《 小説 》 ビヨンド・ザ・ドリーム

《 小説 》 ビヨンド・ザ・ドリーム

ハナミズキ  2015-10-30 16:57:47 
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オンラインゲームの中に入り込んでしまった男女2人の物語。

つじつまが合わない所はご容赦を…<m(__)m>

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  • No.21 by ハナミズキ  2015-11-04 17:41:53 



魔物が増えたという事と、俺達がここに居るって事と何か関係があるのか?
それに、もしかしたら俺達の他にもここに残された人がいるのか?
それならその人達とも話をしてみたい。
何か分かるかも知れない。
とりあえずどうしようか。
持ち家が無い俺達は何処かの宿屋にでも泊まるしかないんだが…、金は使えるのか?

辺りの様子を見る限りでは、通貨は変わっていない。
金は消えていないよな?




 確認してみるとお金はコマンド内にあった。銀行に預けてあったお金もそのまま残っていて少し安心をした2人だった。
 ドロップ品を改良して売りさばいたり、格安で見つけたレア物を転売して稼いだりしたお金を、コツコツと預金していた2人の全財産は、モリトが1億メルでユーリに至っては100億を超えていた。流石にそこはプレイ年数がものをいうというものだ。

「これだけあれば遊んでても暮らせるわねw」ユーリは屈託なく笑った。

  • No.22 by ハナミズキ  2015-11-05 17:21:12 

 何日かアクシリアに滞在して取り残された冒険者を探してみたが、それらしい人物は見つからない。モリトが最後に見た冒険者たちは一体何処に消えたのだろうか。
 2人はアクシリアを後にし、王都を目指す事にした。王都の方が人も多いし大概の冒険者達は王都に居る事が多い。急ごうと思えば転移スキルにて一瞬で移動できるが、その道すがらに迷っている冒険者が居るかもしれないと、徒歩で王都を目指す事に合意をした。
 途中数々の魔物と遭遇したが、アクシリアから王都までの道筋には、それ程狂暴でレベルの高い魔物は存在しないため、運動不足解消のためにと、適度に体を動かしながらの移動であった。

  • No.23 by ハナミズキ  2015-11-05 17:22:05 

「なぁ、ユーリ。ユーリはいま何レベルなんだ?」
「えっと・・・、このキャラにレベルなんてないよ?永遠のレベル1」と、笑いながら言う。

「そのキャラって、四天王のやつだよな」
「うんw」
「すげぇ・・・・」

「HPとMPって、今どれくらいあるんだ?」
「HPが38300でMPが43900」
「――― 化けもんみたいなキャラだな・・・・。」
「死にたいの?…モリト」

 モリトが化け物みたいだと言った気持ちも分かる。一般キャラでLv50でも、HP(体力)は10000も行ってないだろう。それも剣士でのHPでだ。剣士>盗賊>弓使い>魔法使いの順でHPが高い。一番低い魔法使いに至ってはHP3000程度であった。
MPもしかり。魔法使い>弓使い>盗賊>剣士の順で、最大の魔法使いでさえMP12000だ。Lv70であるモリトのステータスでも、HP22000・MP6800なのだから、化け物発言も頷ける。

  • No.24 by ハナミズキ  2015-11-05 17:23:29 

 王都に行くまでにいくつかの村や町を通らなければならない。途中ダンジョンを通らなければならない所もある。徒歩で移動するとなると非常に面倒くさい地形に二人は居た。

しばらく歩くとスワンの村が見えてきた。

「やっとスワンの村が見えて来たわね、お兄ちゃんw」
「まだあの事を根に持ってるのかよ…。」

 「あの事」というのは、アクシリアの町での出来事だった。自分達と同じく取り残された人が居ないか調べていた時に、いつもの様にユーリが指示を出し、モリトがそれに従い行動していた時の事。その様子を見ていた町の(元)モブの人がユーリに注意をしたのだ。

「こらこら、お嬢ちゃん。そんなにお兄ちゃんを顎で使っちゃいけないよ。年上の人は敬わないといけないって親から習わなかったのかぃ?」

 ユーリはキョトンとした顔をしていたが、モリトは爆笑してしまった。

「ちょっと!モリト!何そんなに笑ってるのよ!」
「あははは、だってさ…クックックック…」笑いが止まらないようだ。

「ほらまた。言った先から何だい?! 妹がお兄ちゃんにそんな口きいたらダメだろ」

モリトは更に笑い転げ、ユーリは顔に縦線が入るほどに落ち込んだ。

「妹じゃないし・・・・。」ボソリと呟く。
 落ち込んでるユーリを見たモリトは、ユーリの頭に手を置き、髪をくしゃくしゃとするように撫でながら「ユーリ、おばちゃんの言う通りだぞ?お兄ちゃんを敬いたまへ」笑ながらそう言うと、ユーリはモリトの方をキッと睨み、とても悔しそうな顔をしていたのだった。

「まぁ。あの時はしかたが無かったよな。…うん。」
「もう!その話はお終いよ!」

ユーリは少し頬を膨らませながら叫ぶのであった。

  • No.25 by ハナミズキ  2015-11-07 07:55:18 


 そんな事があったので、これからの旅の事も考え、モリトとユーリは兄妹という設定で行く事にした。その方がややこしい事にならないだろうと考えたからだ。
 それともう一つ重要な情報を手に入れた。この新たな世界では、冒険者はギルリスト協会という所で登録をしないと冒険者とは認めて貰えないらしい。そこに登録して初めて冒険者としての扱いを受ける。当然2人も協会で登録をしてきた。
 登録をすると冒険者の証として腕輪が渡される。それを見える位置に装備しなければならない。モリトとユーリは腕の付け根付近に装備した。
 この腕輪は色により冒険者レベルが分かる仕組みになっている。冒険者になりたての2人は銅褐色の腕輪だ。冒険者の中でも一番下っ端という事を意味していた。

 10レベルごとに腕輪の色が変わり、銅褐色・銅赤色・黄色・オレンジ・緑・水色・青・銀色・金色・クリスタルとなる。誰が見ても一目瞭然なこの仕組みに納得しつつも溜息が出る。本来ならモリトは銀色の腕輪のはずなのだが、自己レベルはそのままで初心者からという扱いになっているからだ。ユーリもしかり。金色を通り越してクリスタル、いや、ダイヤという所だろう。そんな二人が初心者でありLv1なのだから笑える。

  • No.26 by ハナミズキ  2015-11-07 07:57:48 



 スワンの村に到着すると、村だというわりに人が大勢いた。見た感じ村人と言う風ではなく、腕輪を装備している冒険者の様だ。なぜこんなに大勢の冒険者がこんな小さな村に居るのだろうか。情報を収集するには酒場か食堂に行くのが手っ取り早い。今までの経験上そう考えた2人は小腹も減っていたので食堂へと向かった。大抵の食堂は宿屋も兼業しており、宿と情報の2つが手に入る事を知っていたからだ。



『思った通り人が多いな。
しかし何でこんな小さな村に、こんなに冒険者が居るんだ?
祭りでもあるのか?
4人掛けのテーブルに3・4人か…。
相席になった風でもないな…。
って事は、仲間同士か?
冒険者が徒党を組むって事は何かのイベントか…、それも一人じゃできない様な・・・。』

  • No.27 by ハナミズキ  2015-11-07 07:59:50 


 周りの会話に耳を澄ませて聞いてみると、村外れにある霧の森という所に、ピクシ―やスラリと言う様なLv20前の魔物ではなく、Lv40代のゴブリンやゴブラゴンが出るようになったそうだ。森にさえ入らなければ問題なさそうに思うが、どうやら最近は森の外、つまりこの村にまでやって来るようになったとか。
 数週間前にゴブリンが村の中に入ってきた時には、丁度宿屋に泊まっていた冒険者が魔物を退治してくれ難を逃れたが、霧の森に調査に行った者によれば、まだ数匹魔物の気配が残っていたという。その魔物たちを退治してくれる冒険者を募集したところ、今回の様な大人数になってしまったという事らしい。

  • No.28 by ハナミズキ  2015-11-07 08:17:29 

 魔物を退治した者には報奨金が出されるので、それに目がくらんだ冒険者たちが大勢集まり村は大賑わいだ。腕輪を見る限りでは、オレンジ(Lv31~)・緑(Lv41~)・水色(Lv51~)が多数目に入る。俺達の様な銅褐色のやつは1人も見当たらない。そりゃそうだ。冒険者として登録をした後、修練場で鍛錬をし、Lv10にならないと町の外には出れないし。
 出てはいけないという決まりはないが、自殺願望者でもない限り出る者は居ないだろう。・・・俺たち以外には。
 そんな俺達の事を見つけたならず者風の冒険者が、ニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべながら近付いて来て、話しかけてきた。

「よう!坊主。ひょっとしてお前達もこのイベントに参加する気なのか?! ヒックッ ウィ~」

 フラフラと千鳥足でやってき、話しかける息が酒臭く思わず顔をひきつらせた。

「なんだなんだ?!その顔はよぉ!? ガキがこんなトコをうろつくんじゃねぇよ!死にてぇのか?! おめぇらは!」

 ガハハハと大口を開けてバカにしたように笑いながら、くるりと後ろを振り返り、店中に響き渡る声でこう言った。

「おい!みんな! このお坊ちゃん達が明日ゴブリン退治に行くんだとよ!」

 笑ながらそういうと、酒を飲んでいい気分になっていた他の冒険者たちも、「子供はママのおっぱいでも飲んでろよ」とか「あの腕輪の色見て見ろよ。銅褐色だぜ?! 頭おかしいんじゃないのか?!」などと言う声も聞こえてきた。
 店の中は急に騒がしくなり、俺達を、いや、俺を揶揄する言葉しか聞こえなくなっていった。これ以上ここに居てもまともな情報は手に入らないと判断した俺は、店主に空いている部屋が有るかどうかを聞くと、この宿屋は既に満室だと言われ、他の宿屋を紹介される。

  • No.29 by ハナミズキ  2015-11-07 16:17:52 



 紹介された宿屋に行ってみると、お世辞にも立派とは言えなかったが、掃除は行き届いているようで小奇麗にしていた。
 部屋の空きを確認すると、丁度一部屋だけ空いているとの事だ。本来なら別々の部屋を取りたい所だったが、この混雑では無理だろうと判断をし、俺達は兄と妹の兄妹と言う事でこの日は乗り切る事にしたのだった。

  • No.30 by ハナミズキ  2015-11-07 16:19:33 


 部屋に通された二人はボー然とした。なぜなら、ベッドが1つしかなかったからだ。宿屋の女将さんは「今日はもう、1人部屋しか残ってないのよ。二人で寝るにはちょっと狭いかもしれないけど我慢してちょうだいね」と。

 部屋の入り口にたたずみ、窓の側にあるベッドを見ながら、ユーリは力なく笑った。

「アハ・・・アハハハ…」

「俺は床で寝るよ。ベッドはユーリが使いなよ」

 いくら設定上兄妹だとは言っても、本物の兄妹ではない。それに、いくら見た目が子供のようでも、ユーリはモリトより年上だ。それらを除いたとしても、女の子を床に寝せるわけにはいかないと思ったのだろう。だが、ユーリからは意外な答えが返ってきた。

「別にいいわよ?同じベッドでも」
「へっ?」

 一瞬、ユーリが何を言ったのか理解できなかったが、冷静になって考えてみるとユーリがとんでもない発言をした事に気が付いた。

「いやいやいや!ちょっと落ち着きましょう、ユーリさん!自分が何を言ったか分かってます?理解してます?」

 思わずユーリとのベッドシーンを妄想してしまったモリトは、思考回路がぶっ飛び、頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしながら慌てふためいた。

  • No.31 by ハナミズキ  2015-11-07 16:23:11 


「何をそんなに慌ててるの?モリトは明日霧の森に行くんでしょ?なら、床になんかに寝て疲れを残しちゃダメよ。私なら大丈夫よ?これでも寝相は良い方なんだから」

 屈託なく笑うその笑顔にモリトは、自分がどれだけ世間の穢れに侵されていたのかと、少し自己嫌悪に陥ってしまった。
良く考えれば、ユーリは8年間無菌培養室の中のような所に居た人だ。俺達生身の男が、女の子と二人っきりという状況で何を考えているのかと言う事など、想像もしていないんだろうな…。と、改めて感じたのであった。
 そう。ユーリが知っている異性とは、病院の医師か入院する以前、小学生の時の同級生男子くらいだろう。いまだに俺の事もその小学生男子と同じレベルで見ているんだろうな…。と、漠然と思ったのだった。

 まぁ、ユーリは見た目がアレなので、ロリコンではない限り平常心を保てそうだと自分に言い聞かせて、少し落ち着きを取り戻すのであった。






― 2話 完

  • No.32 by ハナミズキ  2015-11-07 16:37:31 

次回は 【 最強のLv1 前編 】となります。


成り行きでゴブリン退治に行く事になったモリトだが、ちょっとしたご縁からハロルドに「一緒に行かないか」とグループに誘われて行動を共にするなる。

そこでゴブリン以外の魔物と遭遇をしてしまい、みんなが死を覚悟した時・・・。


では、お楽しみに!(楽しみにしている人がいるかどうかは不明ですが(笑))

  • No.33 by ハナミズキ  2015-11-09 16:28:57 

◆ 最強のLv1 前編 ◆


 俺達は昨日スワンの村に着いたが、最近この付近に出没しているゴブリンの討伐募集と重なったために、何処の宿屋も満室で困っていた所を、食堂のおばちゃんに紹介してもらった宿屋に泊まる事ができた。
 しかし、その宿屋も1人部屋が1つしか空いていなかったために、俺とユーリが二人で一部屋を使う事になった。
 この旅を続けるうえで、面倒な問題ごとを回避するために、俺達は兄妹と言う設定にしているが、実際には姉と弟と言う様な年齢差だ。しかし、どう頑張って見ても、外見的には兄と妹に見えてしまう。
 初めユーリは不満そうにしていたけど、もう慣れたようにも見える。

 この宿屋の店主も兄妹だと思ったのか、当然の様に俺達を、ベッドが1つしかない部屋に案内してくれた。
 ユーリの外見がいくら子供に見えても、女性と一緒に寝るのはまずい。俺はロリコンじゃないが、そこまで人間が出来た男でもない。21歳のお姉さまと同じベッドで寝て、何もしないという保証は出来なかったからだ。
 俺だってまだ18歳だし、そういう事にも興味はある。理性が持つかどうか、全く自信が無かった。が、結果は爆睡してしまった。やっぱ俺って…、ヘタレだよな…。

  • No.34 by ハナミズキ  2015-11-09 16:30:35 


「モリト! モリト! いつまで寝てるの?! 早く起きないと朝食の時間が終わっちゃうわよ」

 昨晩、ユーリと同じ部屋、同じベッドと言う事でなかなか寝られなかったモリトだったが、いつの間にか熟睡していたようだ。気が付けば朝で、ユーリに起こされるまで寝ていたとは、よほど疲れていたのだろう。

「もう朝なのか…」

 まだ半分寝ぼけてはいるが、ゆっくりとベッドから起き上がり冷たい水で顔を洗う。やっと目が覚めたモリトは、1階にある食堂へと、ユーリと共に階段を降りて行った。
 あまり広くはない食堂では大勢の人が食事をしており、モリト達が座れるテーブルは見当たらない。

 人の多さに呆気にとられて立ちすくしていると、後ろから女将に声を掛けられ相席を勧められた。

「おやおや、お兄さん達ずいぶんゆっくりじゃないか。あいにく込んでてね、相席でもいいかい?」
「はい、俺達は構いませんよ」

  • No.35 by ハナミズキ  2015-11-09 16:31:32 


 二人分の空席があるテーブルに、女将はモリト達を案内すると、「お客さん。この人達と相席でも構わないかい?」そう話しかけられた人達は、「俺達は構わないよ。もう食べ終わるしな」。
 相席を快く承知してくれたその人達も、どうやら魔物退治のイベントに参加するようであった。会話の中でフォーメーションがどうのとか、持ち物の確認とかの話しが出てきていたからだ。


「なぁ、ユーリ」
「何?」

「今日は村に残っててくれないか?何か嫌な予感がするんだ・・・・。」
「その意見には私も賛成よ。私も嫌な予感がするのよね」

 こう言う時の2人の感は当たる。動物的直感と言ってもいいほどよく当たるのだ。その話を聞いていた相席者たちは、

「もしかして、君もゴブリン退治に行くのかい?でも君は・・・・」

 そう言いながら彼は、視線を腕に装備している腕輪に向けられていた。

「あっ。これですか?腕輪は銅褐色ですけど、剣の腕には少しは自信があるんですよ」

にこやかに答えるモリトだった。

「でも一人じゃ危険だろ? 君さえ良かったら俺達のチームに入らないか?」
「いいんですか?! それならお言葉に甘えて入れてもらおうかな」

 仲間に入れてもらったそのメンバーは、リーダーであろうと思われる男性が剣士で、腕輪の色は《水色》、一番お喋りで軽そうな男性がアーチャー(弓使い)、腕輪の色は《緑》だ。最後の1人が女性で魔法使い。気の弱そうな外見はしてるが一番のしっかり者らしい。
 三人の風貌から見た感じ、モリトと同年代の様に見える。歳も近いという事もあるのか、モリトはあっという間にその三人に溶け込んでいったのだった。

  • No.36 by ハナミズキ  2015-11-09 16:34:07 


 食事の終わった者達から次々にと霧の森へと向かって歩いて行く様子が窓越しに見える。自分達も後れを取ってはいけないと、早々と支度をし、出発の準備をした。
 ユーリは村の入り口まで付いて行き、モリト達四人を見送った後、1人で村の周囲を回り、もしも魔物がこの村にやって来た時の場合を考えて、魔法陣による罠をあちこちに仕掛けて置いた。

 ひと仕事をし終わったユーリは、昨日出来なかった洗濯をし、旅に必要な物の補充作業を行うと、後はもう何もする事が無くなってしまった。今日の様な良い天気の日に部屋でくすぶっているのが勿体ない。そう思わせるような快晴であった。

「さてと・・・。みんなが帰って来るまで何してよっかなぁ~」

 そこへ宿屋の女将がユーリに話しかけてきた。

「ちょうど良かったわ、ユーリちゃん。うちの娘のお古だけど、ユーリちゃんに似合うと思うのよ「コレ」、来てみないかい?」

 そう言って差し出した手に持っていた服は、ゴシック調のフリルが沢山ついた、いわゆるゴスロリと言う服であった。色は黒で、ユーリは入院中から一度は着てみたいと思っていた服である。
大喜びでその服を貰い受け、着替える事にした。ユーリがたいそう気に入っていたので、女将は他の服もユーリに渡すと、着せ替え人形の様に次々にと着替えて女将に見せに来る。その光景を女将と亭主は目を細めながらニコニコとしながら見ていたのだった。

  • No.37 by ハナミズキ  2015-11-09 16:34:58 

** 霧の森にて **


「しかし、こう霧が濃いと何も見えないな…」リーダーであり剣士のハロルドが呟くように言う。
「あの~…、ケントはアーチャーのスキル《イーグルアイ》が使えませんか?」
モリトが言うと、あっ、そう言えばそんなスキルがあったっけ。と言う様な顔をして
「そう言えばそのスキルあったわwww」と、おちゃらけた笑をしながらイーグルアイを発動させた。

 《イーグルアイ》とは、アーチャーのみが使用できるスキルで、頭上高くに視点を置き辺りを見渡せるスキルの事だ。イーグルアイのスキルポイントが高くなれば高くなるほど視界はクリアに見え、最高ポイントに達すると、地中深く潜っている魔物も温感探索で居場所が分かる優れものだ。しかしケントのレベルでは、まだ温感探知までには達していないだろう。

「ダメだぁ~! 全く分からん…!」

 集中するのが苦手なケントはグッタリとしな垂れた。
 仕方が無いので、モリトは《とぎすまし》のスキルを使う事にした。精神を統一し、神経を集中させることによって、半径100m内にいる魔物の気配を感じ取る事ができる。しかし、魔物の種類までは判別できないので、ゴブリンではなくピクシー達の可能性の方が大きい。

「・・・・いる。 一時の方向に居ますが、ゴブリンにしちゃデカイような気がするんですが…」
「一時の方向だな!よし!行ってみようぜ!!」

 ケントは先頭を切って歩き出した。そして霧の中から現れた魔物は、ゴブリンではなく、ピクシーでもなかった。姿を現した魔物の正体は、なんと、グリュフォンだったのだ。

  • No.38 by ハナミズキ  2015-11-09 16:36:36 


 グリュフォンは本来、天空都市の山奥に住んでいる生き物だ。人里には降りてはこない。そのグリュフォンが何故ここに居るのかは不明だったが、それ以上にグリュフォンのレベルがやばかった。
 天空都市にいる魔物のレベルは60~であり、その中でグリュフォンのレベルはLv70だったのだ。そんな魔物が下界に降りてくれば、グリュフォンを倒せる冒険者などは殆ど存在しないも同然である。銀の腕輪(Lv71~80)を付けた冒険者達はみな、天空都市へと移動しているからだ。ハロルド達は呆然とした。このままでは自分達はおろか、スワンの村まで滅んでしまうと…。

 ガタガタと震えながら悲壮な顔つきでグリュフォンを見ている三人とは裏腹に、モリトは落ち着き払った態度で少し考えていた。自分一人なら時間はかかるが、グリュフォンなら倒せる。しかし、三人を守りながらでの戦いはちょっときつかった。だが、レベル50前後の冒険者なら、自分の身くらい自分で守れるであろうと考えた。そして、恐怖で思考が上手く働いていない三人に対し、自分達が今何をやるべきなのかの指示を出し始めたのだ。

「リズ!全員に素早さと防御をかけて!その後すぐにバイキルト(攻撃力UP)全開!タイミングを計って回復魔法!余裕ができたらドグラス(毒)だ!」
「は、ハイ!!」

「ケントは援護射撃でグリュフォンの目を狙え!倒そうなんて考えなくていい!動きを止める事だけを考えろ!」
「わ‥分かった。やってみるよ」

「ハロルドはブレストレイン(剣に氷魔法を乗せるスキル)使えるな?」
「ああ」
「危険だからグリュフォンには近づくな。遠距離攻撃でギリギリの範囲で戦うんだ。できるね?」

 人が変わったかのように指示を出すモリト。三人はすっかり、モリトがLv1の銅褐色冒険者だと言う事を忘れていたのだった。それぞれがモリトに言われた通りに動き、即席チームのわりには中々連携が取れていた。
 三人をなるべく安全な距離からの攻撃に回し、自分はグリュフォンに向かって突進していった。

「モリト!!何する気だお前!!!」

 グリュフォンに突っ込んでいくモリトを見たケントが怒鳴ったが、次の瞬間、その場に居た誰もが驚き、ゴクリと固唾を飲んだ。

  • No.39 by ハナミズキ  2015-11-09 16:37:56 


「疾風剣連打あああぁぁ!」

 疾風剣。かまいたちの様に空気を操り、薙ぎ払った剣先から真空ができて、それを相手にぶつけるという技だ。ぶつけられた相手は、鋭い切れ味の真空がその身を切り刻み、結構なダメージを受ける事となる。だがそれだけではグリュフォンを倒せない。
 モリトが着地したと同時にグリュフォンの尾が勢いよく振られ、モリトに思いっきり命中をした。しかし防御魔法をかけて貰っていたので、そのダメージは半分で済んだのである。

 尾の勢いで吹き飛ばされたモリトはすぐさま体勢を立て直し、更に次の攻撃へと移行した。大きく飛び上がり、グリュフォンの頭上に乗ると、稲妻を呼び起こし「エレキセントブレイド!!」と叫んで、その剣をグリュフォンに力一杯挿しこんだ。
 強烈な稲妻により、今までの攻撃で半分以上HPを削られていたグリュフォンは、力なくその場倒れたが、まだ生きている。

「よし!今ならいいぞ!ハロルド!」

 ハロルドとモリトはグリュフォンとの接近戦に持ち込み、剣で切りつける。ケントは後方から弓で連射し、リズはグリュフォンが動き出さない様に、魔法でグリュフォンを麻痺させた。

 死闘の末に全く動かなくなり、鳴き声さえも聞こえなくなったグリュフォンを確認した三人は、ヘナヘナと地面に倒れ込みホッと胸を撫でおろすのであった。

  • No.40 by ハナミズキ  2015-11-09 16:40:14 

 安心したのか半分泣きながら言うリズ。
「助かった・・・・・」

 腰を抜かしたまま地面にへたり込みながらケントが言う。
「お前って、マジで強かったんだな……。」

 ハロルドは少し落ち着きを取り戻し、モリトに質問した。
「モリトは…、なんで銅褐色なんだ?本当なら《銀》じゃないのか?」

 頭をポリポリと掻きながら、モリトは答えた。
「んん~・・・・、俺にもよく分かんないんですよねw 冒険者登録をしたのが昨日だし、それ以前の経験値は無効みたいだし?」笑ながら意味深に答えた。
 その時である。モリトの腕輪が銅褐色から銅赤色に変化したのだ。

「ん? 色が変わった・・・・?」

 モリトはこの時初めて、経験値に応じて腕輪の色が変わる事を知った。銅赤色になったという事は、レベルが10以上になったという事も意味している。

 モリトの実力であれば、水色や青になるのもさほど時間はかからないだろう。しかし、腕輪が示すレベルより、遥かに高いレベルであるはずのモリトは、この先しばらくの間、自分よりレベルが低い者達に見下される事になるのであった。




 他の冒険者達もゴブリン退治が始まったのか、あちこちから魔物の断末魔が聞こえはじめて来た。このまま先に進んでもゴブリンはもう居ないだろうと、四人はグリュフォンを解体し、必要な部位や魔物の体の中に納まっているエネルギー石であるマナを取り出し持ち帰る事にしたのだった。




― 3話 完

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