赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>白の女王
(勝手に侵入したのだから何も暖かな歓迎を期待していた訳ではないが、それでも不審に思うのは人が暮らしているのかと疑いたくなるほどの静けさで。そもそも白いお城の存在を、未だかつて人から聞いたことも無い。まさか無人の廃城なのかと、冷風から逃れたにも関わらず何処か寒々しさを感じながら考えていれば耳にしたのは人の声。然してそれに思わず体が凍り付いたのは、賑やかな談笑とは程遠い、空気を切り裂くような叫び声であったからだろう。なに、なにが起こっているの。夜の病院を歩く時のような、一種独特な恐怖に息苦しさと動悸を覚えるも、思わずその方向に足が向かってしまうのは猫をも殺す好奇心が為。言うなればそう、怖いけれど聞いてみたい、怪談を聞くあの心理と全く一緒、そろりそろりと足音と気配を消して、緊張の割に笑顔を浮かべて覗いた先は大きな広間。まず目に入ったのは、地面に転がった大きなナニカ。手があって足がある、その物体が身に付けている衣服がよくお世話になっているメイドさんとよく似たものだと分かっても、何となく存在を受け入れ難いのはあるべきものがあるべき所にない為か。幾らかの予感を胸に視線をずらせば目が合ったのは潤んだ双眸。今にも涙が零れ落ちそうなその目は、然し昏く濁りきったままもう動くことは無い。__しんでる。そう頭で理解出来ても実感出来ないのは飛び散る赤色がないからだろう。マネキンが倒れているくらいの感覚故に、いっそ何が起きているのかとドキドキしていた先程よりも冷静な頭は、足が竦んで物音を立ててしまうだなんて失態を犯すことも無い。とはいえ冷静だから白痴でないという話でないのが残念な所。次いで圧倒的存在感を誇る端麗な顔立ちの御人を見れば、その態度からあの人が多分偉い人だろうと当たりを付けて。素直に隠れていればいいものを「__おじゃましてまぁす」なんて場違いにもひょっこり陰から顔を出してご挨拶すれば、目を細めてにっこり笑顔。よもや惨状を目にしたとは思えない態度で、義理は済ませたと言わんばかりにまた顔を引っ込めればスタスタと廊下を歩きだそうかな。)
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