風人 2016-11-02 05:15:58 |
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僕は冷泉の目を覚ますために尋ねた。
「構成員が自分の利益しか考えない組織なら、百八十度違う結果になりませんか」
彦根先生はいたずらっ子のみたいな表情を浮かべる。
「もちろんその通りだし、世界は概ねそんな風になっているらしい。僕にとってはサイアクの事態が今の、真実がふたつあるという状況だ。まあサイアクといってもその程度なんだけどね」
こともなげに言う彦根先生の顔を、僕たちは黙って見つめるしかなかった。
やがて冷泉は、思い切った口調で尋ねる。
「どうして彦根先生は、そんな風に達観していられるんですか?」
すると彦根先生は、眼を細めて笑う。
「それが現実だからさ。現実に歯向かって物事を変えようとするよりも、現実に即して動いた方が効率がいい。これは学生時代に会得した、合気道の極意なんだけどね」
すると、冷泉は目を見開いて尋ね返す。
「え?彦根先生も合気道部だったんですか?」
次の瞬間、怒濤のような冷泉深雪の言葉が飛び出してくるぞ、と僕は身構えした。ところが意外にも、冷泉は無言だった。ただ、彦根先生を凝視し続けていた。その時、僕は初めて、無言というのは最高の賛辞なのだ、ということを思い知らされたのだった。
輝天炎上/天馬大吉、冷泉深雪、彦根新吾/海堂尊
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