奏歌翔音 2020-03-03 18:33:56 ID:5762b1903 |
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>烏丸桐恵さん
黒いローブに覆われたと感じたのも一瞬。瞬く間もなく、目の前には研究所があった。涼しい風が森の木々の間を吹き抜ける音のみがこだまする。
久々に思える静寂と安寧の中、しばし隣の烏丸さんを眺めていた。
(最凶の禁忌の製作者で……ニシの先代……疾風さんの命の恩人で元同僚……)
十分すぎるほど濃い肩書だが、それは彼女の本質をほとんど説明していない。
瞳が象徴する冷酷さと、それに相反する無邪気さや茶目っ気。禁忌やユーリ、疾風さんに見せる心からの愛情。そして刹那を抱きしめたときに見せた、悲痛な表情。過去の一部を聞いてもなお、彼女の素顔は全く分からない。
「……本日は、ありがとうございました」
お礼だけ言うが、言葉が続かない。正直、素顔や本性が分からない烏丸さんを、完全には信じられなかった。しかし何を聞けば本性が理解できるかも分からない。悩んだ末、ようやく口を開く。
「……貴女は、私に何か聞きたいことはありますか?突然何言ってるんだ、とお思いでしょう。自分でもそう思います。禁忌たちから大体のことは聞いているでしょうし。ほとんどのことは答えますよ」
それでも知りたかった。彼女が自分の何に興味を持ち、何を望むか。それが、烏丸さんの本質を知る第一歩になるかもしれない、そう感じた。
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