時の旅人 2019-04-11 22:06:09 |
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描写自体はそうでも無いけど、一応グロ苦手な方はご注意ください!
女子高校生の興味の対象なんて簡単に変わる。ころころ転がっていく話題について行くのは一苦労だけど、楽しいものでもある。
繋がれていないビーズのような、色んな物語の最初の一文目のような、取り留めもない話題によく上がるもののひとつが都市伝説だ。
ちょっと前に一世を風靡したらしい口裂け女はもう時代遅れ。
今私たちが――というか、全国の学生、子供たちが注目しているのは、『人喰いウサギ』だ。
「ねえ、また被害があったんだって!」
「知ってる知ってる。____学校の生徒でしょ?」
「えー、すぐ近くじゃん。次はうちかも」
「ちょっとやめてよ!」
女の子特有のかん高い声。いくら教室の隅に固まっても男の子たちはうるさいんだろう、ちらちらとこっちを見てくるけれど、みんなが気になる『人喰いウサギ』の話だから何も言わない。
情報通の友人曰く、隣町の高校の女子生徒が失踪――五体を切断された状態で発見されたらしい。
残されたのは胴体だけ。ポケットに入っていた学生証から身元が証明された。
消えた頭と手足は『人喰いウサギ』が食べちゃったんだろう。とかなんとか。
「怖いねえ」
と、私も月並みな返答をしてみる。
これまでも『人喰いウサギ』はもう三回も出没していて、そのたびに女子高生が一人亡くなっている。これはニュースでも新聞でも取り上げられていること。
そう、『人喰いウサギ』は実在する。都市伝説というよりは、本当にシャレにならない存在への恐怖をエンタメに昇華して誤魔化そうという子供たちの無意識の抵抗だ。
毎日登下校のときに前と後にくっついている警察も、未だに犯人の性別にすらたどり着けていないんだって。これじゃあ不安でやってられないよね。
だから『ウサギ』なんてファンシーな名前がついたんだと思う。
まあそれも家に帰れば関係の無いこと。『人喰いウサギ』は家屋には入れない。本当かどうかは分からなくても、少しでも安心できればいいんだ。
我が家は小さめの一軒家だけど、今はパパもママもいないから広く感じるなあ。
「……喉かわいた」
駆け足で冷蔵庫を開けると、端っこの方にお目当てのペットボトルが三本。一番量が少ないものを取り出して中身を一気に喉に流し込む。
徐々に透明度を増していくペットボトルの底を視界の端に捉えながら、昨日の朝刊を広げた。
遺体の切断面から凶器が刃物であることは間違いないものの、種類は何処でも買えるような市販のもののみ、しかも毎回変わる。被害が出た周辺のお店に聞き込みをしても特に情報は得られない。
また、被害者には皆争った形跡がないことから、それだけ警戒されにくい相手だったことが考えられる。つまり、彼女たちに共通の知り合いがいる可能性がある。
そう書かれた記事の最後には被害者の両親のコメントがあった。
『明るくて誰にでも優しい自慢の娘でした。こんな悲劇が一刻も早く終わることを祈っています』
「…………」
印刷された写真には確かに笑顔で写る少女がいる。でも隈と頬の絆創膏が目立つ……噂ではいじめられていたって話もあった。
それ以前の被害者たちにはそんな噂は立たなかったことを考えても、この子、本当にいじめられてたんじゃないかな。
だとしたら、楽になれたのかもしれない。
亡くなる前よりも幸せにできたのかもしれない。
……なんて。いい話すぎてつまんないな。
私はそこで新聞を閉じて、鞄の中身を机の上に移す。
『人喰いウサギ』がいようといなかろうと、学校はある。なんとも残酷だ。
そして、大人がいないならご飯は自分で作らなきゃいけない。渋々ながらもいくつかメニューを頭に浮かべながら今日の分の教科書やノートを棚に戻していく。
「――ん?」
何やらノートに紙切れ、というか便箋型に折りたたまれたメモ帳が挟まっている。
器用なことするなあ、なんて思いながらそっと引き出すと表面に私の名前が書かれていた。裏返すと案の定、一番仲のいい友達の名前。
私を心配する言葉ばかりが羅列された手紙を読み進めると、ところどころ文字が震えていることに気付く。
そして最後に一文、縋るように、小さいけれどはっきりと書かれた文字列。
『もし、____くんが殺されちゃったらどうしよう』
「…………!」
あの子の彼氏さんの名前ならちゃんと覚えてる。
最近喧嘩したって言ってたのにね。
不謹慎だと分かっていても緩んでいく頬を抑えて、手紙に向かって呟いてみる。取り急ぎのお返事。
「大丈夫。男の子は襲われないよ」
だって、女の子が男の子に力で勝てるわけないもん。
「今日の晩御飯、ステーキにしよっと!」
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