となってしまいました。甘さやビビの性格など、今回少々天然っぽい言動が気になったので、少し引き締めていこうかと考えておりますが、他にも気になる点があれば教えていただけると幸いです。
展開については折角素敵なご提案を頂いたので、程よくダイジェストしつつ、アーヴァンク討伐を楽しめればと考えておりますが、前譚が長くなりましたので背後様が早く進めたいということであれば、後日譚という形でまとめさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。 )


  • No.157 by ギデオン・ノース  2022-08-15 04:20:54 




──巣だな、間違いない。……道理でこの辺りがぬかるむわけだ。

(ヒーラーの真剣な声に確信を込めて頷くと、足元の泥に目を落とし、やや忌々しそうに踏みつける。あたりの土がやたら水っぽくなってきたと思ったが、アーヴァンクのダムに堰き止められた運河の水が、両脇の森の土壌に染み込んでいるのだろう。ギデオンがそうして周囲を観察する一方、ヴィヴィアンの見事な手管で瞬時に絆され、道中やたら振り返っていた純情な船乗りたちは、行く手に広がる異常な光景を今や呆然と眺めていたが、これは無理もない話。何せ、昨夜までは問題なく航行できていたことを思えば、運河を弱らせた正体たるこの巨大なダムは、おそらく半日かそこらで一気に築かれたはずなのだから。これはまずいことになった、と顔をしかめると、「一旦作戦会議をしよう」と調査隊一同に声をかけ、足元の悪さから自然とヴィヴィアンの手を取りつつ、広い岸辺の乾いた岩場にしばし腰を落ち着ける。そうして、女将の持たせてくれたパンや干し肉を昼食として腹に詰めながら、まずは自分たちが知る限りの、基本情報の共有を始めて。──アーヴァンクという魔獣は、人と関わらずにただ生息する場合、別にそこらにいる動物とさして変わりない。川に棲みつき、巣を作り、狩りをし、繁殖し、いずれは怪我や病で死ぬ。しかし、その営巣活動が人里に影響を及ぼすので駆逐せねばならないとなると、魔獣の端くれという性質上、ものすごく厄介なのだ。理由は簡単、奴らはただシンプルに強い。ドラゴンのように火を噴くわけでも、ゴルゴンのように視線で石化させるわけでもないが、アーヴァンクの場合、全身そのものが強力な鎧かつ武器である。強靭な膂力は自らより大きな岩をも軽々と持ち上げ、オレンジ色の鋭い前歯は大木すら噛み砕く。魔力を込められない普通の太刀なんぞでは、奴らの毛皮に傷ひとつつけられやしない。そして水中の彼らは、まさしく水を得た魚のように、恐ろしく速く泳ぎまわる。アーヴァンクの十倍は大きなワニでも、ひとたび奴らの群れに囲まれてしまえば最後、半刻と経たず八つ裂きになるだろう。要は、普通の人間や普通の武器ではまるで歯が立たず、手練れの冒険者を十人以上編成してようやく制圧できるであろう、とびきり凶暴な害獣。それがアーヴァンクである──何か、あの資料には書かれていなかった大事な習性を忘れているような気もするが、今は頭に上らななかった。さて、そこまで伝えたところで。じゃあどうすりゃいい、近日中に解決できないんじゃ商売あがったりだ、大事なお客様がたを預かってるのによ、と悲愴感を漂わせ、頭を抱える船乗りたち。しかし、あくまで正面突破が得策ではないだけで、運河に水を取り戻す方法はあると説明する。必要なのは、この辺りの森にもたくさん実っているであろう、熟したテッポウブドウの房だ。一見普通の葡萄だが、たとえ少量であれ、自然界にない水の魔素を無理やり注入すると、拒絶反応で数秒後に大爆発する性質を持つ。目の前の船乗りたちはとは魔法で船を動かしている、その手の工作は任せられよう。作戦自体は至極単純。まずは、少数の船乗りによる水魔法の操作で、アーヴァンクどもが泳げるほどの水量はない川床を、下流に人工的に作り出す。広さはそんなに要らない、剣を振るえるほどでいい。次に、爆弾代わりのテッポウブドウを、他の多数の船乗りたちがダムに投げ込み、少しずつ破壊。怒って飛び出してくるであろうアーヴァンクたちを、ヴィヴィアンの閃光弾で足止め、誘導──ヒーラーである彼女には、船乗りたちが負傷しないかにも気を配ってもらう必要上、できるだけ安全地帯にとどまって状況を俯瞰してもらう。そして、唯一の魔剣持ちであるギデオンは戦闘を担当。船乗りたちが乾かし続ける川床で魔獣を迎え撃ち、一匹ずつ斬り伏せていく──というのが、今思いつく最善の策である。船乗りたちにテッポウブドウを収穫してもらう間は、ギデオンとヴィヴィアンで更なる下調べにあたり、アーヴァンクは何匹いるのか、ボスはどいつか、ダムの構造にどこかしら弱点はないか、そういった諸々を突き止めていけばいい。他に考えがあれば、もちろんそれも検討したい、と、まずは屈強な船乗りの面々を。次いで、シルクタウンにグランポート、二度に渡り背中を預けてきた相棒の顔を、真剣な表情で見据えて。)



(/こちらこそ、コミカルな大事件を伸び伸び堪能させていただきました! ビビの天然具合について、こちら側ではまったく問題ありません。ギデオンともども、振り回されたり魅せられたりを存分に楽しんでおります。ギデオン側においても、むっつりというかポンコツな一面が頻繁に散見されたと思っているので、アーヴァンクと交戦する際、本来の戦士らしい凛々しさを描写できればと考えています。
別の方面で、一点だけ懸念事項が。日々のお返事に際し、主様の方で何かご無理はなさっていませんでしょうか……? 時折句読点の感じが変わるので、もしやご多忙やお疲れの中で書いていらっしゃる説もありえるのでは、と少しだけ心配しておりまして。とはいえ、完全にこちらの杞憂でしたら、その際は笑ってご放念ください。
今後の展開についてですが、こちらも内心同様の塩梅をイメージしておりました。なので是非とも、程よくダイジェスト進行でお願いいたします。作戦について長々細々書いてしまいましたが、こちらはそれっぽい雰囲気づけのためですので、適当に扱っていただいて大丈夫です。また先述のように、ギデオンにおいては精悍な一面を再び印象付けられればと思っていますが、それでもあくまで、グランポート編よりは日常めいた平和路線という想像をしております。主様の側においても、ビビや船乗り、アーヴァンクたちを、お気に召すまま楽しく動かしていただければ幸いです。)




  • No.158 by ヴィヴィアン・パチオ  2022-08-17 00:46:55 




──やっぱり、一晩でこれって……どれだけの水が堰き止められてるんでしょうか。

( ぬかるんで安定しない泥道をものともせずに、男性陣よりは多少ヒールのある靴で歩きのける。その上何気なく片足を尻の脇に上げ泥を嘆く姿は、よく鍛えられた体幹の賜物。差し出された手を「ありがとうございます」と迷いなくとって見せた笑顔は、自分では何気なく微笑んだつもりだったが、先程までチラチラと振り返る船員達に返していたそれとは明らかに違う、恋情からくるあどけなさと、ギデオンへの信頼で溢れていた。岩場についた船員たちが我先にと、万年ポケットに入れっぱなしのハンカチーフを木陰に敷くうちのひとつにありがたく腰かけると、干し肉を噛みちぎりながら、ギデオンの作戦に無表情で耳を傾ける。シルクタウン、グランポートに続き、またしても相手ばかり危険な役を担う作戦は不本意だが、良い代案を思いつかない自分を一番不甲斐なく感じて、そっと瞼を伏せる。それでも冒険者なれば、1番可能性の高い作戦にかけるべきだろう。船員達にも妙案がないことを確認してから、ギデオンの真剣な表情に応えて頷けば、周りの士気を上げるように明るく微笑み立ち上がり。──数刻後、バディと共に大まかな下調べを終えて岩場に戻ると、既に船員たちはテッポウブドウの収穫を終えた様だ。口々に俺が1番たくさん採っただとか、俺のが大きいと主張してくる青年達(中にはいい歳した者もいるが)を、代わる代わる褒めてやれば、やっと本番にとりかかろう。一人ダムの全貌が見渡せる高台に登る関係で、別行動となる寸前に「ギデオンさんちょっと…」と真剣な表情でバディの袖を引いて、耳うちする様に背伸びを。船員たちに聞かれたくないといった調子で、長身の己より更に大柄なギデオンの影になる死角に入れば、近くなった横顔に耳打ちする振りをして唇を寄せたのは、今朝揶揄われた仕返しで。艶のある唇に自身の人差し指を乗せ、くすっと悪戯っぽく笑い声を漏らし、語尾にハートのつきそうな雰囲気で踵を下ろせば、怒られる前にと身を翻す仕草こそ小悪魔的だが、ほんのり頬が染まっていることには無自覚らしい。それから身の丈程の岩を身軽に登りこえ姿を消せば、何処からか感心した口笛が上がるのに応えて、少し離れた位置から大きく手を降る指先だけ覗かせた。 )

怪我をしないおまじない、なぁんて。
……それじゃあ、皆さん気をつけてくださいねー!


( / いつも暖かいお言葉ありがとうございます。そう仰っていただけると非常に心が救われます。真っ直ぐで真面目ではあるものの、年相応に大人で強かなヴィヴィアンが、ギデオン様の前では真剣故に子供っぽくなってしまったり、信頼ゆえに無防備になるイメージなのですが、あまり普段の方を描写する機会が少ないため、後者の面ばかり目立ってしまうのが気になっておりまして……少しずつ普段の冒険者としての強かさを描写できればと考えておりますが、相性にご不安を感じさせてしまっているやも、とご報告まで失礼いたしました。
背後様によるギデオン様の活躍シーンの描写については、本当に毎回素晴らしく今回も非常に楽しみにしております!!そこへ繋げられるるようロルを意識しましたが、お返事され辛いなどございましたら仰って下さい。また、ダイジェスト進行も同じご意見ということで安心致しました。今回も大変読み応えのある骨太なロルを楽しませて頂きありがとうございます。ギデオン様のご活躍の後、このままビビが攫われる描写に入るようでしたら、離れた位置にいるギデオン様に伝わるよう声を上げたり、魔法で花火を上げたりなど適当に描写して頂いても結構ですし、勿論そこまで進めなくても大丈夫ですので、背後様のやりやすいように、ご負担ない形でお返事頂けるのを楽しみにしております!
最後に此方の返信速度について、ご心配をお掛けしてしまい申し訳ございません。実はリアルの方が繁忙期でして、背後様の仰る通りの状況でお返事を用意している回も少なからずございます。無理をしているつもりは決してなく、寧ろこのトピックが日々の潤いでして、負担は感じていなかったのですが、お恥ずかしながらご指摘いただくまで、ロルに影響を出してしまっていた事に気づいておりませんでした。ご迷惑をお掛けしてしまうのは不本意ですので、少し返信頻度を落とさせていただこうかと考えております。言い辛い内容にも関わらず、ご指摘ありがとうございました。日々の潤いと申し上げましたが、お返事を急かしたり、緻密な描写を強要する意図はございませんので、これからもまったりと無理せずお付き合いよろしくお願い致します。長文となってしまい大変失礼いたしました。ご要望やご連絡がなければお返事には及びません。 )


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