匿名犯罪者 2022-04-11 23:45:27 |
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( 無機質さが全面に剥き出しにされていた地下室とは打って変わって、闇が降りていながらもずっと暖かさを感じさせるような、人間らしい生活圏をきょろりと見渡して。それは光が灯されればより一層強まり、両親が暮らしている空間と同じ場所に居るというだけで、彼への親近感を生じさせた。彼の言葉を素直に聞き入れて大人しくソファに腰かければ、そっと手を伸ばしてスコーンを一つ齧り。サクリとした食感、口内に広がる甘さがもの珍しくて、咀嚼し飲み込めば「 美味しい 」と口元を手で隠しながらぽつりと洩らして。)
いいえ、なにも。食べ物だったらなんでもうれしいわ。アレルギー…、わたしにはきっとないわ。だいじょうぶ。
( 果たして、客人が家主不在の家で料理など始めるものだろうか。違和感こそ抱いたものの、躊躇いなく他人の家の調理器具を扱う姿が絵に描いたように綺麗だったから、数年前に父がエッグベネディクトを振舞ってくれたあの日の幻影と彼が重なり。きっと彼の言うご褒美の一環なのだろうと、腹が減っていたこともあって半ば無理矢理納得すれば、宙ぶらりんになっていた違和を飲み込んで。対人関係における常識など身に付いていないながらも、彼に全てを任せて黙って見ているのは些か礼儀に欠けると僅かな呵責に苛まれ、ローテーブルに無造作に置かれているボックスからペーパーナプキンを取り出せばその上に食べかけのスコーンを置いて、キッチンへと歩み寄り。コンロの暖かい火に、誘蛾灯に誘われる蛾のようにふらりと惹かれると、パチパチと油の弾ける音がするフライパンには触れない位置で手を翳し、ほうっと息を吐いて。 )
あたたかい……。ねぇアダム、わたしにもなにかお手伝いをさせてちょうだい。お料理を作ったりしてもてなすのは、本来は家主の役目のはずだもの。嗜んだことはないけれど、取ったり運んだりするぐらいならわたしにもできるわ。
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