情報屋 2018-12-09 19:31:53 |
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さっきのは確かにお前のお手柄だし、その件に関しては有難く思ってるよ。でも 俺は、お前に無理矢理連れ出されてるだけで、好き好んでお前の隣に居る訳じゃない。……俺を振り回してるのは、お前だろ。
( 堂々と放たれた自分勝手な言葉の中で自身の存在を他とは違う場所に位置付けられた気がして、そんな些細な言葉に安堵してしまう自分が憎らしい。この探偵と一緒に居ると、普段は制御出来ている筈の感情を無遠慮に掻き乱される。冷静な筈の自分が感情に振り回される感覚はマフィアに居た頃と酷似していて、良い気分はしなかった。機体が上昇し始めたのに合わせて大きく息を吐くと、自身に言い聞かせるかのように当初から何も変わらぬ関係性を繰り返す。ワインクーラーの中の氷が溶けて全体のバランスが僅かに音を立て崩れるのを眺めながら、一拍置いて相手への恨み節を呟いた声は思ったよりも消耗していた。相手には届かなかったかもしれないと思ったが、伝えたことで何になる訳でも、どうして欲しい訳でもない。このまま何も変わらなければいいと思っているのに、時間と共に溶けていく氷の様に、同じ形を保つ事が出来ないのは自分だけだった。)
……余計な事言ったね。さっきのはただの八つ当たり、お前には関係のない事だった。ごめん。
( 階数表示が切り替わる度に、少しずつ頭が冷静さを取り戻していく。これからいよいよ目標に接近するというのに私情を持ち込んでいる場合では無いだろうと自分を心の中で叱咤することで、どうにか気分を上向きに軌道修正した。幼い頃から自分を取り巻く人間は皆上司か部下という関係で、今関わる人間といえば大抵が客でしかないのだから、その枠に収まらないこの男との接し方は難しかった。取り繕わずに話す相手など数えるほどしか居ないせいかたまに内面を出しすぎるのが良くない。今回ばかりは身勝手な振る舞いだったと素直に謝罪を述べたが、その打ち切り方は言及されるのを恐れているからでもあった。あまり顔を見られたくなくて僅かに下を向くのも、自分と相手の他に誰も居ないこの空間でだけは許してほしい。あとほんの数階、目的の階に辿り着けば自分も不自然無く振る舞えるし、この居心地の悪い空間も無条件に終わらせられるのだ。)
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