匿名さん 2022-04-24 11:11:17 |
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(破壊音の嵐がようやく止んだ後、地下のラウンジは小規模な火がパチパチと燻る以外嘘のように静まり返った。先ほどまで自身の中で猛り狂っていた破壊衝動も、押し寄せる疲労と入れ替わってか波のように引いていく。ほとぼりが冷める感覚に心身を委ねていた矢先、耳にしたのは、床に煌めくガラス片をゆっくりと砕きながら近づいてくる軽い足音。膝をついたままそちらに視線をやれば、複雑な色を孕んだ相手の顔と目が合った。捕獲劇前は確かに見た彼女の純然たる無垢さはどこへやら、長い睫毛に縁どられた瞳の奥に、黒曜石を思わせる硬質な光がちらついて見えるのは気のせいか。優しい声とともに身を屈めて差し出してきた薄い手にも、彼女の権限を顕示するかのような煌めく粒子の環が確りと。……思えば、デビルハンターの巡査になるようなタマがただの女であるはずがない。ともすればこちらを油断させそうな恭順さを見せておきながら、結局〝あの女〟の指揮する組織でもやっていけるような、人並み以上にしたたかな人間なのだ。相手のことをそう思ってしまったからこそ、妙なプライドと防衛本能が働いた。若くして複雑な責任を負った相手が何を飲み込み、どんな思いで手を貸そうとしたかに思考が及ぶことはなく、「……いい、構うな」と顔を背け自ら立ち上がろうとする。しかし血が足りなかったのだろう、大きな図体は思いのほかふらつき、そんな有様を相手に見せることに自分自身へ舌打ちしながら、それでも意地を張り距離を取ることをやめない。自分のやっていることは、酷く聞き分けの悪い子どものそれにも等しいと、わかっているのかいないのか。何度も歩み寄ろうとする彼女に相変わらず背を向けたまま、派手な戦闘で構造が油断が建物のあげる悲鳴に気づき、「ひとまず上に上がるぞ」と肩越しにぶっきらぼうな一言を。先ほどは数秒で駆け下りた階段を今度はゆっくりと登った先、すでに駆け付けていた対魔専門事後処理部隊に現場の報告を自ら行う。──相手の業務用携帯に、今回の共同任務と監視令を命じた上司から着信が来たのはそのときで)
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