誰がために剣を振るう

誰がために剣を振るう

キアルド=メッド(本体)  2018-09-24 21:40:38 
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とあるウタヒメを守る騎士のお話です。

◆あるなりきりトピが元ネタです
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  • No.1 by キアルド=メッド(本体)  2018-09-24 21:41:21 

「……――ん…」

薬品と、微かに血の臭いがする部屋の中、キアルド=メッドは目を開けた。
身体がひどく重い。瞼を開けているのさえ億劫で、わずかに開いた視界にも何が映っているのかよくわからない。
かろうじて、見慣れた――というのも憚られるが――牢屋の鉄格子でないことはわかる。
鉄格子よりもっと白い、真っ白なそれは壁だろうか天井だろうか。天井だとすれば自分は今寝ているのか。
目覚めたばかりの頭ではうまく考えられなくて、ただぼんやりとそれを見つめた。

「んん……」

ふと、横から声が聞こえた。
重い頭を何とか動かしてそちらを確認すると、白いシーツに流れる黒髪が目に入る。
ベッドに突っ伏して眠っているその人物には見覚えがあった。

「ぐ、い……?」

キアルドの喉から、掠れた声が洩れる。
眠っていたその人物――グイルド=メッドは、その声に反応したのかゆっくりと顔を上げた。
泣き腫らした目が、キアルドを捉える。ぼんやりとキアルドを眺めていたその目が、徐々に焦点を結ぶとともに見開かれていった。

「にい、ちゃん…?兄ちゃん、目が覚めたの!?」

白い部屋に、グイルドの大きな声が響く。キン、と鉄骨を反響させるほどの声に、キアルドは眉を顰めた。

「うるさい……」
「う、あ、ごめん…っ!えっと…っ僕、先生呼んでくるね!!」

混乱しているのか言葉が出ないようで、グイルドは詰まりながらも謝ると、すぐに部屋を飛び出していった。謝ったわりには声の大きさが変わっていないので、おそらくきちんと頭は回っていないのだろう。
そういえばあいつは昔からそうだった、と考えたところではたと、何故グイルドがここにいるのかと疑問が湧いた。
少しは回るようになった頭で、状況を整理する。
確か自分は暗く冷たい独房のような場所に閉じ込められていて、そこから逃げ出して――それからどうしたんだったか。
鈍く痛む頭で思い出そうとしたところで、喧しい足音と次いで大きな声が聞こえた。

「っキア!!」
「……ガエ…?」

自分を呼ぶその低い声には聞き覚えがある。
キアルドが、己の兄・ガエルド=メッドの名を呼んだのと、開け放たれた部屋の入り口に彼が姿を現したのはほぼ同時だった。
走ってきたのであろう勢いのまま、ばんっと扉の縁に手を突いたガエルドは、キアルドを見るなり荒い息のままふにゃりと笑った。

「あぁ…っキアだ……本当に、目…っ覚めたんだな……っ!」

力が抜けたのか、ガエルドはそのままその場にへたり込んでしまった。
キアルドは驚いて身を起こそうとするが、長く眠っていたせいか身体がうまく動かないばかりか、背中に思い出したように激痛が走った。

「…っ!」
「あ…っ大丈夫か…!?」

ガエルドがすぐに立ち上がって駆け寄ると、キアルドは痛みに顔を歪めて枕にぼふりと戻った。
顔色の悪いキアルドの頬を、ガエルドは心配そうに撫でる。

「痛むか…?グイが今、先生呼んできてくれてるから……」
「ん…っ」

眉を寄せたままこくりと頷いたキアルドは、はあっと息をついてガエルドを見上げた。

「っ? どうし――」
「ガエ」

首を傾げるガエルドを遮って、キアルドは渇いた喉から声を絞り出した。

「アル、は…? あいつは、無事か…?」
「!」

はっとしたように目を見開いたガエルドは、すぐに目を逸らして曖昧に笑んだ。
キアルドの護衛対象であり、大陸のウタヒメであるアルトリア=ルーンドゥトリシュ。彼女を護衛対象としても、ひとりの少女としても慕っているキアルドは、自分がいなくなった後の彼女のことが心配でならなかった。
固唾をのんでガエルドの答えを待っていると、ガエルドはほんの少し言い淀むように口を開けて一度閉じ、キアルドに視線を戻す。

「無事、だよ……。怪我もないし、病気もしてない……」
「そ、うか……」

キアルドはほっと安堵の溜め息をついた。
ガエルドの表情に一抹の不安を覚えながらも、とりあえずは無事だということが確認できた。
まだ様々なことが整理できていない中では、その事実だけで十分だった。

「詳しい話は後でしよう……。まだ疲れてるだろ?」
「ん……そう、だな……」

いつもは煩わしく感じる、頭を撫でる兄の手にひどく安心する。
どうやら自分はだいぶ弱っていたようだと嘆息しながら、キアルドは遠くから聞こえてくる弟の喧しい声と足音が近づいてくるのを聞いていた。

  • No.2 by アルトリア=ルーンドゥトリシュ  2018-09-25 00:48:42 

凄い(語彙力が足りない)
キアくん愛されてて既に泣きそうです…。
語彙力無くてすごいのオンパレードになりそうなので一言だけ。
やっぱりすごい(*´꒳`*)

ありがとうございます!
更新楽しみです!

  • No.3 by キアルド=メッド  2018-09-25 13:14:26 

(/わー!ありがとうございますー!\(*´∀`)/
次の更新いつになるかわかりませんが、がんばりますー!)

  • No.4 by キアルド=メッド(本体)  2019-07-06 13:00:08 

やって来た主治医の診察を受けたキアルドは、背もたれを起こされたベッドに身を預けて、包帯を巻かれた自分の手を見下ろした。
両手と両足に杭を打ち込まれた傷、背中には刃物で切り裂かれた傷、そして顔には顔面の右半分を占める火傷。他にも小さな裂傷や打撲傷が多数。
この怪我でよく生きていたな、とキアルドは自身のことながら半ば信じられなかった。

「でも本当に凄い回復力だね……医者がこういうことを言うのはあまり良くないんだけど、普通の人なら死んでたよ」

カルテを見ながら、主治医であるミシェル=ヴェロニカは感嘆したように言った。
キアルドは昔から身体が弱かったが、怪我の治りだけは人一倍早かった。
キアルドが若い頃から彼を診てきているミシェルは、そのことを知っていたのだ。

「そんなにか」
「うん…これだけの大怪我をして、一命をとり止めるどころか意識を取り戻すなんて凄いよ」

カルテからキアルドに視線を移したミシェルは、にっこりと笑って言った。
それに曖昧に笑って返しながら、キアルドは顔の違和感にそっと手をやった。
包帯に覆われたその下には、酷い火傷がある。
無理やり押さえつけられて松明の火で焼かれた痛みを思い出して、キアルドは眉間に皺を寄せた。

「どこか痛む?」
「え…?あぁ、いや……」

首を横に振るキアルドに、ミシェルは安心したように笑った後、不意に表情を引き締めた。

「でも、その顔の火傷はきっと痕が残ってしまうだろうね……あと、手足と背中の傷も……」
「まぁ、痕くらいどうとでもなるさ」
「首にも残ってるよ、気づいてる?」
「首?」

ミシェルは言いながら、とん、自分の首筋を指で叩いた。
それを見ながら、キアルドは首を傾げる。
首を斬られた覚えはない。何の痕が残っているというのだろうか。

「首を一周するように、痣のようなものが残ってる。前側、つまり喉の方が濃いね……これは、首を絞められた痕、かな……」
「あぁ…そういえば何度か締め上げられたな。痣になるほどだったのか……」

言いづらそうに眉を下げるミシェルに対し、キアルドはあっけらかんと言い放った。
手で触れると、締め上げられた時に縄で擦れたのか、軽く瘡蓋ができていた。

「あとで確認しておく」
「あぁ、鏡と…塗り薬も用意しておくよ。痣が薄くなるように」
「ん…わかった」

キアルドが小さく頷いて礼を言うと、ミシェルは笑んで返しながらカルテを書き込み始めた。
ぼんやりと窓の外を眺めながら、キアルドはミシェルがペンを走らせる音に耳を傾ける。
包帯を巻いていないほうの目は、きちんと見えている。耳も聞こえる。手足はどうだろうか。火傷したほうの目は。
ひとつずつ確認するように、キアルドは思考を巡らせた。

「…っ」

手を柔く握ると、ずきりと痛みが走る。
思わず息を詰めると、ミシェルが顔を上げた。

「キアルド君?」
「………」

怪訝そうなミシェルの声に、視線を落としたままのキアルドはさらに目を伏せた。
彼にまだ、聞いていないことがある。
無意識に避けていたのか、ミシェルがわざと言っていないだけなのかはわからないが、聞かなければならないことが。
キアルドは躊躇いがちに口を開いた。

「なあ、先生……」
「ん?」
「…この、怪我は……後遺症なんかは、残らないのか……?」

静かな部屋に響く、小さな声。
思いの外震えたその声が自分の喉から出たことに、キアルドはわずかに動揺した。
ミシェルはそんなキアルドを見ながら、眉を寄せた。

「……リハビリすれば、日常生活に支障はないと思うよ。でも……」

言い淀んだ彼が、何を言いたいのかはわかっている。
ぎゅっと唇を噛んで、キアルドは次の言葉を待った。

「また以前のように、騎士として戦えるかは、わからない。貫かれた手足の神経や腱の損傷が激しいし、何より……」
「…?」
「右目の視力は、もう戻らないと思う……」

告げられた内容に、キアルドは特に驚きもしなかった。
わかっていた。この身体では、もう戦えない。
自らの存在意義ともいうべき少女を、もう護れない。

「は…っだろうな……」

自嘲するように笑って吐き捨てるキアルドに、ミシェルは一瞬顔を歪ませた後、すぐに力強い視線でキアルドを見返した。

「でも、視力はもう難しいかもしれないけれど、手足の傷はリハビリを続けて特訓すれば、また戦えるようになるかもしれない。いや、キアルド君ならきっと出来るよ」
「……何を根拠に…?」

励ますようなミシェルの声に、キアルドは億劫そうに顔を上げた。
荒んだ目に射抜かれても、ミシェルは少しも動じなかった。

「どんな怪我をしても、どんな病にかかっても、君は一度だって諦めたことはないだろう? これは医者としてじゃない、僕個人の意見だけど、キアルド君ならきっとまた戦えるよ。僕は信じてる」

真っ直ぐな目に見つめられて、キアルドは苦笑した。
彼は随分と自分を信じてくれているようだ。

「そうか……」

ありがとう、と音にはせずに呟いて、目を伏せる。
騎士として、再び戦えるのかどうか。
言い様のない不安を抱えながらキアルドは、今は遠い少女に思いを馳せた。

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