雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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入浴中にお母さんは着替えを持ってきて、脱衣場に置いてくれていた。
お風呂を出た後、それを着て廊下に出ると、誰かの階段を降りてくる音が聞こえた。
降りて来たのはお母さんだった。いつの間にか二階に上がっていたようだ。
リビングからは誰の声も聞こえなかった。灯りがもれているので、お父さんか結衣はリビングにいるのだろう。
「ご飯食べるでしょう?」
入浴前と同じことをお母さんは訊いてきた。
「うん。離れに持っていくよ。」
そう答えた。実は家の中に入る前は、遠慮をやめてこの母屋で食べていこうと考えていた。が、お父さんと結衣の言い合いとお母さんの意味深長な笑みで気が削がれてしまっていた。
「ご飯、温め直してくるわね。離れにはお母さんが持っていくから先に戻ってて。」
特に違和感がない自然な様子でお母さんはリビングに入っていった。表情もいつも通りに戻っていた。
でも不自然だった。
お母さんが離れに食事を持ってくることは今迄に一度もなかった。
僕はいつも食事を自分で運んだ。
お母さんは僕に遠慮をしているのか離れにあまり近づくことはなかった。
何か話があるのかもしれない。
そう考え、不安が増した。
仔猫を飼いたい。
その言葉を僕が口にしたことで、今日この家族の心はそれぞれ大きく揺れてしまった。
お母さんの心の揺れはどれ程で、何を感じたのだろうか。
今迄にない行動を取るお母さんは僕に何を言うのだろう。
母屋を出て離れに戻る。
お母さんが来るまで、そんなに長い時間は掛からなかった。
だけど、お母さんが何を言うのか色々な予測が頭に浮かび、それがことごとく辛い想像で、お母さんが離れの扉を開けるまでに僕はすっかり考え疲れしてしまっていた。
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