匿名さん 2022-04-24 11:11:17 |
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(──その報告が上がったのは、2人を真夜中の新宿に放ってからわずか2時間後のこと。〝歌舞伎町に出現した悪魔を、ハンター402・609が現場にて制圧〟〝民間からの正式な委任状は未所持〟〝甚だしい器物損壊〟〝早急な確認・指示を〟。事後処理部隊のもたらす言葉は、彼女の待ち望んでいたもの。同心円状の瞳をほんのわずかに笑むように細め、「いいわ、あとは全部私がやる」そう呟いて電話を切るなり、新たな番号にダイヤルを。果たして電話に出た相手は、今頃様々な問題に苦しんでいるだろう若手のデビルハンターの娘。無論、その人物が追い詰められるよう仕向けたのはほかならぬ彼女自身なので、そこにかけてやる労りの言葉などない。それどころか、これからもっと美味になるよう調理する必要があるのだ。「注射の悪魔の制圧ご苦労様」まずは機先を制すための第一声。「でも、そこまで過ぎた真似をする許可は与えなかった筈です」涼やかにそう告げ、効果的な沈黙を置く。「あなたたちに期待した仕事は、あくまで一般人の保護と民間のサポート。そしてあなたに期待した仕事は、彼を監視し制御すること。……どんな考えで民間の獲物を横取りしたのか、どんな怠慢で彼の暴走を許したのか。私に直接聞かせに来なさい。彼も連れて。今すぐ」淡々と告げ、一方的に通話を切る。事前に揺さぶっておいた効果もある、巽カサネはこれで動転するだろう。和志田アルドもまた、過ぎた戦闘による疲労で思考力が落ち、ここに来るころには以前より口を割りやすくなっている筈。呼び寄せた彼らふたりを注意深く観察し、どのようにして〝火〟への足掛かりにするか──赤い悪魔の目下の狙いは、それだった。
──そして、そんな水面下の悪意に相手がさらされていることなど、元凶の自分は知る由もなく。血まみれの自分を救護しようとする隊員をうるさそうに追い払ったところで、ふと横から視線を感じ、そちらを向く。どこか様子のおかしい相手は、誰かと連絡を取り合っていたらしい携帯電話を下ろした後も、猛獣に目をつけられた子鹿のように震えていた。「どうした」と声をかけるが、それは決して相手を案じているわけではなく、情報を引き出すべく薄っすら詰問するような声音。返ってきた「これから本部に戻らないといけない」という主旨の答えには、流石に処分の心当たりが多少あるらしくなるほどと頷いたものの、それでも違和感は拭えない。あの上司の女は、たしかに面に似合わず畜生ではある、それでもここまで恐怖するものだろうか。いずれにせよ今は頼りにならないと踏むと、再び処理班に声をかけ、本部に向かう車を一台出させる手配を済ませる。血の染みついた自分たちでは、一般のタクシーに乗ることはできないだろう。そうして乗り込んだ後部座席、しばらくは運転手のハンドル音やごく小さなウィンカー音だけが静かな空間を満たしていた。車窓から眺める夜景、そこにぼんやりと反射して浮かぶ黒髪を結った女の横顔に、ふと質問を投げかけて)
……なあ。電話の相手はマキマだったんだろ。何を言われた。
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