ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「はい、エヌアイスー・・・ぁ、NIC、U、でズ。」
「あら久しぶり。あなた今はNICUにいるのね!」
看護師は、聞き慣れた内線電話の向こうの、看護専門学校を同期で卒業しそのままこの病院に同期で入職したNICU勤務の看護師の声に少し安心した。
「んだ。ひさすぶりだべなぁ~。外来におるっでぇ~聞いたけんど、ゲンギにしとっどが?」
NICUの看護師は東北の生まれだが、父親が転勤族ということもあり、東京をはじめ、札幌・名古屋・大阪・岡山・博多なと、行く先々で方言を身に付けているために”解読”できる友人は少なかった。
「もう結婚して辞めたわ。あなたは?」
「も結婚さしだっでが!あんたば美人じゃけん、外来勤務にもなっだじ~、うらやましか。おらぁブスじゃけん、この病院ん中たらい回しじゃ。ばってん、何でまたカンセンから内線ば、かけてきよると?」
看護師は答えに詰まった。同期の友人といえども、夫からエイズを移されゾンビに噛まれて感染症隔離病棟にいるとは言いにくい。
「え?えぇ~ちょっと色々あってね。私、お産もこの病院だったの。だけど未熟児で、NICUで管理してるって聞いたから。」
「ゴドモまで生まれたってが?早か~。ウヂであずかっでる子供ば、今はみなゲンギじゃ。そやけどな。」
「『そやけどな』って、何?何か問題でもあるの?」
今度はNICUの看護師が言葉を詰まらせた。
「何?どうしたの?」
「サンスが足んねえべ。」
「ぇえ!?酸素が足りないって?」
「んだ。サンスの圧力ば、チビリチビリ下がっちょる。ごのままじゃ、保育器に送るサンスがなぐなるのも、時間の問題だべ。」
「そんな!だってこの病院の医療用酸素は集中供給のはずよ!酸素供給が途切れるなんて聞いたことないわ!」
「あんたば外来勤務だけじゃけん、知らんと思うけど、ゴドモが保育器がら出るまで、ようけサンスが要るけん、エヌアイスーユーだけサンス送りが別供給なんじゃ。いづもは、ごんなごとないんじゃが、ゾンビが出るっじゅーで、警備が入り口の門ば閉めたさかい、サンスの供給業者が病院ん中入れんちゅーて、電話ばかげできた。」
「そんな・・・。」
「誰がが~外がらエヌアイスーユーのサンスボンベ交換スてくれんと・・・保育器ん中のゴドモば、みんなスんでしまう。」
1.”女医”がいないこの病棟での患者の健康管理。
2.腹を撃たれた男にまつわるこの病院の謎。
3.そして、自分の娘の命。
3重の責任の重みに、看護師の心は今にもつぶれそうだった。そんな看護師同士の内線通話に聞き耳を立てていた女2だけが冷静に病院の間取り図をにらんでいた。
「ここがNICUね・・・。」
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