ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「女の方、もっとゆっくり、よく噛んで食べて下さい。」
勢いよく非常食をかきこむ女に、神父は穏やかに諭した。
「食べ物もわたくしも、逃げたりはしませんよ、あの男性の介抱をあなたと一緒にするのですから。」
女の手が止まった。
『・・・そう言えば、彼も何も食べていない。』
女は、ばくばくと食べ物を口に入れることしか考えていない自分に気付き、自分が嫌になった。
「おや自己嫌悪ですね。あなたがまだお若く純粋な証拠です。人はですね、みなそうして他人の痛みを知りながら大人になって行くのです。」
「・・・神父さんも、昔はそうだったんですか?」
女は神父に尋ねた。
「もちろんですよ。わたくしも若い頃はもう誰も手がつけられない程の不良少年でした。当時で言う『ツッパリ』です。」
『ツッパリ・・・』
女は、穏やかに話すこの神父が、若い頃はリーゼントに剃り込み・長ランに土管という出で立ちで街を闊歩していたとは、にわかには想像できなかった。
「何で『神父になろう』て、思ったんですか?」
「それはですね・・・。」
神父は目を閉じて一息つくと昔話を始めた。
「私には同い年の幼なじみの女性がいました。しかし当時の私は、地味で控えめな彼女など気にもかけませんでした。」
『へ~ツッパリ男子に地味子か~。なんとなく分かるな~』
「彼女は私を見ても何も言いませんでしたが、当時私がお付き合いしていた、まあ当時で言う『スケバン』からいじめられていて、金銭もゆすられ、悩み抜いたあげく、自ら命を絶ちました。」
『・・・。』
「キリスト教というと誰もが思い浮かべるのが結婚式なのですが、お葬式もありましてね。彼女のお葬式を執り行った神父様から、事実を知らされました。私とお付き合いしていた女性は、私以外の男性ともお付き合いしていた上、ゆすった金銭で違法な薬物にも手を染めてしまい、女子少年院の獄中で死にました。」
「・・・すみませんでした。」
「いえ、良いのですよ。もう済んだ話です。」
神父は聖書に手を置いた。
「この聖書は、その幼なじみの女性が持っていたものです。」
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