語り手 2019-01-06 21:47:19 |
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(腕の中に収まった温もりに、在るべきものが在るべき場所へ戻ってきたと漸く満足げにうっそり笑う。だが己よりも数段頭の回転が良いこの兄は、大切な所で鈍感なのだから困ったものだと口の端はまた下がり。すん、と一度鼻を鳴らせば相手の肩口へ頭を擦り寄せ、より密接した距離下、眇めた深青が相手の瞳を覗き込もう。そこには、せめてその有耶無耶に誤魔化す様な芝居臭い口調くらい改めてよ、と言いたげに非難めいた色が浮かんでいよう。だがまあ、良くも悪くも単調な思考回路はその不満を長引かせもせずさっさと切り替えれば、答えを紡ぐべくにんまりと唇を吊り上げて。「それはねえ、これ。」お暇をしていた腕を持ち上げ、兄の胸をとんと指差し言葉を続け。「おかえりなさぁいケンジ。とぉっても待ってたんだから。ねぇ、お腹の減ったミヤコを置いていっちゃあ嫌よ。」甘ったるい声、艶めいた視線。それ等が合わさりながら引き出された答えは、一見するとまるで置いてけぼりを責める可愛らしいものだが、"お腹の減った"その一言から詰まるところ空腹を放置された事を嘆いていると読み取れよう。「それで、遅くまでなにしてたの?」そう、今度は此方が質問の番とばかりに、純粋な疑問と、外で殺してきたんじゃないのという疑惑とを滲ませた問い掛けを投げ付けて。)
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