ブバルディア 2019-05-18 22:32:54 ID:cf2b77bae |
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「は、はい。怪我はありません。」
きれいな瞳の少年に微笑まれて照れてしまったが、
ふと少年がとても良い仕立ての服を着ていることに気がついた。
「あの、本当に失礼をいたしました……!どうお詫び申し上げたら……。」
「あ、いいよ。気にしないで」
リリィはにこり、と微笑む。
その時。
《…リリィ坊っちゃま。
こんな所で何をなさっているのですか?》
低く、落ち着いていてよく響く執事の声が
聞こえた。
「ルイ」
《はい》
「おいで」
《承知しました》
彼が呼び掛けると、黒髪で長身の執事がぬっと
姿を現す。
「あら。どうかなさいま……え?えっ?あ、あの、その方はどこからいらっしゃったのですか?」
誰かに話しかける様子を不思議に思ったシルクだが、
突然に男性が現れて困惑が隠せない。
口に手を当てたり、手を頬に添えて首をかしげたり。
何も荷物を持っていないので、手がよく動く。
「ああ、こいつは僕の執事なんだ。
名前はルイで、気配を消すのが上手いんだよ」
リリィは隣に控える黒髪の執事を指差す。
《…初めまして、リリィ坊っちゃまの執事を
務めております、ルイ・シャーウッドと
申します。以後、お見知り置きを》
ルイと呼ばれた執事は礼儀正しくお辞儀を
してみせる。
顔立ちはやけに整っているものの
その表情は仮面を被っているように無機質で、
口調も一本調子で抑揚があまり無い。
(気配を消すには緊張と戦わなきゃいけないのかも。きっとお疲れなんだわ。)
表情にも声色にも変化のないルイを見て、ついそう思ってしまったシルク。
それはさておき、挨拶はきちんとしようと努めた。
「まあ。執事さんでしたか。私はシルクと申します。シャーウッドさん、こちらこそよろしくお願いします。」
そう答えてお辞儀を返したところで、
ひどい失態をしていたことに気がついた。
リリィと呼ばれた少年に、
まだきちんと名乗っていなかったのだ。
「あの、リリィさん。名乗りを忘れてしまって申し訳ありません。あらためて、私はシルクと申します。」
「シルクさん。僕はリリィ・アルバート。
君の名字は、何て言うの?」
リリィは微笑みを浮かべながら、相手に問う。
彼に悪気は無い。
「リリィさん、私は捨て子ですので、親の身分がわからず、苗字を持っておりません。」
無邪気に微笑んで質問され、目を伏せて答えた。
(私は恥ずかしい生き方はしてこなかったと思っていたんだけどなあ……。)
苗字がないだなんて暗いことを聞いては気まずくなってしまうだろうからと、明るいニュースも添えることにした。
「これからパン屋のおじいさんの養子になるので……、そこの苗字をいただく予定です。」
「…あ、ごめんね。嫌な事、聞いちゃった?」
リリィは申し訳なさそうに長い睫毛を伏せる。
「…シルクさんは、さ。星を操る力って
知ってる?」
「い、いいえ。大丈夫です。」
(気まずい空気になってしまったわ。私ったら正直に答えすぎてしまったみたい。気をつけなきゃ。……リリィさんの睫毛が長い。)
反省しながら妙なことを考えていると、
リリィから衝撃的な言葉が発せられた。
「まあ。星を操る力ですか。……はい。存じております。」
やはり正直に答えることしかできなかった。
「……僕が《天秤座~ライブラ~》の力を
操れるって言ったら、信じてくれる?」
リリィは相変わらず、瞳を伏せたままだ。
《…リリィ坊っちゃま、見ず知らずの女性に
力の内情を明かすのは宜しくないと思いますが》
ルイは少し苛立ったような声を発する。
「ルイは黙ってて」
《……承知いたしました、リリィ坊っちゃま》
リリィに沈黙を要求され、少し不機嫌そうに
押し黙る。
「はい。もちろん信じます。」
返答してから、どうやら心配性らしきルイを思い出した。
「……理由を挙げないと、私が信用に足る人物か判断に困ってしまわれますね。
『星を操る力』という言葉が出てきて、さらに具体的な星座名まで教えてくださったからです。
少なくとも国立学園の権威ある教授か、名家の生まれ、もしくは当事者でないと出てこない言葉たちです。」
まっすぐにリリィの目を見て、こう続けた。
「リリィさんは、私が《射手座~サジタリウス?》の力を持つと申し上げても、信じてくださいますか。」
(/すみません。サジタリウスのところの記号が「?」に文字化けしてしまったようです。)
(/どうしたら文字化けしないか、キーボードを変えたりしつつ、ここで試し書きしてみますね。)
(/?、~、?、~)
「…勿論、信じるよ」
リリィはにこり、と笑う。
「僕の友人も、《水瓶座~アクエリアス~》の
力を操ることが出来るからさ」
(水瓶座の少年は、希望者が居ないようなので
こちらでさせて頂きます。)
街路の端、ふと耳に入ってきた言葉が歩みを止めさせた。
『星を操る力』
その言葉に反応し、言葉の方へと歩き出す。
そこにいたのは、身分の高そうな少年とその付き人と思われる男性。そして少年とは正反対の、痩せた少女。
彼らに声を掛ける事に躊躇いは無かった。
「ねえねえ、貴方達何の話をしているの?」
「…君は?」
新たに話しかけてきた、少女に目線を送る。
ルイは相変わらずの鉄仮面で横に
突っ立っている。
《…リリィ坊っちゃま》
「ルイ」
《はい》
「少し黙ってて」
《…承知いたしました》
「信じてくださってありがとうございます!
うふふ。まさか私と同じ人を2人も見つけられるとは思ってもみませんでした。嬉しいですねえ。
本当に嬉しいです……。本当に……。」
ぱっと明るい表情になり、ころころと笑いだした。
……かと思うと、急に涙ぐんだ。
「……リリィさん、ひどいことを申し上げますが、王の弑逆を手伝ってはいただけませんか……?
私は武器を取ることもできませんが、射手座の力で傷を治すことだけはできます。
どうか、どうか、お願いいたします……!」
話しかけてきた少女にリリィが名前を聞いているあいだ、
シルクは少し考えごとをしていた。
(ルイさんが警戒を示したわ、ただの社交的なお姉さんに。
早とちりはいけないけど、このお姉さん、まさか王の息がかかった人……?
なおさら会話内容がバレちゃいけないわ。
私は王の弑逆を持ちかけようとしていたんだから。)
《あ、リリィ》
ぴょこん、と物陰から大柄な青年が姿を現す。
少し気だるげな声を伴って。
「あ、ジェイク」
リリィは明るい表情になり、手を振ってみせる。
彼は執事とシルク、話しかけてきた女性を
見回してからリリィに問い掛ける。
《…もしかして、お取り込み中な感じ?》
「あ、この子は僕の幼馴染みでジェイク…
《水瓶座~アクエリアス~》の力を
操れるんだよ」
《…ジェイクです。よろしく》
彼はお辞儀をしてみせる。
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