炎の灯に照らされて、 

 炎の灯に照らされて、 

下級妖怪  2021-05-06 19:39:12 
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とあるトピより。今までのやり取りをまとめたものを。




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  • No.21 by 下級妖怪  2021-05-06 20:21:08 



心にも思っていないことをそれっぽく言うのは慣れている筈が、知らず知らずのうちに多少の緊張を覚えていたらしい。とりあえず鈍感な人で良かったと、すっかり騙されている相手を見ながらも内心少しばかり安堵して。ぽわぽわしている相手の様子を見つつ、僅かに目を細める。こうも簡単に誤魔化しが効くとは、やはり人間は馬鹿であるようだ。

「ええ、まあ……貴方のような人間は、側にいて守ってあげなければいけない存在ですから」

相手の言葉にふっ、とちょっとだけ口角を上げながらそう言って。狡猾な者が多いこの世界では、このような単純な生き物はすぐに喰われてしまうに違いない。それを防ぐためにも、自分は人間を守らなければいけない。まぁ、人間そのものに興味があるからというのも理由の一つ……いや、実を言えばそっちの方が大半を占めてはいるのだが。

「──さあ、着きましたよ」

そうこうしているうちに暗がりの道も終点が近づいてきたのか、月明かりが差し込みはじめ。木造の家が見えはじめれば、相手に向かってそう呼びかけて


  • No.22 by 下級妖怪  2021-05-06 20:21:51 



 「ええ、まあ……貴方のような人間は、側にいて守ってあげなければいけない存在ですから」
環のその言葉に周は明らかに動揺してしまう。
「えッ」と短く声を上げ瞬きを繰り返せば不貞腐れたように口を尖がらせて不機嫌そうに眉根を顰める。
 「………僕だって男です………気持ちは嬉しいですけど……環さんに守られてる素直に自分が格好悪くて何だか……嫌です」
小さな声でぼそぼそと呟く周は上目遣いに口角をふ、と上げている環を見つめ視線を落として。


「──さあ、着きましたよ」

真っ暗闇で自分の恐怖心を煽っていた道にも月明かりが差し込みはじめ、やっと周は周りを見渡せるようになる。月明かりに照らされた道はきらきらと光っているようで周は眼を見開いて、表情を綻ばせた。
澄んでいる空気を吸って吐き、深呼吸を繰り返す。風が、自分の頬を撫でる心地良さに目を伏せて木造の家が見え始めた景色に「あれが環さんのおうちですか……」と呟いてこれで一安心だとばかり環を一瞥して。


  • No.23 by 下級妖怪  2021-05-06 20:23:02 



「ええ、……少し、そこで待っていてくださいね」

ここまで来たならこれ以上のサポートは要らないだろうと相手の手を静かに離しつつ、相手の呟きに頷いて。
家の入り口近くまで歩いては、早速家の中へと招き入れよう、そう考えるも一つ問題点があることに気付き。その問題点とやらはよく世間で言われるような、家の中が汚いとかでは決して無い。けれど、今の家の中はというと、疾しいものではないものの、彼に見られては幾分か不都合なものがインテリアとして飾られている状態だ。まずはそれを片付けないといけない。
キィィと軋んだ音を立てながら家の扉を開けつつ、そう指示を投げる。先程までビクビク怯えていた彼を外に一人放置するのは些か非情かもしれないが、此処は月も出ているしそこまで暗くはないのだ、大丈夫だろう。そう考えつつ家の中に入っていき


  • No.24 by 下級妖怪  2021-05-06 20:23:54 



 「ええ、……少し、そこで待っていてくださいね」

環の手が静かに離れていく。その途端、心にぽっかり穴が開いたように自分の頬を掠める風が同時に通るように冷たく、ひんやりと凍っていく感じが何故かして周は声には出さないものの眉を顰めた。

 そこで待っていろ、キィと扉を開けて環に投げられた言葉に何度も首を振って「わかりました」と出来るだけ安堵いっぱいな声を出し微笑んでみる。

 一人になった周は、はあああぁと一気に疲れが押し寄せて来て大きく息を吐いた。
「あーもう、怖くない怖くない……大丈夫っ」と突如自分に襲い掛かろうとしていた奴らが思い出し周は言い聞かせるように呟き。


  • No.25 by 下級妖怪  2021-05-06 20:25:29 



「──お待たせしました、もう中に入って大丈夫ですよ」

環が家に入って十数分後経ったあたりだろうか。キィイッと軋んだ音を立てながらも玄関の扉を開ければ、半身を外へと覗かせては相手の方へと顔を向ける。にこりと穏やかな笑みを携えたままそう言えば、家の中へと招くような仕草を取りつつも、相手が入りやすいようにと扉付近から少し離れて。
環の家の中はそれほど物が散乱しているわけでもなく、どちらかといえば綺麗に片付いている部類に入るだろう。……いや、正確に言うならば、『生活感の薄い、まるでミニマリストを連想させるような家の中』が正解であろうが。


  • No.26 by 下級妖怪  2021-05-06 20:26:17 



 「──お待たせしました、もう中に入って大丈夫ですよ」と声を掛けられたのは十数分後。
にこりと穏やかな笑みを携えたまま言って家の中へと招くような仕草をする環にぺこぺこと「失礼します……」と俯きながらも環の家に入っていき。

 そう言えば人の家、もっと言うなら女性の家に入るのは初めてでは、と気付いてしまい何だが変な気分になってしまう。どきどきと胸躍らせるも緊張して歩く姿はかちかちになってしまっていたが部屋を見た瞬に周は表情をなくしてしまう。
 
 「……えっと」

喉から何とか声を絞り出す。環の部屋は、本当に生活しているのかってぐらいに物がなく、テレビに出るミニマリストのように片付いていて。もっと言えば殺風景で、想像していた女の子の部屋、とは思えない感じで黙り込んでしまう。
 まあ、言って見れば女の子、ではなくそもそも論で人間ではないし、と整理をする周は笑いながら「わ、わぁー……綺麗ですね、えっと僕の部屋なんかごちゃごちゃ本とか散乱してますよ」と言い。

 「環さんてお片付け上手なんですね、ほんと凄い。生活してるのかなって思うくらいで驚いちゃいました」
あ、っと出してしまった本音に心の中でああっと唸っているが周は笑顔でにこにこしていて。


  • No.27 by 下級妖怪  2021-05-06 20:38:25 



◇ 環と日比谷周

>周   
>2    >4    >6    
>8   >10   >12  
>14   >16   >18  
>20   >22   >24
>26

>環
>3    >5    >7
>9    >11    >13
>15    >17    >19
>21    >23    >25


  • No.28 by 下級妖怪  2021-05-06 20:39:41 



此処に来てからどれくらい時間が経ったか。水の中から空を見上げつつ、ヴァルプは考える。とはいえ空の様子が全く変わる素振りは依然として無く、近くに時間を確認できるものも無い。そんな状況下に置かれているヴァルプには到底答えることのできない疑問であった。考えても分からないものは分からない。やがて匙を投げては現実逃避するように、水中を泳ぎ回る。この一連の行動はヴァルプの習慣になりつつあった。

(……早く帰りたい……けど、ここだけは居心地が良い)

此処の訳の分からないやつらに迫害され逃げ回った結果、偶然見つけた場所ではあるが、この場所は中々に良い。海みたいに広くて深いからか、水中に身を潜めていればやつらに見つかることがあまり無い。

(……そろそろ、上がるか)

ずっと水中にいてもなんてことは無いが、なんとなく息継ぎをしたり、日向ぼっこしてみたりしたくなるものだったり。もっとも、此処では日向ぼっこというよりは月光浴び、だろうが。そんなことを適当に考えながら、いつものように、ぷは、と小さく音を立てれば水面から顔を覗かせて。

「…………誰か、いる?」

いつもなら一旦水辺まで上がるところだが、なんとなく様子がいつもと違う。ただ何となくそう感じ取れば、その場でじっと水辺の方を見ながらもぽつりと呟く。暗くてよく見えないものの、数秒もすれば、ヴァルプには弱々しい淡い光とそれに照らし出されているらしい謎の黒いシルエットがじんわりと浮かび上がっているのが見えた。なんだあれ、気持ち悪い。今の状態では正体がいまいち掴みきれないせいか、そんなストレートな感想が頭を過ぎった。
……気付かない間になにかのオブジェクトが置かれていたのだろうか。それとも例のやつらが自分を探しに来たのだろうか。なんにせよ、不気味なそれの正体を調べる必要があった。もしやつらならば、そのまま遠くへと泳いで逃げてしまえば良い。

(それに照らされなかったら大丈夫、な筈よね)

夜間の水場は光にでも強く照らされなければ、水面下の状況なんてあまり見えないだろう。そう踏んだヴァルプは再び潜ると、ゆっくりとした速度で音をたてないように努めつつ水辺へと近づいていって


  • No.29 by 下級妖怪  2021-05-06 20:40:29 



足に水がかかる寸での所までやってきた哲也は、ぼんやりと水平線を見つめながら考えていた。
消えた神社と大きな鳥居。無くなった帰り道。幻想的な風景。そしてこの海らしきもの。
哲也は幽霊や異世界等のオカルトじみたものは信じていなかったが、流石に今の状況は“自分が異世界にいる”としなければ説明がつかないだろう。むしろそうでないなら自分が気づかぬうちに攫われて、なおかつ遠くまで運ばれてたということになる。そっちの方がよっぽど現実的ではない。
「(さて、どうするか)」
普通の人間であれば戸惑い、大なり小なり時間のロスが生じるだろう。しかし哲也は、幼少の頃に記憶がなくなってから今まで、“普通の人間”とは呼べない人間になっていた。
知らない場所に一人取り残された恐怖や混乱。本来感じる筈のものは一切彼の中には存在しない。だがそのおかげで、人より素早く冷静に判断することができるのだ。
――ひとまず、先ほど通った道を戻ってあの明るい所に行ってみようか。今なら人がいるかもしれない
そう、顎に手を当てながら考えていた時
「! ……誰かいるのか?」
視線を感じた、様な気がしてボソッと独り言ちる。
哲也は別に視線に鋭いわけではない。だからこれは“シャワーを浴びている時、背後に誰かがいる気がする”と同じことで、ただの気のせいかもしれない。さっと周囲に視線を向けても、依然と闇のような海(らしきもの)があるだけ。水の音以外物音もしていないし、そちらの可能性の方が高い。
だが右も左も分からない状況で、手掛かりになるかもしれないものを逃がす訳にはいかないと
「すみません。俺、会社帰りだったんですけど道に迷ってしまって。誰かいませんか?」
威圧的にならないように注意して。本心では何とも思っていない(明日の会社どうなるんだろうとは考えている)くせして、声だけは困り果てた好青年のように。
手燭を周囲にかざしつつ、問いかけて


  • No.30 by 下級妖怪  2021-05-06 20:41:26 



決して泳ぐ音はたてないように、一歩、もう一歩と、確実に距離を詰めながらゆっくり近づいていく。あの謎のシルエットまでもう少し、といったところで、

(……!)

何かが話しているような声がして、思わず泳ぐ手を止めてしまい。なんと言っていたのか言葉までははっきりとは聞こえなかったものの、どことなく人の良さそうな、落ち着いた声であった。また、謎の声が聞こえたと同時に、さっきまで一点に留まっていた筈の淡い光がぼわんぼわんと左右に揺れ始めたことを観測して。

一体、なんだっていうんだ。予測不可能な動きを見せる光に、何とも言えない漠然とした不安と隠し味程度の興味を覚えながらももう少しだけ水辺に近寄り。
水中からということもあってか謎のシルエットの正体は闇に包まれたままで依然として掴めず。恐らく謎のシルエットのものは自分の意思でしゃべったり動いたりしているのだろうと、新たに手にした情報を元にそう思案を進める。そんな条件に当てはまるものでパッと思いつくものなど、

(は、……もしかして、人?)

人ぐらいしかいないだろう。
少なくとも、ここはこの世界の者たちがあまり来ない場所だ。……だというのに、何故こんな所に人がいるのか。まことに困惑せざるを得ない状況に素直にそう思いながらも、更にもう一つの疑問が思い浮かぶ。
今、水辺にある黒いシルエットの正体が人だというならば、その人は自分の敵なのだろうか。それとも味方なのだろうか。

……判断がつかない。結果、まだ様子見を決めこむことにしたのか水中から姿を現すことはなく。しかし何かしらの形でアクションを起こすべきだと思ったのか、代わりにぶくぶくぶく、とその場で少しだけ泡を吐き出して。ヴァルプの吐き出した泡は水面へと浮かび上がり、やがて弾けるだろう。


  • No.31 by 下級妖怪  2021-05-06 20:42:54 



ぷくぷく、ぶくぶく。
言葉にしたらそんな音だろうか。見ていた方向の真反対からそんな音がして、音のした方向を振り向く。
先ほどまで波以外何もなかった水面に浮かび消えていく泡が、かすかに見えて。
「(何かいるのか?)」
魚であればキャンプやサバイバル生活をしたことがあるから調理の仕方は分かる。しかし、ただの勘だがこれはそう言ったものではない、と思った。
泡が出ている場所は今いる場所からそう遠くはない。入っていけば捕まえられる、もしくは正体がわかるかもしれない。が、何がいるかも分からない今それは得策ではないと判断し、手燭の明かりだけで何とか見えないか試すも
「(駄目だな。やはりこの明かりでは、上手く見えない)」
やはり入ってみるしかないかと、考えたその時――!
「あ……月が」
サァと、風が頬を撫で。ほぼ同時に、遠くで雲に隠れおぼろげな光を放っていた月がゆっくりと顔を出した。
そのおかげで自分自身の姿も照らされ、また手燭に頼らずとも周囲はパッと明るくなる。そして完全に雲から顔を出した月は、自分と彼女を繋ぐ架け橋を水面に作り出した。
少し大きくなった波と共に青い糸のような物が揺れている。――否、あれは髪だ。
魚の水かきのようなものが見える。――否、あれは耳だ。
青白い何かが見える。――否、あれは皮膚だ。
青く輝く二つの宝石が見える。――否、あれは、目だ。
そこにいたのは魚ではなく、人。女性だった。

その時。
テレビを見ても、街中を歩いても。友達が「あの子可愛いな」と言っている子を見ても、ピクリともしなかった自分の心臓が、久しぶりにトクントクンと早まっていくのを感じた。
初めて見た、人ならざる姿をした彼女。あぁ、しかし、今まで見てきた誰よりも
「――綺麗だ」
思った事を一音一音確かめるように言葉にする。何年ぶりかの胸の高鳴りを覚えつつ、呆けたまま名も知らぬ女性の瞳を見つめて。
――ピシッ
手燭のガラスがひび割れた小さな音は、風の音に攫われ自分の耳には届かなかった。

数秒間見つめていたが、はっと気が付き、すっかり元の調子に戻って。口周りに手燭とは反対の手をあて
「キミは、ここらへんに住んでいる人? あの、俺、怪しい者じゃなくて! 帰りにちょっと迷っちゃってて、できれば道を教えてほしいたいんだけど! 今、大丈夫ですか?」
と、女性に向けて、水の中にも聞こえるように大きな声で問いかけて。


  • No.32 by 下級妖怪  2021-05-06 20:43:43 



かかっていた雲が去り、露わになった月がゆらゆらと揺らめく。月から伸びる光が水面へと差し込んできては、星が散ったように光が弾け、水中を明るく照らし出して。まるで舞台が一気にライトアップされたように、明るくなった視界に映した謎のシルエットの正体はやはりというべきだろうか。予想していた通り、人であるように見えた。水面下から見ているために視界は多少歪んでいるが、姿を窺う限り、相手は男らしい。

――ああ、それよりも。この得体の知れない者に己の姿が完全に見えてしまっているのだろう。男の双眸が、しっかりと此方を捉えている。相手から気付かれないように偵察をするつもりが失敗してしまった。今更身を隠すように逃亡しても恐らくは無意味だろう。さてどうしようかと、為す術無く狼狽えかけたその時、男が口を開いた。突然のことで男の話に耳を傾けるより他は無く、さらにどうやら話を聞くところによれば彼は迷子だから道を教えて欲しいのだ、と。……ひとまず、とりあえずは自分に危害を与えてくるような者では無いらしい。
しかし、自分も言ってしまえば迷子のようなものである。それに、この辺の土地勘など無いに等しいようなものだ。最初は変な通りのような場所にいたことは覚えているが、そこからどうやって此処に来たのかなんて覚えているはずもなくて。男の申し出を断ろうと、口を動かそうとした所で気付く。水中で喋っても相手にこの声は届かない。

一旦その場で半回転しつつも相手との距離を少し取れば、水面から上半身のみ出して。すっかり濡れている髪をかき上げながらも相手の方を一瞥する。

「……あんた、迷子みたいだけど。アタシこの海から離れたことないの」

軽く目を細めつつ、俯き加減になりながらも淡々とした口ぶりでそう言い。細かく言えば、正確な情報では無いが半ば真実のようなものだ。実際、此処に来てからはこの水辺のそばを離れたことはない。

「だから、迷子ならアタシじゃない他のとこを当たってくれる?」

面倒だとでも言いたげな目付きになれば、素っ気ないような声色に変わって


  • No.33 by 下級妖怪  2021-05-06 20:44:31 



人生で久しぶりに(もしかしたら初めて)美しいと思った彼女の視線は、厳しかった。
素っ気なく、自分の事など毛ほども興味がない、と言った様子の彼女はいま彼女が浸かっている水のように冷たかった。しかし彼女の外見と相まって、決して以外だ、とは思わなかった。が、どう見ても自分を疎んでいる様子には残念だと思ったが。

「(ん? 残念?)」

それはおかしい。それでは、まるで自分が何かに……彼女に執着している様じゃないか。
今まで、来るもの拒まず去る者追わず、のスタンスだった自分が。
なんだかバグのようで気持ちが悪いと、すぐに忘れることにして、彼女の涼やかな水のような声に傾ける。

「……」

聞きながら考えていた。
そして、彼女が自分以外の所へ行け、言外にここから去れと言う言葉を受けても、しばらく考え続けた末、思わずポロリと零れ落ちてしまった言葉は

「キミは……」
「もしかして引きこもりなのか?」

まったく悪意はなかった。誓って悪意はなかった。だってこの海を離れた事がないというものだから、つい、驚いてしまって。
指とか、しわっしわになったりしていないのだろうかと。きょとんとした表情で、疑問を問いかけて


  • No.34 by 下級妖怪  2021-05-06 20:45:09 



これだけ強く言っておけば、この男は直にこの場を離れるだろう。そう何も疑わずに考えれば、また海の深い方へと戻っていこうとした刹那、男が再び何かを発する。

「……は?」

聞き間違いだろうか。思わず立ち止まってはそう聞き返してしまった。自分で言うことではないが、こういう時はだいたい引き留めたりするものじゃないのか。この男の真意がいまいち分からない。こんな状況で引きこもりなんていう言葉など滅多に出てこないだろう。というより、この男は自分の話を聞いていたのだろうか? そう思わざるをえないくらいに、彼の発言は頓珍漢、場違いなように思えて

「……あのさ。話聞いてた? あんた、意味が分からないんだけど」

はぁ、とわざとらしく溜息をつきながらも胸の前で腕を組んでは、完全に悪態をついている様子でそう言い。同時に眉間に皺を寄せつつも変なやつだと言わんばかりに睨みをきかせる。そもそも相手をしてあげているだけまだマシなんだ。また意味不明なことを言ってきたら無視してやろうかなどと、目の前の男を目の敵にするが勢いで否定的に捉えている様子であり


  • No.35 by 下級妖怪  2021-05-06 20:45:49 



「え、あっ! ご、ごめん。この海から出たことがないって言ってたからっ」

 彼女の明らかに不機嫌になった様子に少し慌ててたように謝る。理由を言いつつ、心底申し訳なく思っている、という表情で。
 少し脳がいかれていたみたいだ。普段なら滅多としない失敗をしてしまった。

「(負の感情を持たれたら、少しめんどくさいんだよな)」

 その場限りならば良い。だが、自分は家に帰らなきゃいけないし、現状周囲には彼女しか人がいない。それなのに今彼女を逃したらまた元道理、八方塞がりな状況に戻ってしまう。

「あぁ、もう、言うつもりじゃなかったんだけど……気分を悪くさせちゃった、よね。本当にごめん」

 ガシガシと頭を書きながら、考える。
 ――彼女にこれが通じるかは分からないが、やらないよりはマシだろう。

「その俺、突然ここに迷い込んで、君に会うまで誰にも会えなくて、帰り道も分かんないし……だから情けないんだけど、すごい怖くなっちゃってさ。君に会えてちょっと気がゆるんじゃったみたい」

 眉を八の字に下げた“捨てられた仔犬フェイス(友達命名)”。
 友達はなぜか、俺が悪いことをしてもこれで謝れば大抵許してくれる(まあ、通じない相手も一定数いるが)。なぜか聞いてみたら、「その顔で何度も謝られているとこっちが酷いことをしているような気分になってしまって許してしまう」らしい。よくわからない。
 もしかしたら彼女も通じないうちの一人かもしれないが、とりあえず自分の場合ここがどこかと帰る道を聞ければ十分だし、多少なりともほだされていてくれたらいいんだが……と言う思考は伝わらないように注意して、彼女を見つめてダメ押しにもう一度「本当にごめん」と謝って


  • No.36 by 下級妖怪  2021-05-06 20:46:33 



「……誰もそんなの聞いてないんだけど」

目の前の男の口から滑るように謝罪の言葉が吐き出される。これでこの男から“ごめん”を聞くのはもう三回目だ。理由を長々と述べて謝るくらいなら、とっととこの場を去ってほしいんだけど。そんな思いを代弁するように大きな溜息を一つ吐けば、相手から目を逸らしたまま半ば投げ遣りに吐き捨てる。決して相手の誠実そうな態度に心が揺れた訳では無いけど、真剣味を帯びた声で謝られるのは何となく嫌に感じた。まるで自分が悪いことをしているみたいだ。こっちだって帰り道なんて分からないのに。少し沸き上がりつつあるそんな焦燥感、ましてやそれが相手由来のものであることに気付けば、苛立ち気味に小さく舌打ちをして。
というよりそもそも、彼に、突然ここに迷いこんだことや、それにより不安になったことを話された所で、自分には何も関係が無い。話を続けていたって無駄だろうに。

(……は、この人……もしかしてさっき、“突然”って言った?)

もうこれ以上話すことは無いだろう。そう結論付け、彼に背を向けようかという所で、ようやくとある可能性に気付く。もしかするとこの男は、自分と同じ部類の者なのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんだ途端、先程とは打って変わりあからさまに動揺した目で相手の方を見ては、そのまま彼の手にある燭手へと視線を向け


  • No.37 by 下級妖怪  2021-05-06 20:48:34 



「あっ、ごめん。つい……」

あんまり効かないタイプだな、彼女。
手ごたえは全くなく先程とほとんど変わらない態度。ため息をかれ、舌打ちされた。自分を疎んでいることが丸わかりの態度。
謝りながら考察して

「(しょうがないかぁ)」

このまま先ほどと同じ手法をやっていてもどうにもならない。むしろ今にもまた水の中に帰ってしまいそうだ。

「水浴びの邪魔しちゃってごめんね。また元の場所まで行って帰る方法探してみるよ」

めんどくさいけど、元居た場所まで戻ろう。とりあえず人がいるのは分かったから、今戻れば誰か現地の人と会えるかもしれない。そう考えると彼女に出会えたことも意味があるように思えた。
そう考え回れ右をしようと思っていた時、彼女からの視線を感じた。

「?」

何か様子のおかしな彼女に小首をかしげる。視線は自分の持っている燭手に注目していたから

「あぁ、これ? なんかいつの間にかもってたんだよね。明かりもないから使わせて貰ってるんだけど」

こちらに迷い込んでからずっと自分の手にあったボロい燭手を見ながら、これがどうかした?と問いかけて


  • No.38 by 下級妖怪  2021-05-06 20:49:07 



「何でもない、気にしないで」

相手の燭手を見ながらも、僅かに目を見開く。自分の時と経緯がほとんど一緒だ。見た目は違えど、何か――説明し難いが、本質的に似たような何かを感じる。
しかし、自分と同じ境遇の者がこんな偶然に見つかるものだろうか。相手から見えないように、自身の持っている燭手を手繰り寄せるかのように自分の方へと寄せつつ、考える。突如出てきた動揺が増幅していくのを感じながらも、それを否定するように相手の燭手から視線を逸らしつつもそう言い

「危険があったらまた戻って来れば? ここ、誰も来ないし……これは万が一の話、だけど」

相手が元の場所とやらに戻ることは引き止めないものの、代わりにそんな話を持ちかけて。これで相手が戻ってきたら、自分と彼は同じような状況に置かれていると考えても良いかもしれない。自分がこの国の住民だろう人に見つかった時には、憎悪の籠った嫌な目で見られたものである。ともかくこれで一旦話は終わりだろうと、海の方へと戻って行き


  • No.39 by 下級妖怪  2021-05-06 20:50:22 



「そう?」

少し疑問に思いながら、彼女が気にするなと言っているから、もしもここで引いても彼女は堪えてくれないだろうと思ったのだ。
だから自分も気にしていない風に話を流しつつ、ぼんやりとした光を漏らす自身の燭手を見つめる。先ほどよりも少し火の威力が強くなっている……様な気がする。気がするだけかもしれないけど。
その間、彼女の動きには気を払っていなかったため、『ソレ』に気付くことはなく。

「えっ、いいの?」

純粋に驚いて聞き返す。先ほどまでの態度から、まさかそんなことを言ってくれるとは思わなかったのだ。

「あ、ありがとうっ!」

海に帰ろうとする彼女に向かって声を投げかける。
内心、安堵の息を付いていた。何がきっかけで心変わりしたのか分からないが、一つでも頼れる先がいるのは十分にありがたい。
だから哲也にしては正直に、純粋に。心からの笑みを浮かべて礼を言った。
――まあ、その心が哲也に本当にあるのかは定かではないのだが。

「(もしも戻った先に人がいても、礼はし来ようかな)」

まあその時はまた冷たくあしらわれるかもしれないが。
いつもならばめんどくさいなと思うのに、どうして彼女に対してはそう思わないのだろう。
なんだか自分が全く別物のナニカに変わっていっている様で。このままではイケナイのではないかと、自らその思考をシャットダウンした。

では自分も戻ろうか、と後ろを振り返り一歩だけ足を進める。
しかしその一歩を踏み出した時、彼女の発言をふと思い出す。

――「危険があったらまた戻ってくれば?」

危険って、例えばどういうものなんだろう。
その言葉に言い知れぬ違和感を抱いたが、まあこんな真夜中だし、不良だとかそんな所だろうと自身で結論付け、今度こそ元居た場所に向かうため足を進めた。


  • No.40 by 下級妖怪  2021-05-06 20:53:13 



◇ ヴァルプと工藤哲也

>ヴァルプ
>28    >30    >32
>34    >36    >38

>工藤哲也
>29    >31    >33
>35    >37    >39


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