雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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しかし、僕の覚悟とは裏腹にお母さんはあっさりと言う。
「それは良いことね。男の子は家を出る逞しさがないと、これから大変だからね。」
この言葉を聞き拍子抜けした。
下手をすると泣かれるかと思っていたので安心はしたが、寂しさも感じた。
僕の複雑な心境を察したのか、お母さんは言葉を続ける。
「あなたには悪いことをしたと思ってるのよ。お母さんの再婚のせいで、一緒にこの家に来るとこになったけど、正直に言ったらあなたにとって居心地は良くないでしょう?ごめんね。」
「………。」
「だからね、あなたが家を出るのは良いことだと思うの。お母さんに付き合わせて辛い思いをさせてるから。あなたが家を出ても親子じゃなくなるわけじゃないし。でもね……」
そこでお母さんは言葉を切った。
「何?」
「家を出てなにをするの?働くの?」
「そのつもりだよ。」
当然だとばかりに答える。
「進学して、独り暮らしをするという手もあるでしょう。大学に入ってアパート生活してる人なんてたくさんいるわ。大学寮だってあるんでしょう。それは考えないの?家を出ることには変わりないんじゃない?」
お母さんは僕にどうしても進学をしてほしいようだ。
そう感じる。
「それにはお金が必要だから……。」
お母さんはやはり僕の進学の為に結婚したのだろうか。
それを考えてしまう。
「あなたが、お父さんの援助で進学するのが嫌なのは薄々分かってるわ。結衣ちゃんの存在かそうさせているのもね。」
お母さんは核心をつく。僕の考えなどお見通しだったようだ。
「だからね、お母さんはお父さんにお願いしたの。あなたが進学したい気持ちが有ったらお金を出してほしいと。でも、そのお金は必ずあなたが返すから、ってね。お父さんは返す必要はないと言ってくれたけど、それではあなたは承諾しないでしょう?」
僕は頷く。
「お父さんには、お金は絶対に返すということにしてもらったの。もし、あなたが返さなくても、お母さんが必ず返すと言ってね。」
「………。」
「それからね、進学したとし独生活費が必要でしょう?生活費の為にアルバイトばかりして勉強が疎かになったら本末転倒じゃない。だから、お母さん、あなたが進学したらパートに出ようと思って。あなたの生活費を送るわ。そのお金は返すことないわよ。」
お母さんは笑ってそう言った。
そんなお母さんを見ながら思う。
僕はそんなに勉強したかったのかな。
と。
でも、お母さんは僕に勉強を続けて欲しいと思っていることはよく分かる。
その気持ちを裏切る術を僕は持っていない。しかし、僕は就職するつもりでいた。
「ありがとう、お母さん。でも僕は就職しようと決めたんだ。だいたいお母さんにそこまでさせられないよ。」
「そこまでって?お母さんほずっと働いてきたのよ。知ってるでしょう?再婚してから家の仕事ばかりで退屈していたのよ。あなたのお陰で外で働く良い口実ができるわ。お礼を言うのはお母さんね。ありがとうね。だいたい、あなたは成績がいいんだから勿体ないわよ。」
さっき以上の笑顔でお母さんにそう言われてしまった。
もう諦めるしかない。
「考えてみるよ。」
もう、お母さんが僕を進学させるために再婚したのか違うのか考えても仕方ないことだった。お母さんには強い信念があるのだ。
僕はきっと進学するのだろうと思いながらごはんを食べた。
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