夕暮れの声 2019-08-24 04:06:13 |
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ある日世界は唐突に動きを止めた。あらゆる生命体が眠るように息を引き取り、腐ることなく転がったままだった遺体は気が付けば消えていた。昆虫も植物も、往来を行く人の姿も。初めから存在しなかったかのような静けさだけが残された。いや、それは言い過ぎか。無人のビル群、動かないぶらんこ、無意味に点滅を繰り返す信号機。人の作り出した無機物たちだけが、かつて地球上に存在していた人間という生き物を証明でもしているようだった。
長い前置きはさておき、冷たい街を見下ろす小高い丘に一つの古ぼけた映画館が建っていた。上映出来るのは一昔前のフィルム映画のみで、観客は近所の老人ばかり。よくいえば温かみのある、悪くいえば時代錯誤の映画館であった。しかし今。年老いた映写技師も観客も、人の姿など何処にもない劇場で、理由無くフィルムは回り続ける。そして、飛び出してきたのは先程まで歌い踊り怒り悲しんでいた、映画の登場人物たち。死んだ世界の理由も知らず、勝手に動き続ける人工物の謎も分からず、己の存在理由も聞けず、彼らはこの世界で生きることを余儀なくされた。これは、映画の筋書き通りの感情しか知らない人間一年生の織り成す、切なくも美しい終わりの物語。
▼登場人物たちを取り巻く世界
あらゆる生命体が死んだ世界。無機物のみが過去の遺骸として残る。操作する人間もいないのに人工物は勝手に動き続けるという謎がある。時間の概念は存在せず、空は泣きたくなるほど柔らかい橙色のまま動かない。登場人物はかつて日本と呼ばれた国の、小都市のとある町にて生まれ出る。丘の上の映画館が彼らの住処。
▼登場人物
かつて映画の中で筋書き通りに動いてきた 一キャラクター。その姿はそっくり同じオリジナルの人間_つまりは俳優がかつて何処かで暮らしていた筈であり、己が偽物であると感じる者もいるだろう。死にもせず老いもせず生理的欲求も無いその体は、上映された映画の色彩そのままであり、白黒映画の登場人物ならば白黒で構成された体となる。持ち得る感情は筋書きに載ったものしか知らず、それを実感として得ているかは個人差がある。故にどこか空っぽで不完全な作り物めいた"人間"である。勿論これから感情を学習する可能性は大いに有り得る。
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