雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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翌日
放課後に学校を出ると、真っ直ぐに女性の家に向かった。
早足で図書館を通りすぎる。
女性の家に着く前にタオルを取り出した。
僕に出来ることは仔猫にタオルを使ってもらうくらいのことだが、早く仔猫に何かした形が欲しかった。
女性の家の門まで来ると息が切れていた。それなりの距離を早足で歩いてきたので当然だろう。
門の前に立ち、耳をすます。
特に何も聞こえない。
期待外れを感じた。
仔猫は僕が近くに来ると姿を見せなくても鳴くのではないかと少しだけ楽しみにしていた。
昨日はそうだったと女性は言っていた。
が、今日は違うらしい。
仔猫は眠っているのかもしれない。
門から顔だけ出して中を伺う。
女性がいた。
縁側に座っていて、籠ごと仔猫を膝に乗せていた。
門をくぐると女性が僕に気付く。
「お帰り。約束を守ってくれたね。」
そう言って微笑んだ。
「お邪魔します。……実はタオルを持ってきました。その籠の中に敷いて貰おうと思いまして。」
女性の視線が僕のタオルを持っている手にいく。
「ありがとう。良かったね、お前。」
下を向き、仔猫にそう話掛ける女性。
仔猫は動かない。
縁側に歩いている途中に僕は雫を見た。
下を向いたままの女性と籠の中の猫との間に一粒の涙の雫を見た。
嫌な予感がする。
「眠っているのですか?」
歩み寄りながらそう訊くと、
「うん。眠ってるよ……。」
と短い答えが返ってきた。
女性の隣に僕は座る。
仔猫は目をつむり小さな口を空けたまま微動だにしない。
「!」
言葉が出なかった。
女性が泣き笑い顔をしながら
「そのタオルいい?」
そう言った。
タオル渡すと、女性は仔猫を片手てながらも大事にそうに持ち上げてタオルを敷き、元に場所に仔猫を戻した。
そして泣き声で呟く。
「綺麗な水色だよ。本当に良かったね。……お前、……まるでお空にいるみたいだよ。」
全てを悟った。もう何も訊く必要はなかった。
「でもさ、そんなに早くお空にいかなくて良かったのに。もう少しゆっくりしていけば良かったのに……。」
その後、言葉を発しない女性の隣で僕は下を向きながら座っていた。
ほどなくして僕は意識せずに呟く。
「ごめんね、もっと早く来るべきだったね。ごめんね。……そうじゃないか。あの日、家族の反対を押し切ってでも家に連れていけば良かったね。本当に、本当にごめんね。」
女性は首を振る。
「謝らなくていいよ。確かにこの子、君を待っていたけど、家族の反対があったなら、この子はここにいるべきだったんだよ。」
「………。」
「でも妬けるな。本当に妬けるな。この子と一緒にいたのは、あたしなのに。でもこの子は君を好きだったんだもんね。」
僕の目からも涙があふれ、容赦なくこぼれていく。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何を謝っているのか自分でも解らないが、そう口が動く。
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