短編です

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雪風  2015-06-07 23:36:40 
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短編書きます。

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  • No.45 by 青葉  2016-09-10 22:48:07 

「私は夢の中から出られないのです。」

そう彼女は言った。可笑しなことを言うものだ。
彼女は、ずっと覚醒することなく眠っていて、長い間、夢の中をさ迷っている。そう思っているようだ。

「夢の中?でも僕とこうして話しているではありませんか。」

僕は彼女に同情しながら、優しく声を掛けた。
彼女は少し精神が病んでいるようだ。
妄想にとりつかれているのだ。

「ええ、話しています。でも、それが何だと言うのです?至極当然のことです。夢の中だって会話はするでしょう。ここは夢の中です。」

彼女はこの現実を、夢の世界だと頑なに信じている。
まあ、それが妄想というものだろう。

「もちろんそうですね。夢を見た時に会話することはあります。しかし、僕らは現実にいます。ここは夢の中ではありません。」

何を言っても無駄なことは分かっている。が、だからといってこんな時はどうすれば良いのだろうか。

彼女は言う。
「ここが現実だと言いますが、本当にそうだと証明出来ますか?出来るならばやってみせて下さい。そうしたら、あなたの言うことを信じます。……出来ないでしょうね。何せここは夢の中ですから。」

何だか小馬鹿にされた気分がした。
が、彼女は病気なのだから仕方ない。それに彼女は馬鹿にしたつもりはなかっただろう。彼女にとって現状を理解してないのは僕の方なのだから。

「ここが貴方の夢の中ならば、どうして僕はここに居るのです?僕はどうやって貴方の夢の中に入り込んだのですか?人の夢の中に入るなんて不可能なことですよ。」

さて、彼女はこの至極まっとうな話を理解出来るだろうか。普通の人ならば反論はできないだろう。しかし、妄想の中にいる彼女にとってはどうだろうか。きっと抗ってくるだろう。
そう思いながらも、期待することはある。
彼女はどんな言葉を出すだろう。どう反論してくるのだろう。きっと、突拍子もない面白いことを言い出すはずだ。
そんな期待は失礼だとは思う。妄想を面白がるなど飛んでもないことだ。
だが、そう考えてしまったのだから仕方がない。要は彼女に僕の心の内が悟られなければいい。彼女に不愉快な思いをさせなければいいのだ。

「ごめんなさいね。」

彼女はそう言った。出だしは謝罪だった。そして言葉を続ける。

「いつだったか思いだせないけど、あたし、誤って階段を踏み外してしまったの。それは覚えている……。それで頭を強く打ったんでしょうね。それから、目覚めてないのよ。おそらく今は病院のベッドの上ね。ずっと夢を見続けているの。いえ、見続けているとは言えないかしら。深い眠りの時は夢をみていない。浅い眠りになると夢をみている。きっとね。夢ってそういったものでしょう。頭を打ったあの日以来たくさんの夢をみたわ。そして夢の中でたくさんの人と会ってきたの。あなたは、その内の一人ということね。」

なるほど、と思う。
彼女の妄想がどんな設定なのかが理解出来た。

「ごめんなさいね。」

そして彼女はもう一度そう謝罪した。
だから僕は訊く。

「何を謝っているのですか?」

彼女は本当に済まなそうな顔をした。

「だって、あなたは自分の存在を何の疑いもなく信じてるもの。未来があると思っているもの。なのに、あなたはもう消えなければならない運命。この夢が終わったら、あなたを無に帰さなければならない。」

まあまあかな。
そう思った。
期待したほどではないが、そこそこの面白さはある。

「夢が終わると僕の存在を消すことになる。それを謝罪していたのですね。」

妄想は彼女にとっての現実だ。彼女は真剣に謝っているのだろう。

「 夢なんて無意識に作るでしょう。だから、あなたを作り出したのも無意識なのよ。 赦してね。」

彼女は真剣に申し訳なさそうな表情をしている。
その顔を見ると、何とも可哀想になってくる。
何もしていないのに僕に対しての罪悪感を背負ってしまっている。

「あなたは何も悪くないです。気にしないで下さい。」

とにかく彼女を安心させようと思いそう言った。が、 僕の言葉など意味はなかった様で、彼女の表情は全く変わらなかった。

「そろそろね。この夢が終わるのも……、わかるものね。つまり、あなたの命も尽きるわ。」

何故か彼女は上を見上げて目を瞑っているいる。

「…………。」

何を言えばいいのか分からず沈黙してしまう。
どうやら、この夢終わりが近づいているようだ。
しかし、彼女はどうするのだろうか?
ここは現実だ。だから、彼女の言うような夢の終りは来ない。
終わりが来ないことをどう説明するのだろうか。どう理由をつけるのだろうか。

暫く彼女もそのままの姿勢を保ちながら口を開かなかった。

目を瞑っているのは無意識に理由を考えているのだろうか?

「夢が終わるのが分かるのですか?深い眠りが来そうなのですか?」

沈黙が嫌でそう声を掛けた。

「いいえ、どうやら目覚めるみたい。現実の音が……、声が聴こえるの。あたしを呼んでる。あたしの名前を誰かが……。あたしの名前を呼ぶ声が微かに聴こえるの。現実に帰れる。」

目を瞑っているのは、耳を澄ましているかららしい。

その時、僕の背筋が凍る。

名前!

名前!名前!

名前!名前!名前!

自分の名前が思い出せない!

僕は僕の名前が思い出せない。

「もう、目覚めるみたい……」

彼女の言葉に恐怖する。

待って!!
名前が思い出せない!!
彼女の言ってることは本当?
だとしたら僕の存在の方が……
そんな訳がない!!
待って!!
いま思い出すから……

「サヨウナラ」

辺りが暗くなる。

待って!!





完全なる闇が来た。

そして、目覚めが始まる。


おわり

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