風人 2016-11-02 05:15:58 |
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「家族へ」
蝉の鳴き声とパソコンの駆動音が響く大広間に、万理子の朗読が重なった。
「まあ、まずは落ち着きなさい。人間、落ち着きが肝心だよ」
栄の遺言はまさしく彼女らしい言葉で始まった。
昨日、OZが混乱した時も、彼女の落ち着けという言葉が日本を救ったのだ。栄がそう諭してくれるならば、今のような状況でも落ち着ける気がした。
「葬式は身内だけでさっさと終わらせて、あとはいつも通り過ごすこと。財産は何も残ってやしないけど、古くから知り合いの皆さんがきっと力になってくれるだろうから、心配はいらない。これからもみんな、しっかりと働いてください」
3枚の便箋が、万理子の声を借りて遺族に伝わっていく。広間に立つ面々が鼻をすすり、嗚咽を漏らした。
「それともし侘助が帰ってきたら。10年前に出て行ったきり、いつ帰ってくるか知れないけれど、もしお腹を空かせていることだろう。うちの畑の野菜やぶどうや、梨を、思いっきり食べさせてあげて下さい」
夏希は目元を拭いながら、庭を振り返った。先ほど連絡した時は、一方的に通話を切られてしまった。彼は結局、戻ってきてくれないのだろうか。
「はじめてあの子に逢った日のこと、よおく憶えてる。耳の形があの人そっくりで、驚いたもんだ。朝顔畑で今日からうちの子になるんだよと言ったら、あの子はなにも言わなかったけれど、手だけは離さなかった」
サマーウォーズ/陣内夏希、陣内万理子、他/岩井恭平(原作:細田守) より
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