ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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”女医”は院内PHSで警備員室に電話をかけた。
「はい、警備員室です。」
「さっきの常駐勤務医よ。37番通路に閉じ込められているの。37番出入り口を開けてもらえないかしら。」
警備員は火災報知システムを確認した。
「今は鎮火していますが、37番通路付近で火災が発生したようですね。今担当者が被害状況の確認に行っておりますのでそれまでお待ち下さい。」
「今のは偽の火災報知よ。でも決してイタズラじゃないの。火事は起きていないわ。本当よ。」
「病院の火災は人命に関わる重大事故です。火災報知システムそのものの誤作動の可能性もあります。ゾンビの出没で病院全体の門に封鎖命令が出ていることもあり、院内で患者が集団パニックを起こし予想外の被害が出ているかも知れません。いずれにしろ、被害状況が確認できるまでは開けることはできません。」
「・・・分かったわ。で、確認までにどのくらい時間がかかるの?」
「そうですね・・・火災報知システムそのものに問題がなく、全て先生のおっしゃる通りでしたら10分ほどで折り返しご連絡いたします。」
「分かった。それまで待つわ。で、もう1つ聞きたいことがあるんだけど。」
「何です?」
「37番出入り口付近にゾンビはいるの?」
警備員は監視カメラの映像を確認した。
「監視カメラの映像ではいないようですが、院外周辺の監視カメラには死角もありますので、絶対いないという保障はありません。その点からしても今出入り口を開けるのは危険です。あ、少々お待ち下さい・・・。」
”女医”は銀座の女を見て言った。
「あんたの『偽火事作戦』は少し大げさだったようね。警備員が堅物でドアを開けるのに時間がかかるそうよ。」
しかし銀座の女はニヤリとして言う。
「本当に大げさかしら?先生は計画と違う出入り口に来たのよ。もし先生がこのままこの出入り口から外へ出てそこにゾンビがいたら、NICUの赤ん坊はどうなると思う?」
『ん?・・・はぁ~そうだった。あたいたちの行く出入り口は、本当は39番だったわ。』
「この防火扉はゾンビが束になって体当たりしても開かないわよ。」
”女医”は場当たり的で無鉄砲な自分の性格に久しぶりに恥をかいた。PHS回線の向こうの警備員の、もしもし?もしもし?という問いかけにも気付かない。
「先生。警備員さんが呼んでるわよ。」
”女医”は、はっと顔を上げて警備員の呼びかけに答えた。
「は、はい。」
「火災現場を確認した担当者からの連絡がありました。先生のおっしゃる通り、被害は全くないようです。」
「そ、そう。じゃあここを開けてくれない?」
「では開けますよ。」
警備員はオールロック解除のパスワードを打ち込み、No37のアイコンの<OPEN>をクリックした。37番出入り口が開いた時”女医”が外に出る合図のつもりで後ろを振り返ると、男はうずくまっていた女を抱きかかえた上、バズーカ砲まで担ぎ、女の手には拳銃を握らせて立っていた。
「消火器のおねーさん。バズーカ砲は俺がやるから、俺が撃てと言ったらこの子が握っている拳銃の引き金を引いてくれないか。安全装置はもう外してある。」
”女医”はぎょっと驚いた。
『この前腹を撃たれたばかりなのに、この体力はなんなの?』
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