────────────── 金閣は雨世の闇におぼめいており、その輪郭は定かでなかった。それは黒々と、まるで夜が結晶しているかのように立っていた。瞳を凝らして見ると、三階の究竟頂にいたって俄かに細まるその構造や、法水院と潮音洞の細身の柱の林も辛うじて見えた。しかし嘗てあのように私を感動させた細部は、ひと色の闇の中に融け去っていた。 (三島由紀夫/『金閣寺』新潮社/1956.10) ──────────────