風人 2016-11-02 05:15:58 |
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「ひとつ目の心残りは単なる説明不足のようですから、何でしたら不定愁訴外来で対応させていただきます」
高階病院長は、ふ、と笑顔になる。
「今のひと言で少し肩の荷が軽くなりました。それでもあの時、本当なら真正面から打ち倒すべきだった偉大な敵を、戦わずに葬り去ったという悔恨は消えません」
「その偉大な敵って、一体誰のことですか?」
「渡海征司郎という外科医です」
俺の中で、学生時代の外科学習の一場面が鮮やかに蘇った。医学生相手に容赦ない言葉を浴びせかけてきた、常識外れの外科医。その暗い瞳を思い出す。
----医者はボランティアではない。慰めの飴玉がほしいのなら、カウンセラーにでもなればいい。
そして、俺が懸命に言い返した時に返ってきた言葉。
----好きにしろ。世の中、そういう物好きな医者だって必要かもしれないからな。
俺が今、この立ち位置で残れているのも、あの言葉が原点だった気がする。
あの渡海先生と、高階病院長との確執はかくも深かったのか。
ケルベロスの肖像(ブラックペアン1998・回想)/田口公平、高階権太、渡海征司郎/海堂尊
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