風人 2016-11-02 05:15:58 |
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血まみれになったシャツの胸ポケットで、バックスからもらった口臭スプレーが弾けた。
春美とマーズは、ともに頭を撃ち抜かれていた。それでも、相手の体に回した手を離さず、生まれた時からずっと一緒に育ってきた姉弟のように、互いをいたわりながらくずれた。春美は完全に即死だったが、死の直前にわずかに残った意識の中で、マーズは思っていた。
それでも自分は地球を爆破しない----。
たとえ四十二億のほとんどの人間は信じられなくとも、今のマーズには、山口玲子と山口春美のという二人の人間だけは、確実に信じられるからである。そんな些細なことでも、彼には審判の重要な根拠になり得る気がしていた。
春美が買ってきてくれたCD-ROMで読んだ「愛情」という単語を思い出しながら、その不思議な少年は息絶えた。
(小説マーズ|| サイレント・ハルマゲドン 原作横山光輝 著 十川誠志)
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