執事長 2019-05-03 19:58:05 |
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>レベッカ
__……アア、( 周囲を淡い暖色に染めてゆくようなあどけなさを醸す表情を、ただぼんやりと眺めている間はするすると言葉たちが耳を素通りしてゆく。愛用のマフラーが暫し貴女の手に渡る事は元より織り込み済みで、次に意識が戻ったのは手のひらに貴女の体温が重なった瞬間。たっぷりの間を置いて、漸く理解が追いついたとばかりに声を漏らし「 オレ沈む、危ないカモ。デモレベッカは沈まナイ。沈ませナイ 」自分に遊泳能力があるかどうかも思い出せぬ程、最後に泳いだのは遥か彼方の出来事で。しかしあくまで自分の事は何とかなる、そんな楽天的とも少し異なる根拠のない自信の元、今夜は自分よりも貴女を守るのだと意思を露わにして。柔らかくて暖かい手を握り返しながら、廊下へと踏み出した。入り組んでいたのか、単純だったのか__悪魔達が粋を凝らせた湖への道程は、人間がいくら思い出そうとしても思い出せないだろう。それが悪魔の狙いか否かはさておき、目の前に広がるのは鮮血の紅さとボジョレーの透明感を兼ね備えた湖で「 __赤イ、 」ぽつり口をついたのはあまりに安直で素直すぎる感想。幻想的で、けれどどこか不気味で蠱惑的__どこかで見た事のある赤色。ふと貴女の横顔を一目見れば、深い紅に彩られた唇が視界に映る。嗚呼これだ、と反射的に思った。時間にして数秒ほど、眼前に広がる赤ではなく貴女の持つ紅を見つめていた。すぐ傍の畔に一隻だけ泊まっている二人用の小舟には目もくれない。マーブル模様に煩く自己主張をするボートも、今回ばかりはただ寂寞と、貴女に気付いてもらえる時を待つしかない様で )
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