ほのか 2018-07-30 23:57:44 |
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【>30から……】
ブレザーにリボン、チェックのプリーツスカートの制服姿のその女の子が、どこの学校に通っているのかは知らない。
このあたりに高校なんて…あっただろうか…。
俺は、毎朝のようにすれ違うその子がなんとなく気になり始めていた。
大人しくて真面目そうな彼女は、一見取り立てて目を引くようなところはない。どこにでもいるごく普通の女子高生。
それでもなにか、うまく説明できないけれど、気になり出すと何故か頭にこびりついて離れない。
あの後ろ姿…どこかで、見たような…。
思案を巡らせながら湖のほとりを歩く。
遊歩道を抜けて真新しく出来たばかりの車道に出るとバス停がある。
湖畔の整備に伴い、市内に向かう幹線道路が敷かれここにバス停ができたのは去年のこと。
周辺にはいくつもの住宅が建てられ、マンションも出来上がってたちまち人口が増えた。
コンビニエンスストアやファミリーレストランが次々と建設され、ここのあたりはすっかり変わり果て昔の面影は一切無くなった。
……と、地元のお婆さんは俺に話してくれた。
俺はここの辺りのことは全く知らない。
なにしろ三ヶ月に、会社の人事異動によって引っ越してきたばかりなのだから。
「2分遅刻じゃな」
バス停に並ぶ何人かの人たちから外れて、ベンチに腰掛けたお婆さんが、列に加わった俺を見てニヤリと笑ってそう言った。
さっき話したお婆さんとはこの人のこと。
名前はウメさん。御歳80歳。
誰にでも気兼ねなく話しかける、笑うと顔がくしゃくしゃになる気のいいお婆さんだ。
「なにかあったかね?難しそうな顔をして」
背中は丸まっているが、この歳にして目も耳もいい。おまけにやたらと勘ぐり深い。
「いや、なにも…」
ははは、と笑って頭を掻く。
そんな深刻そうな顔してたか、俺…。
朝日を受けてバスがやって来る。
このバスに乗って30分近く揺られたあと、最寄り駅から電車を乗り継いで更に40分。
会社が無くなってしまえばいいなんてことを考えないほうが無理というものだ。
俺にとってはその先がまた気が重いのだから…。
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