ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「わたくしも一言よろしいですかな?」
聖書を手にした神父がそばに来た。
「この子をあの男性のそばにいさせてやってはくれませんか?」
神父は、疲れて長いすに寝込んだ女に病床の毛布を掛けてやった。
「この子とあの男性が出会ったのも、天の父なる神様のお計らいだと思うのです。自分の愛する人と一緒にいることは、それだけで我々罪人を強くすることが、神様にはおできになります。かの男性も、この子がいるだけで励みになり、回復もより早くなると思いますが、いかがでしょうか?」
「神父さん。あたいは宗教に口を挟むつもりはないけど、神父さんも一緒に手伝ってくれると言うんなら、あたいは構わないよ。」
「もちろんですとも。わたくしも精一杯手伝わせていただきます。」
女と神父に男の介助の許可が出た。だが女は寝ている。
”女医は”は疲れていた。もう2,3日寝ていないのだ。
「介助は女と神父さんに任せて、先生も少しお休みになった方が・・・。」
カレシはいたって冷静だ。
「あたいもそうしたい。でもあたいが寝ている間に何かあったら、と思うと眠れないのよ。」
「医者じゃなくても、せめて看護婦の1人ぐらいいりゃあいいのにな。」
オトコはやはり勘が鋭い。
「先生。私、元看護師です。」
全員が振り返って専業主婦を見つめた。
「あんた、専業主婦でしょ?」
「ええ、今は専業主婦ですが、私はこの医科大学の附属看護専門学校を卒業しておりまして、結婚する前まではこの病院の外来看護師をしていました。ですからお産もこの病院でって、決めていたんです。」
「失礼だけど、旦那さんとはどこで知り合ったの?」
「主人はこの病院の医事課の職員です。私は外来担当でしたので、仕事中は主人とよく連絡を取り合っておりました。」
神父は顔をほころばせた。
「ほほう。これもまた神様のお計らいですな。」
「分かったわ。じゃああたいがカルテを書くから、後は任せる。頼むわね。」
「じゃあみんな、後は神父さんと看護婦さんに任せて休もう。明日はもっと忙しくなる。」
カレシが皆に休憩を促した。
職業柄か性癖か、オトコと女1は早速ベッドメイキングにとりかかった。
皆眠り込んだ。神父と看護師と、女2を除いて。
「神父。あたしを覚えてる?」
「”深夜ミサ”によくお越し下さっていたご婦人ですな。覚えております。」
「『神父はエイズに感染している』という噂は本当だったのね。」
「哀れんで下さい。神にお仕えするわたくしもまた、罪深き人の子です。」
おきたら、何故か毛布がかけられていて横に窓の方に座っていた神父さんが私の横にいた
「はっ!?し、失礼しました、私に何か御用でしょうか?」
私はとっさに起き上がり用件を聞こうとする。
でも最初の一言で他の言葉が聞こえなくなった
私が…彼の面倒をみていいの!?
私は女医さんの方に目を写す
あれ?
さっきは気がつかなかったけど顔がとてもつかれている
「女医さん。あの…少し寝たらどうです?」
「ああ寝たよ。あんたこそよく寝たわね。」
『私、そんなに寝たのかなぁ・・・。』
「まだ少しお疲れの様ですな。そんなに慌てなくてもよろしい。」
さすが神父だ、カレシの冷静さとは違う、穏やかさで包み込むような判断をしている。
「あなたの願いが叶いました。あなたが回復したら、わたくしとあなたの二人であの男性を介抱しましょう。」
『彼のそばにいられるのね。神様、ありがとう。でも・・・え!点滴?私が?』
”女医”
「看護婦さん、あの子のバイタル(血圧)は?」
看護師
「95の58です。」
”女医”
「ラクテック静注を続けて。」
看護師
「はい。」
”女医”
「あんた、今日は何曜日だと思う?」
『確か今日は日曜日・・・。』
女は時計を見た。驚いて二度見した。
「え?え!月曜日の夜10時半!?」
「あんた、飛び出していってから何も食べてないね。貧血起こしてて24時間以上寝てたわ。」
”女医”は看護師の方を向いて
「バイタルが戻ったら、あの子に何か食べさせて。病院の非常食でいいわ。」
看護師
「はい。」
神父は穏やかに苦笑いを浮かべた。
「看病させてくれと言った女性の看病をするとは・・・先生もとんだ災難ですなぁ。」
「医者なんて、こんなものよ。神父さんも寝てないでしょ。点滴はもう少し時間がかかるからそれまで休んだ方がいいわ。看護婦さん、点滴が終わったら非常食を持ってきて。それから神父さんと交代よ。この子の食事は神父さんと摂らせる。」
「分かりました。でもあの人はどうします?」
あの人?女2だ。
「あんた、ここに銀座のシャンパンはないよ。消毒用のアルコールでも飲む気かい?」
女2はつぶやいた。
「先生。あなたもエイズね?」
私は24時間寝ていたと聞いて硬直した。
そのあとの話は耳に入らなかった
24時間以上…24時間以上…
どう考えても異常な数字だろう
私は迷惑をかけたことを悔いた
申し訳ない…
神父さんのお陰で看病出来たって言うのもあるしね…
「女の方、もっとゆっくり、よく噛んで食べて下さい。」
勢いよく非常食をかきこむ女に、神父は穏やかに諭した。
「食べ物もわたくしも、逃げたりはしませんよ、あの男性の介抱をあなたと一緒にするのですから。」
女の手が止まった。
『・・・そう言えば、彼も何も食べていない。』
女は、ばくばくと食べ物を口に入れることしか考えていない自分に気付き、自分が嫌になった。
「おや自己嫌悪ですね。あなたがまだお若く純粋な証拠です。人はですね、みなそうして他人の痛みを知りながら大人になって行くのです。」
「・・・神父さんも、昔はそうだったんですか?」
女は神父に尋ねた。
「もちろんですよ。わたくしも若い頃はもう誰も手がつけられない程の不良少年でした。当時で言う『ツッパリ』です。」
『ツッパリ・・・』
女は、穏やかに話すこの神父が、若い頃はリーゼントに剃り込み・長ランに土管という出で立ちで街を闊歩していたとは、にわかには想像できなかった。
「何で『神父になろう』て、思ったんですか?」
「それはですね・・・。」
神父は目を閉じて一息つくと昔話を始めた。
「私には同い年の幼なじみの女性がいました。しかし当時の私は、地味で控えめな彼女など気にもかけませんでした。」
『へ~ツッパリ男子に地味子か~。なんとなく分かるな~』
「彼女は私を見ても何も言いませんでしたが、当時私がお付き合いしていた、まあ当時で言う『スケバン』からいじめられていて、金銭もゆすられ、悩み抜いたあげく、自ら命を絶ちました。」
『・・・。』
「キリスト教というと誰もが思い浮かべるのが結婚式なのですが、お葬式もありましてね。彼女のお葬式を執り行った神父様から、事実を知らされました。私とお付き合いしていた女性は、私以外の男性ともお付き合いしていた上、ゆすった金銭で違法な薬物にも手を染めてしまい、女子少年院の獄中で死にました。」
「・・・すみませんでした。」
「いえ、良いのですよ。もう済んだ話です。」
神父は聖書に手を置いた。
「この聖書は、その幼なじみの女性が持っていたものです。」
私は見たいという気持ちもあったがそれ以前に怖いという気持ちの方が強かった
「…神父さん。『貴方の為に』って曲知ってますか?」
そう、私がさっき歌っていた歌だ
今、題名を思い出した
何で、おばあちゃんこのうたがすきだったのだろうか?
なんか、裏って言うか闇がありそうで怖いな
「幼なじみからは聖書をもらい、スケバンからはエイズをもらった、てことね。神父。」
「わたくしにできることは、わたくしより先に天に召された2人の女性に代わって、命の尊さを
告げ知らせることだけです。」
「あ、あの・・・神父さん。『貴方の為に』って曲知ってますか?」
女はもう一度尋ねた。
「さあ・・・。わたくしは存じませんが、どのような歌ですかの?」
「恋人達が苦しい思いをしていて、2人とも相手にこれ以上迷惑をかけないようにと女の人は屋根から、男の人は川に身を投げてしまうんです。」
私はその歌の歌詞を思い浮かべながら神父さんに説明した
「その歌は、あなたのおばあさんがそのまたおばあさんから聞いた歌かも知れませんね。戦争を経験された方々は、他人に迷惑をかけまいと、そのようにおっしゃる方が大勢います。しかしですね、人間というものはお互い迷惑をかけあって生きているのです。あなたにもいずれこのことがお分かりになります。」
朝が来た。みんな起きた。寝ているのは女と神父と交代した看護師と女2の3人だ。
「先生。これからどうします?」
カレシが問うた。しかし”女医”も途方に暮れていた。
「アネキ。この病院から出ないと、非常食もそんなには保たないぜ。」
『ん?「非常食もそんなには保たない」って?』
この病院は医科大学の附属病院だ。”女医”たちだけでなく、入院患者も含めたくさんの患者や医療スタッフがまだ残されている。自分達だけで非常食を独占することはできない。
「あたいにはまだやることがある。」
「なんです?先生。」
「あたいは病院に残っている他の診療科目のドクターやスタッフと連絡をとってみる。それに、男の回復もまだかかりそうだしね。」
銃火器を扱えるのは女と女に腹を撃たれた男の2人だけだ。非武装のまま院外へ出るのは危険すぎる。”女医”は、院外から食料や医薬品を調達するためにも銃火器を扱えるあの2人が必要だと考えた。
「先生~ちょっとかまへん?」
女1が横から話しかけた。
「ウチのおっぱい噛んで死んだゾンビ何やけどぉ~。」
「ゾンビがどうしたの?」
「死んだら人間に戻ってた。」
オトコがさらに横やりを入れる。
「元々人間なんだから当たりめぇじゃねーか!大阪のフーゾクはアタマまでヤられてんのか?」
『元々人間・・・。』
”女医”に1つのアイデアがひらめいた。。
迷惑を…かけあう…?
迷惑をかける事は当たり前なのかな?
それとも、本当はだめな事?
迷惑をかけていいというなら、名前だってつけて欲しいし、あの男の人に告白だってしたい
でも、やはり迷惑をかけすぎると嫌われてしまう
それだけは避けたい事態だった
そして、皆が会話する中に気になる単語を一つ見つけた
“非常食“
非常食なら、来る間にいろんなお店があった。
もしかしたら。そこなら…
なんてかんがえてたけどいつの間にか別の話になってたわ
”女医”は病院の内線番号表をパラパラとめくった。日本国内の医科大学附属病院の中でも、”女医”が勤めているこの病院は特に規模が大きい。内線番号だけで1冊の電話帳ができるくらいだ。”女医”は外来受付の内線番号を押した。
「はい、外来受付です。」
「感染症隔離病棟の常駐勤務医よ。診察が終わった外来患者はどうしてるの?」
「はい、警備員室からの連絡で正面入り口を閉鎖しましたので、混乱状態です。」
「分かった。ありがとう。」
”女医”は警備員室の内線番号を押した。
「はい、警備員室です。」
「感染症隔離病棟の常駐勤務医よ。そちらから病院の外の様子が分かる?」
「はい、監視カメラの映像からは、何体かのゾンビがうろついている様です。」
「ゾンビが院内に侵入した形跡はある?」
「いえ、こちらからの遠隔操作で全ての入り口に施錠していますので、院内には侵入されていません。」
「特定の入り口やドアだけ開けることはできるの?」
「ええ、それは可能ですが、今開けるのは危険です。」
「分かったわ。ありがとう。また連絡する。」
受話器を置いた”女医”は女を見て言った。
「あんた、その拳銃であたい達を守る自信はある?ドジふんだら、今度はあんたがゾンビになるよ。」
息を大きく吸って私は言った
「…行けます。絶対に守って見せます例え、私の命が欠けても」
そういってみたものの正直不安も多かった
でも、その反面どこかから沸き上がる勇気もあった
私は、人を守るためならいけると思う
全てはこの世界を救うため
そして、あの人を救うため
愛する、あの人を
私は手に持った拳銃を握りしめた
そして、もう一度
「行けます」
と呟いた
「先生。どうするつもりなんです?」
カレシが尋ねる。
「病院周辺のゾンビを院内におびき寄せて捕獲し、寿命を調べる。」
”女医”が答える。
「ゾンビを病院に入れるって、アネキ、いくらなんでもそりゃムチャだ。この病院に未感染者が何人いると思ってんだい?」
オトコが呆れる。
「優秀な医者のアネキも、エイズにやられたら、もう無茶苦茶だなぁ・・・。」
「いえ、この病院に1カ所だけ、ゾンビを隔離できる場所があるわ!」
そう答えたのは、看護師だ。
「そう。この病院には1カ所だけゾンビを無傷で隔離できる場所がある。」
「でも先生、その病棟の入院患者はどこへ誘導すれば・・・。彼らはせ・・・。」
”女医”が看護師の言葉をさえぎった。
「彼らは未だ偏見の目で見られるけど、服薬と治療を継続すれば全く無害よ。それにこの病院は、警備員室の操作で全てのドアがコントロールできる。ドアでしきって”仮病棟”を作ってそこへ入院患者を誘導し、『ゾンビのVIPルーム』を作る。看護婦さん、この病院全体の間取りは分かる?」
”女医”と看護師の”会議”は2時間に及び、全ての準備が整った。
”女医”は女に言った。
「あんた。拳銃を持ってあたいについてきな!これからあたいとあんたはゾンビをおびき寄せる”エサ”になる。覚悟はいい!?」
「先生と彼女がゾンビのおとりって・・・先生、それなら俺たちが・・・。」
「おいおい。アネキに任せとけって。俺たちより”女の勘”の方が鋭いからよ!で、アネキ。『ゾンビの棺桶』はどこなんだい?」
この問いには看護師が答えた。
「精神科閉鎖病棟よ。」
”女医”は女の肩に手を置いた。
「間違っても、あたいは撃たないでね。」
男sideです
…俺はいつになったら動けるのか。ずっと寝たきりもマズイと思う。
かなり脳や神経も回復してきているし、腕、足だってある程度動かせる。
…起き上がれるか?
「よい…せっと。お、起き上がれるじゃねえか。」
後は、よし、立とう。そう思いベッドから降りようと向きを変える
「ほっ!…なんだ、立ててる。…っとうわぁ!?」
ガッシャーーーン
バランスが崩れて思い切り前に倒れた。すると、前の棚から何かが落ちてきた。
「何だこれ…アルバム…だな。…っ!?」
ペラペラとページをめくった俺は、その中の一つの写真から目が離せなくなった。
「こいつって、お…俺!?」
だってそこには、ボロボロの車と、車にひかれて真っ赤になった幼い頃の俺が写っていたのだから。
「…ちょっ…どういう事だよ!何だよこれ!はぁ!?」
「わかってま…女医さん。男の人の部屋から声がきこえ…何でもないです。わかりました。」
男の人の声が聞こえた気がした
でもきっと空耳だろう。はぁ…
空耳するほどつかれてんのか…
でも、この拳銃を持ってると、死んだ人なんてどうでも良くなる。
前までは死んだ人を見るなんて見るたびに泣いてたのに…
殺すのも簡単になってくる。
殺すなんて嫌なはずなのに…
神様、私は狂ったのですか?
頬にしょっぱい何かが伝った
看護師と神父は、ガラガラというベッドからの物音にビックリして振り向いた。
「ちょっとあなた、目が覚めたからってムチャしないでよ!」
看護師は男をたしなめた。
「ここはあなただけの病院じゃないのよ、もう!」
「あの子は、あの子はどこに?」
「男の方。あの女性は先生と2人で部屋を出られました。」
神父が男を抱えながら答えた。
「先生はわたくしとあの女性にあなたの介抱をする指示を出されましたが、先生に何かお考えがあるようで、女性を連れて行かれました。わたくしと看護婦さんの2人じゃ不満ですかの?」
「え?あ、いや、その・・・。」
「あの子なら大丈夫よ。じきに戻ってくるわ。」
看護師は医療器具や資料の散らかった部屋を片付けながら答えた。
「好きなんでしょ、彼女が。」
看護師はにこにこと意地悪そうにからかった。
「顔に出てるわよ。」
神父ににこにことほほえんでいる。
「聖バレンタイン祭司もきっとあなた方のように愛し合いながらも離れなければならない若い男女のために、こっそり結婚式を挙げていたんでしょうな。でもあの女性は先生とご一緒ですから、必ず戻ってきますよ。」
「何なんそれ?チョコあげるのとちゃうのん?」
片付けを手伝いに来た女1が問う。
「聖バレンタイン祭司様は、古代のローマ帝国時代、結婚を禁じられた兵士とその恋人のために皇帝アウグストに秘密で結婚式を執り行ったカトリックの祭司であられましてね、バレンタインデーはその祭司様の命日なのです。」
と神父は朗らかに答えた。
「看護婦さん、俺たちも手伝いますよ。」
「力仕事なら俺たちに任せなって。」
看護師は”恋人同士”のオトコとカレシの手伝いの申し出に感謝した。看護師は、”女医”のいない今のこの病棟では中心になるしかなかったが、事実上は全員の自発的な協力に頼るしかなかった。
「おい!銀座のお嬢さんも手伝えよ!」
オトコがぶっきらぼうに協力を要請した。が、女2にはその気はないようだ。
「あたし今忙しいの。」
女2は病院の間取り図をにらんでいた。
>57様(中西 ぴこら様)
あ、これ塩か。(・о・)いや死ぬなー!
「先生、バズーカーとナイフも持っていいですか?少し不安で…」
ゾンビを倒すなんて普通は異常な事なんだろうけど私達、この世界にとっては日常茶飯事。
別に可笑しくもない。
男の人の病室賑やかだな…
私の両親は事故で男の子を引いてしまったらしい。
それを避けようとしたせいで車もぐちゃぐちゃになってしまったのだった。
そして両親は亡くなった。
私はおばあちゃんの家に預かってもらってたから生きていた。
そのあと従姉妹の家に引き取ってもらって一人暮らしを始めた。
珍しいことに私が通う大学は制服。
それなりに楽しく過ごしていた。
「あんた」
女はまたしてもびくっとした。これで3度目だ。”女医”の男声には毎回驚かされ、その度に背骨がピンと伸びる。
「あたいは今何を持っていると思う?」
女は考えた。
『「何を持ってる?」って・・・そりゃあ医者なんだから医師免許は当然持ってるし、30代半ば位だから車の免許も持ってるはず。ベンツとかポルシェとか、高級な外車も持ってるかなぁ。一戸建てとかマンションも持ってるかも?お金はあって当然よね。後は・・・えーっと・・・彼氏!・・・は・・・いるのかなぁ。』
”女医”は女の前で両手を開いた。
「何も持ってないわ。」
『・・・。』
「ま、正確に言うと、白衣の他はこの院内PHSと名札の裏側の医療スタッフ認証用ICカード1枚だけよ。これはロックされたドアを開ける時に必要なの。便利な世の中になったわよねぇ、これ1枚で勤務時間中何もかも管理できるんだから。」
”女医”は続ける。
「お金や名誉はあればあるほど欲しくなるとか虚しいとか、アンタの年頃なら1度くらい聞いたことがあるわよね。武器も同じよ。持てば持つほど不安になってもっと持ちたくなる。」
女はきょとんとなった。
「『護身術』を習っても肝心な時に役に立たないのは、『本当に大事なもの』を忘れているからよ。第一、あんた1人でそんなにたくさん武装できるの?カレシ側の男が言ってたけど、あのバズーカ砲、男の体で担いでも相当重いらしいよ。アメリカ製の最新型だって言ってたわ。何で日本にあるのか知らないけど。」
「・・・でも、先生は私に銃を持たせたじゃないですか!」
「それは『保険』。ここは病院よ。あわてて発砲して他の患者に弾丸が当たったら誰が責任を取るの?あたいの指示なしにはいかなる発砲も絶対に認めないし、そもそもあんたにそれを使わせるつもりもない。分かった?行くわよ。」
”女医”と女の2人は37番職員用出入り口に向かって歩いた。40分ぐらい歩いただろうか。医科大学附属病院といえども、こんなに大規模な病院は日本には滅多にない。看護師の子供がいる産科NICUを避けながら精神科閉鎖病棟へゾンビをおびき寄せるには、この出入り口しかなかった。
女は”女医”の言葉が気になった。しかし今は”女医”を信じて付いていくしかない。
『「本当に大事なもの」って・・・。』
私、この空間から離れたくない。
他に邪魔な人がいない世界。
好きな人しかいない世界。
この世界に依存してしまいそう。
きっとあと7日位経てば私は狂う。
なぜかわからないけど分かる。
でも大丈夫いざとなったら女医さんか男の人が私を殺してくれる。
だから、安心出来た
「さあて、ガーゼと包帯を交換するから、上着を脱いで。」
看護師は男にそう言った。
「わたくしは何をすればよろしいですかな?」
神父は協力を申し出た。しかし看護師は
「ありがとう、神父さん。でも今は私1人でできます。」
と協力の申し出を丁重に断った。包帯をほどくために男に近づくと、男はアルバムを手にしていた。
「ダメじゃない、勝手に病院の資料を持ち出しちゃ!」
とアルバムを取り上げようとすると男はその中の1枚の写真を看護師に見せた。看護師の顔色がみるみる青くなった。
『この子供・・・。』
写真の下には『20XX年YY月ZZ日。交通事故にて車内の5歳男児、搬送先の当院で死亡。』という見出しがある。
『20XX年って、15年前じゃない。じゃこの男性患者は誰?』
看護師はアルバムに挟まれた記録を読んだ。この男が一卵性双生児で、事故で死んだのはこの男の兄か弟かも知れないと思ったからだ。しかしそういう記録はない。
「神父さん待って。包帯ほどくの、一緒に手伝って!」
2人で包帯をほどきガーゼを取って傷口を見た神父は驚いた。
「なんと!看護婦さん、傷口が完全にふさがっておりますよ!神様のみわざはまことに素晴らしい!」
『銃弾が腹を貫通してたのに、こんなに早い回復はあり得ない。事故で死んだ子供の写真といい、この男の回復力といい、この病院には何かウラがある。』
看護師は、かつて自分が勤務していたこの病院を疑わざるを得なかった。しかし疑念を晴らすには病院の資料室やコンピュータに蓄積された膨大な資料を調べる必要がある。看護師は、恨んでも恨みきれない自分の夫を思い出した。
『医事課総合主任の夫なら何か知ってるかも知れない。』
看護師は、夫が待機している産科NICUの内線番号を押した。
「はい、エヌアイスー・・・ぁ、NIC、U、でズ。」
「あら久しぶり。あなた今はNICUにいるのね!」
看護師は、聞き慣れた内線電話の向こうの、看護専門学校を同期で卒業しそのままこの病院に同期で入職したNICU勤務の看護師の声に少し安心した。
「んだ。ひさすぶりだべなぁ~。外来におるっでぇ~聞いたけんど、ゲンギにしとっどが?」
NICUの看護師は東北の生まれだが、父親が転勤族ということもあり、東京をはじめ、札幌・名古屋・大阪・岡山・博多なと、行く先々で方言を身に付けているために”解読”できる友人は少なかった。
「もう結婚して辞めたわ。あなたは?」
「も結婚さしだっでが!あんたば美人じゃけん、外来勤務にもなっだじ~、うらやましか。おらぁブスじゃけん、この病院ん中たらい回しじゃ。ばってん、何でまたカンセンから内線ば、かけてきよると?」
看護師は答えに詰まった。同期の友人といえども、夫からエイズを移されゾンビに噛まれて感染症隔離病棟にいるとは言いにくい。
「え?えぇ~ちょっと色々あってね。私、お産もこの病院だったの。だけど未熟児で、NICUで管理してるって聞いたから。」
「ゴドモまで生まれたってが?早か~。ウヂであずかっでる子供ば、今はみなゲンギじゃ。そやけどな。」
「『そやけどな』って、何?何か問題でもあるの?」
今度はNICUの看護師が言葉を詰まらせた。
「何?どうしたの?」
「サンスが足んねえべ。」
「ぇえ!?酸素が足りないって?」
「んだ。サンスの圧力ば、チビリチビリ下がっちょる。ごのままじゃ、保育器に送るサンスがなぐなるのも、時間の問題だべ。」
「そんな!だってこの病院の医療用酸素は集中供給のはずよ!酸素供給が途切れるなんて聞いたことないわ!」
「あんたば外来勤務だけじゃけん、知らんと思うけど、ゴドモが保育器がら出るまで、ようけサンスが要るけん、エヌアイスーユーだけサンス送りが別供給なんじゃ。いづもは、ごんなごとないんじゃが、ゾンビが出るっじゅーで、警備が入り口の門ば閉めたさかい、サンスの供給業者が病院ん中入れんちゅーて、電話ばかげできた。」
「そんな・・・。」
「誰がが~外がらエヌアイスーユーのサンスボンベ交換スてくれんと・・・保育器ん中のゴドモば、みんなスんでしまう。」
1.”女医”がいないこの病棟での患者の健康管理。
2.腹を撃たれた男にまつわるこの病院の謎。
3.そして、自分の娘の命。
3重の責任の重みに、看護師の心は今にもつぶれそうだった。そんな看護師同士の内線通話に聞き耳を立てていた女2だけが冷静に病院の間取り図をにらんでいた。
「ここがNICUね・・・。」
「あの…すいません。妙な胸騒ぎがするんですけど…」
私は女医さんの方へ向いた
胸がザワザワする…
誰かが死ぬような…
でも、私や女医さん、男の人ではない誰かがしぬ。
だ…れ…?
『アイツ、「ゾンビを無傷で捕獲する」なんて言ってたが、そんなにうまくやれるんだろうか・・・。』
「おい!どうしたんだよ?」
「いや、別に。先生のアイデアがちょっと気になっただけさ。」
「おい!」
オトコはカレシの肩を叩いた。
「お前がアネキを信じなかったら、誰がアネキを信じるんだよ!?お前はアネキの唯一の親友だろうが!」
「それはそうなんだが・・・。アイツ、昔から到底無理なことを顔に出さずに一人で始めて、後になってあわてる無鉄砲なところがあるからなぁ。」
「ふーん。お前とアネキって、高校ん時からの付き合いだって言ってたよな。」
「ああ。高校に入学してからずっとだ。その時はアイツはまだ男だった。同じクラスで、アイツは俺の後ろの席にいたんだが、男か女かよく分からないヤツで、入学当初から男子からも女子からも気持ち悪がられてた。」
「何でお前とアネキは友達になったんだい?」
「部活のラグビー部で先輩に殴られて、顔面押さえて家に帰る途中、アイツが水で冷やしたハンカチ貸してくれたんだ。『見た目気持ち悪いヤツだけど、案外優しいんだな』って思ってね。それからだ。俺が高1の時だから、お前はまだ小学生だな。」
「俺も卒業したお前にボコられたよ。あのラグビー部のキツさは今も忘れてねぇ。」
「あれ?そうだったかな?」
「何言ってんだよ、ったく・・・。帰りに『さっきはすまなかった』って、お前も水で冷やしたハンカチ貸してくれたじゃねーか。俺とお前はそれからの付き合いだってことも忘れたのかよ?」
「あぁ、そうだったな。」
「んで?アネキが韓国で美容整形を受けるって決めたのも、アネキの独断かよ?」
「アイツ、高2の春休みに俺に電話で俺にそう言ってきた。「俺、そういうケがあってお前と友達になったんじゃない」て言ったら、アイツの家は爺さんの代から医者一族で、看護師に囲まれて育ったのが原因なのか、元々精神的に女性だったんだ。だからアイツ、「大学に行く前に体も女になりたい」って、電話口で泣いてた。」
「お前が大学で韓国語や韓国のことあれこれ勉強したのも、アネキのためかい?」
「そうだ。俺はサラリーマン家庭だから推薦入試で高校を出てすぐ大学に行ったが、アイツは成績が良いのに3年浪人した。だが無意味に3年過ごしたんじゃない。整形大国の韓国と言っても、全身となると時間がかかる。アイツは高校を出てすぐ一人で韓国に渡り、受験勉強をしながら、体のパーツごとに手術を受けていたんだ。俺もアイツのために日本と韓国を往復したが、アイツが日本に帰ってきたのは3浪目の秋だった。」
「で、翌年の春めでたく医学部合格という訳だな。」
カレシは1つため息をついた。
「あの事故さえなければ、アイツも俺も、そしてお前も、ここに来ることはなかった。」
なんか怖い。ヤバイ。苦しい。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…
「うぅ…うあっ!」
頭が痛い…
どうしようどうしようどうしよう
息が苦しい…
何で?私は悪いことしてないのに…
モウ、シンデシマイタイ。
「看護婦さん、ちょっといい?」
女2が看護師に声をかけた。
「あなたが先生と話してた、37番出入り口だけど・・・。」
「それがどうかしたの?」
「あなた、39番出入り口と勘違いしてない?」
「え!?」
「あなたが書いた間取り図を見て思ったんだけど、病院の西側通路は奇数番通路で手前から順に1番3番5番、その先の出入り口の番号も同じ。東側は通路も出入り口も同じ偶数番号よ。」
「て、言うことは・・・。」
「・・・あなたが先生に案内した37番出入り口は、NICUのすぐそばよ。」
「そんな・・・。」
看護師の肩に、1人では抱えきれない3重の責任の上に、出入り口番号を間違えるという重大な過失の責任がのしかかった。看護師はその場にへたり込んで倒れてしまった。
女2は、神父を見た。
「神父。患者が看護婦の世話をするというのは変だけど、大阪の人と協力してお願いできるかしら?」
神父と女1は快諾した。オトコとカレシは女2を見た。女2はうなずいた。
『あなたたちも来て。』
オトコは了解した。
『俺たちの出番だ。』
が、カレシは言う
「俺たちも何かこう・・・戦う武器があれば良いんだが・・・。」
男は病床から立ち上がり、バズーカ砲を担いだ。
「俺も行く。」
「女医さん…助けて…」
私はこういっているつもりなのに口から出るのは
「うぅ…はぁ…」
という声
私どうしちゃったの?
シシニタイシニタイシニタイシニタイ
コワイコイワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
これが絶望した時なんだ。
「お前なんか、いらねぇ。きえちまえよ。」
「あっち行ってよ。気持ち悪い。」
嫌…私をいじめないで…
気が付いたら銃を女医さんに向けていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
コノセカイヲツクリダシタノハ…ワタシ?
『ここが37番通路だから、この先が出入り口ね。ん?おかしい。37番通路はNICUの向こうのはずなんだけど・・・。ん?』
”女医”が女の気配が違うことに気付いて後ろを振り向くと、女は”女医”に銃口を向けていた。
「ちょっと、あんた・・・。」
と、言うか言わぬかのうちに、ブシューという音と共に、”女医”たち2人をを白い煙が包み込み、”女医”と女は白い粉に覆われてあたり一面真っ白になった。
「ふーっ、取り敢えず”1面はクリア”ってところね。」
白い煙が収まると、その向こうには”女医”たちに消火器の噴射ノズルを向けた女2が立っていた。女2はカレシに、銀座での喫煙客のために持っていたダンヒルのライターを手渡して
「2人で肩車して、10歩後ろの天井の熱感知器をライターであぶってくれない?」
と言った。カレシはオトコにライターを渡してオトコを担ぎ、オトコは女2に言われたとおりにした。ライターであぶられた熱感知器は、”火災”を感知し、37番通路を防火扉で封鎖した。10歩後ろに下がっていたオトコとカレシは、防火扉の内側、すなわち中央通路に残された。防火扉の内側から
「おい!銀座の姉ちゃん、どういうつもりなんだよ!」
とオトコが怒鳴った。
「ごめんなさい。あなたたちにはNICU用の酸素ボンベを交換して欲しいの。外に酸素ボンベを積んだトラックが停まっているはずよ!後はNICUの看護婦さんに聞いて!」
カレシが答える。
「分かった。で、君達はどうするつもりだ?」
「もうすぐ”雨が降る”はず。早くNICUの待合室に入って!」
熱感知器は、防火扉を閉めた後、消火用スプリンクラーを作動させ、扉の外側にいた全員、すなわち、”女医”と女と女2と、バズーカ砲を担いだ男の4人をずぶ濡れにした。
「・・・先生と、拳銃を振り回すバカ女の頭を水で冷やしてから、アイデアを練り直すわ。」
女は、女2の後ろでバズーカ砲を構えている男と目が合った。男はベッドで寝たまま病棟へ連れてこられた時と同様にほほえみ、女は、今が夢などではない現実だと知り、胸が熱くなった。
「…あ…れ?私何やってたんだろう…服がびしょびしょ…」
私が気が付くと周りに人がいて私はびしょびしょだった。
拳銃はきちんと持っている。
… 駄目だ。思い出そうとすると頭が痛くてクラクラする…。
でも、有力な情報を手に入れた。
この世界はある少女の為に出来たもの。
しかしその少女は夢を失い暴走した。
だからこの世界で少女の夢を叶えなければいけない。という事。
これを女医さんたちに説明した。
そして横に少し目を写せば、男の人がいた。さっき見たのはやっぱり夢じゃない…。
でも私はすぐに目をそらした。
なんだか仲良くなったら誰かが苦しむ気がした。
私なのか…男の人なのか…それとも別の人なのか…。
まぁ、いいや。
神父は責任の重みで耐えかねた看護師を抱えてベッドに寝かせ、女の時と同じように毛布をかけた。
「なぁ神父さん。ウチ等これからどうすんの~?先生等は行ってしもたし~、看護婦さんはダウンしたし~。」
「どうしたものでしょうなぁ・・・。わたくしたちは医療行為はできませんから、先生のお帰りを待つか、看護婦さんが目を覚ますのを待つか・・・。」
「あ、そや!他の病棟から医者とか看護婦とか呼んだらええやん!内線もつながるみたいやし!」
神父は女1を暖かく諭すように答えた。
「ここは感染症隔離病棟なんです。他の科のお医者さんを呼んでも、感染を恐れて誰も来てくれそうに思えません。」
「でもさぁ~エイズって、空気感染はせえへんのやろ!?それやったら、ひっつかへんように助けてくれてもええやん!」
「わたくしもそのように思うのですが、HIVに関する誤解は未だ解けていないのが実情です。だから先生は『常駐勤務医』、つまり『この病棟からは一歩も外に出ない医師』なんです。」
「ふ~ん、そっかぁ。」
女1は、紹介状を持って来たときに、他の大勢の患者とは違う通路を通って感染症隔離病棟に来たことを思い出した。
2時間ほど経っただろうか。看護師は目を覚ましたが疲労の蓄積により体が思うように動かないため、そのまま再び目を閉じて、神父と女1の会話に聞き入っていた。
「神父さん。大体ゾンビなんて、どこから何で出てきたん?エイズと何か関係あんのん?」
「さぁ・・・わたくしも存じませんが・・・。ただ・・・。」
「何なん?」
神父は聖書をひもといた。
「聖書の時代にも男同士で性行為をしていたことを示す記録がありましてね。使徒パウロは『男と寝てはならない』とか『男娼となってはならない』など、当時の信者を戒める手紙をいくつか残しております。神殿男娼と言いましてね、ローマ帝国の時代は、お金と引き替えに、男性客に性行為を売る男がいたようです。」
「援交の男版かぁ・・・。」
「当時は貞操観念が厳しく、夫の留守中に妻が不貞、まあ浮気ですよ、をしないよう、女性は貞操帯と呼ばれる鍵付きの下着を着けさせらていたようです。博物館に行けば、当時の現物もあるそうです。」
「ぇえ!?えっちさせないようにって鍵付きパンティー!?」
「ええ。しかも金属製です。当時はコンドームなどありませんから。しかし男の情欲というものは、満たされないとなるとさらに増長するのがいつの世も常でして、男が男を買う、という神様の定めに背いた行為も当たり前にありました。エイズが問題視された1980年代は、男性同士の性行為がエイズの原因と言われていましたが、エイズはHIVウィルスに原因があることは誰もが知る通りです。」
「ん~ほな、HIVウィルスはどこから来たん?」
「それが問題なのです。ローマ帝国の時代に比べれば1980年代は貞操観念の垣根が低くなっていたはずなのに、なぜHIVウィルスが爆発的に拡がったのか?、分からないのです。」
「ん~ウチが処女捨てたんも高1ん時やったし・・・中退して18からこのおシゴトしてるけど、ウチのお客は彼女おらへん男だけやなくて、新婚さんも来るし・・・。」
看護師は薄目を開けて大阪の女をにらんだ。自分の妊娠中の夫の風俗遊びが原因で自分も感染症隔離病棟にいるのだから無理もない。しかし神父たちに悟られぬよう、息を殺して聞き耳を続けた。
神父は続ける。
「これは噂でしかないのですが、そのHIVウィルスの存在理由を、この医科大学の極秘研究チームが突き止めたらしいのです。」
「ウチ等がここにいるのは、それを確かめるためなん?」
「エイズでこの病院への紹介状を書いた医師は、今住んでいるところは違っても、皆この医科大学を卒業し、この病院のある特定の研究室に在籍した経験のある医師ばかりです。」
ベッドに寝たままの看護師の眼がカッと開いた。
『主人はこの病院の何かを隠している。』
「何をすればいいんですか?」
私の口から声が出た。
え?私なんにも喋ってないよね?
体の自由が聞かない。
え?なんで?のっとられ…た?
そんなはずないよね!?
しかし私の体は鎖がつけられたように動かない。
は!?ヤバいヤバい…あ、まって落ち着け。
こんなあり得ない世界だ…
テレパシーとか使えるかもしれない!
まずは…神父さん!
“私“の中の“私”は目をつぶった。
本体の方は他の人と話している…
「(神父さん!聞こえますか!?神父さん!)」
私は心の中で叫び続ける
「(神父さん!気が付いて!)」
「ん?わたくしたち以外にも誰かおられましたかな?」
神父は左右に振り向いた。
「感染・・・え~と何やったっけ、ここ?今はウチ等しかおらへんよぉ~」
「感染症隔離病棟ですよ。ええ、確かにそのはずなんですが・・・。」
神父は立ち上がって、周りを見渡す。確かに3人以外誰もいない。
『・・・お願い、神父さん。私に気付いて!』
看護師は結婚式以来久しぶりに会う神に、正に祈る思いで、神父を見ていた。沈みかけた太陽の西日の光が看護師の涙に反射して神父の目に飛び込んだ。神父が光の方へ目を向けると、看護師が神父を見ていた。
「大丈夫ですか?ご気分は?」
神父は看護師に駆け寄って、背中を起こした。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。ありがとう、神父さん。」
「看護婦さん、非常食食べる?ちょっとしか残ってへんけど。」
大阪の女は非常食と水をを持ってきた。風俗嬢も接客業の1つである。非常食と合わせて水も持ってくるあたりは職業柄、よく心得ている。
看護師は、大阪の女が持ってきた水を一気に飲み干し、少し落ち着いた。
「ありがとう、はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・他のみんなは?」
「みなさん出て行かれました。『先生の後を追いかける』と言っておられました。」
「37番出入り口ね。NICUに電話しなきゃ。」
「看護婦さん、これに座ったら?」
大阪の女が用意したものは、病棟備え付けの車いすだった。看護婦は車いすに座り、大阪の女が車いすを押した。
「はい、エヌアイスー・・・ぁ、NIC、U、でズ。」
「あなた!?私よ!いまそっちに、ここの女性医師と若い女の子が向かっているはずよ!」
「あ~ごっぢば、何でか知らんが火災報知器ば鳴りよる。ばってん、火事は起きとらんけん、心配せんでよか。」
「後から2人を追いかけて男性3人女性1人がそっちに向かってるの。男性のうち1人は大きな武器を持っているわ。」
「あ~いや~そごまで言われてもおらぁ・・・。ちいと待ちんさい。」
NICUの看護師が待合室を見ると男2人が立っていた。カレシとオトコだ。彼らの他にもう1人男が待合室のソファに座っていた。
「ダンスーが3人来ちょるが、あの3人は誰ぞね?」
「私の主人とここの患者2人よ!その2人が酸素ボンベを交換してくれるわ!他の4人は?」
「あ~あの人があんたのダンナかいね~。どごがで見たことあるっちゅ顔と思ったらば・・・。」
「この病院の医事課総合主任よ。で、4人は?」
「4人ちゅ言われても~警報が鳴っで~通路の扉が閉まってしもたさかい、分からへん。」
看護師の息は切れ切れだった。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・主人と電話変わってくれない?」
よし。もう説明しよう。運かバチか…運の試しに!
「(神父さん!聞いてください。私の体がのっとられてしまいました。でのっとったほうの体が他の人たちと何かを話しています。どうすれば良いですか!?)」
話してたりしてたら申し訳ないけど…皆が死ぬよりはこっちの方がいい。
少女の願いが「皆死ぬこと」じゃなければ…ね。
「どう?2人とも消火剤と水シャワーで頭が冷えたかしら?」
”女医”と女は消火剤を払い落とそうとしたが、水で濡れて落ちそうにない。
「あなたはその物騒なもの、さっさとしまいなさいよ!」
銀座の女は、女に怒鳴った。
「いや、その拳銃は撃てない。」
銀座の女の後ろからバズーカを構えた男が言った。
「俺を覚えているかい?」
「う、うん。忘れてないわ。」
「そうこなくっちゃ。お互い自分の生まれも名前も覚えてない。お互いの顔しか分からないんだ。あの時はすまなかったな。謝るよ。」
「ううん、私こそごめんね。もう大丈夫なの?」
「ああ、理性がなくなる寸前で先生に助けられた。本当に元のままなのかどうかは分からないが、一応見た目と頭はあの時のままさ。」
あの時。そう、ゾンビ化した男の腹に女が引き金を引いたときだ。
「あんたらさぁ、久しぶりのご対面は置いといて、2人ともその武器しまいなさいよ。あたいは認めてないよ。」
”女医”がなかなか取れない消火剤を払い落としながら2人に声をかけた。
「俺のバズーカもこの子の拳銃も、今は撃てなくなっている。」
銀座の女はたずねた。
「どういうこと?」
「俺のバズーカもこの子の拳銃も誤発射防止のための『安全装置』がかかったままなんだ。先生に銃口を向けて引き金を引いてもタマは出ない。」
”女医”と銀座の女は顔を見合わせた。
「あんた、どうしてあたいらがここにいるのが分かったの?」
「”女の勘”よ。」
「具体的には?」
「看護婦さんの書いた病院の間取り図。」
「と言うと?」
「あの看護婦さん、この大きな病院の外来しか勤務経験がない。大分疲れてたみたいだし、これだけ大きな病院なら出入り口番号を間違えても無理はないわ。」
「そうだったのね。あたいも『常駐勤務医』だから、決められた通路や出入り口しか分からない。」
「先生が向かうはずの出入り口は、39番よ。」
”女医”は防火扉を開けるため、名札の裏のICカードを持ってセンサーを探した。しかし見当たらない。
「先生。防火扉は火事の時延焼を防ぐために自動的に閉まるの。一度閉まったら開かないわ。」
「あんた、やけに建物に詳しいねぇ。」
「あたしはこう見えても工学部建築学科の出身。銀座の前はゼネコン勤めよ。」
「どうすればいい?」
銀座の女は出入り口を指差した。
「37番出入り口から外へ出るしかない。」
ちっ、私をのっとった奴が何をはなしてんのかわかんない…
しょうがねぇ、丁寧な言葉使いなんてやめて中学生の時の喧嘩魂燃やしてやる!!
(「神父さん!よく聞け!俺は中学の時に喧嘩してた!今から俺をのっとったこいつをぶったおす!だから他の皆がいるところに今すぐ駆けつけて事情を説明しろおお!!!)」
はぁ…多分…届いた気がする。
胸がいたいし苦しい。
早くこんなセかイ、オワッてしマエ
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ、・・・。
”女医”の院内PHSが鳴った。感染症隔離病棟からだ。
『看護婦さんね。病棟に何かあったのか・・・。』
「先生。わたくしです。」
「神父さん。病棟に何かあったの?看護婦さんは?」
「先生・・・。もう終わりにしましょう。その女性は耐えられそうにありません。」
「・・・神父さん。本当にここで終わっていいの?今から何百年後かしら?神父さんの生まれた時代でも解決していないんでしょ?この病気。」
「ええ、1万年後の”今”ですら解決の糸口が見えません。しかし神様はその女性の願いを聞かれました。”わたくしの時代の敵とは、わたくしたち自身が戦え”と神は仰せです。はかない存在の人間が、先生をお造りになったこと自体、人間の過ちなのです。」
「・・・そう。残念ね。で、あたいはどうすればいいの?」
「わたくしの祈りの言葉で、先生に埋め込まれた”バイオプログラム”が起動します。」
「・・・分かった。どうぞ。」
「主イエス・キリストのみ名により、『アーメン』」
”女医”は女の拳銃を奪い取り、安全装置をはずし、銃口をこめかみに当てて引き金を引いた。
全ての生き物が死に絶え、何もかもが荒れ果てた大地に、神父は一人立っていた。
「わたくしこそが、『神』です。」
なんか、干渉しちった…
男の人はどこ?
ねぇ、神父様。もしかして貴方が神であり私が信じた少女なの?
そっか…貴方が神なら…
私は「天使」とでもいっておきましょうか。
背中に生える白い羽で、頭の上に浮く黄色いわっかで、この世界を壊し、救い、滅ぼしにきたんだったわ…
なんて大事な事を忘れていたの…
で、今から皆を復活させようと思う!
の、前に…
「神父、どういうこと?」
ここで完結にしても面白そう((殴
この後はご想像に任せます的な?
まぁコレが終わったらこういうのやりたい!とか参加したい!って人募集しとくね!
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ、・・・。
NICUで待機していた医事課総合主任は自分の胸ポケットに入れていた院内PHSの音に驚いて目を覚ました。
「夢だったのか・・・。」
夢。それはこの医科大学附属病院の医師が拳銃自殺すると同時に医師自体がこの世界の全てを破壊する爆弾となって炸裂する夢だった。妻とケンカしている時にゾンビに噛まれ、怯えながらも未熟児の娘を守るためにこの病院に逃げ込んだと言うのに、居眠りして世界が破滅する夢を見るとは、なんとも呑気な主任である。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ、・・・。
PHSはまだ鳴り続けている。
『・・・ん?感染症隔離病棟?誰だ?』
主任は通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし?」
「あなた?私よ。」
PHSから聞こえる声は自分の妻である、この病院の元外来看護師だった。
「大丈夫か?何で君は感染症隔離病棟にいるんだ?」
「何寝ぼけたこと言ってんのよ、このドスケベ!まぁいいわ。ケンカは一時休戦よ。NICUにいる同期の看護師に電話を取り次いでもらおうと思ったんだけど、NICUの内線はコードレスじゃないから、内線番号帳であなたのPHSの番号を探したの。」
「そうだったのか。で、君は感染症隔離病棟で何をしているんだ?」
「一時的にこの病棟の患者の管理を任されてるわ。で、あなた。あなた私に何か隠してるでしょ?」
「なにか隠してるって・・・。風俗の話ならもう・・・。」
「バカ!そんなこと聞いてるんじゃないわよ!あなたこの病院の医事課総合主任でしょ!この病院で一体何をしてるの?」
「主任をしてるけど・・・。」
「もう~~~当たり前じゃない!私が聞いてるのは、『この病院の研究室で一体何の研究をしてるのか?』ってことよ!総合主任のあなたなら、研究の大まかなことは知ってるわよね?」
呑気に居眠りして寝ぼけていた主任も、だんだん記憶がはっきりしてきた。
「・・・この病院の研究チームの中には、部外秘の極秘研究グループがいくつもある。例え妻の君でも、部外者には言えない。」
「・・・あなた。エイズの研究チームはどこなの?」
「何故君がそれを知ってる?これは日米間の極秘事項だぞ。」
「日米間?」
電話の向こうの看護師は、女に腹を撃たれた男が持っていたバズーカ砲がアメリカ製であることを思い出した。
「あなた。ゾンビが出てきた理由を知ってるわよね。」
「・・・君に会って直接話そう。ゾンビに噛まれた俺も君もHIVウィルスとAKウィルスの両方に感染しているから俺が感染症隔離病棟に入っても問題ない。だが今はNICUにいる俺たちの娘を感染から守ることが最優先だ。NICUの看護師に保育器の状態を確認してからそちらに行く。」
主任はPHSの通話を切った。
私は飛び起きた。すると目の前に広がる白い風景
なんだ…夢…?
でも、違う…妙にリアルすぎる…
ああ…よく…分からない…
男の人…はどこ…?
すこしすると目の前が見えてくる…ガラス越しのように…
目の前には倒れて苦しそうに唸る私と、それの手を握ってかなしそうに微笑む男の人と、そろ他諸々がいた。
私…タヒんだの…?頬に一筋の涙が伝い…いつのまにか男の人に助けを求めていた。
「お願いだから…私を助けて…貴方に告白もしてないし、お礼も、謝罪もしてないの…」
だから…
『だからなに?』
突然声がし後ろを振り向くとそこには幼き少女の姿があった。
”女医”は院内PHSで警備員室に電話をかけた。
「はい、警備員室です。」
「さっきの常駐勤務医よ。37番通路に閉じ込められているの。37番出入り口を開けてもらえないかしら。」
警備員は火災報知システムを確認した。
「今は鎮火していますが、37番通路付近で火災が発生したようですね。今担当者が被害状況の確認に行っておりますのでそれまでお待ち下さい。」
「今のは偽の火災報知よ。でも決してイタズラじゃないの。火事は起きていないわ。本当よ。」
「病院の火災は人命に関わる重大事故です。火災報知システムそのものの誤作動の可能性もあります。ゾンビの出没で病院全体の門に封鎖命令が出ていることもあり、院内で患者が集団パニックを起こし予想外の被害が出ているかも知れません。いずれにしろ、被害状況が確認できるまでは開けることはできません。」
「・・・分かったわ。で、確認までにどのくらい時間がかかるの?」
「そうですね・・・火災報知システムそのものに問題がなく、全て先生のおっしゃる通りでしたら10分ほどで折り返しご連絡いたします。」
「分かった。それまで待つわ。で、もう1つ聞きたいことがあるんだけど。」
「何です?」
「37番出入り口付近にゾンビはいるの?」
警備員は監視カメラの映像を確認した。
「監視カメラの映像ではいないようですが、院外周辺の監視カメラには死角もありますので、絶対いないという保障はありません。その点からしても今出入り口を開けるのは危険です。あ、少々お待ち下さい・・・。」
”女医”は銀座の女を見て言った。
「あんたの『偽火事作戦』は少し大げさだったようね。警備員が堅物でドアを開けるのに時間がかかるそうよ。」
しかし銀座の女はニヤリとして言う。
「本当に大げさかしら?先生は計画と違う出入り口に来たのよ。もし先生がこのままこの出入り口から外へ出てそこにゾンビがいたら、NICUの赤ん坊はどうなると思う?」
『ん?・・・はぁ~そうだった。あたいたちの行く出入り口は、本当は39番だったわ。』
「この防火扉はゾンビが束になって体当たりしても開かないわよ。」
”女医”は場当たり的で無鉄砲な自分の性格に久しぶりに恥をかいた。PHS回線の向こうの警備員の、もしもし?もしもし?という問いかけにも気付かない。
「先生。警備員さんが呼んでるわよ。」
”女医”は、はっと顔を上げて警備員の呼びかけに答えた。
「は、はい。」
「火災現場を確認した担当者からの連絡がありました。先生のおっしゃる通り、被害は全くないようです。」
「そ、そう。じゃあここを開けてくれない?」
「では開けますよ。」
警備員はオールロック解除のパスワードを打ち込み、No37のアイコンの<OPEN>をクリックした。37番出入り口が開いた時”女医”が外に出る合図のつもりで後ろを振り返ると、男はうずくまっていた女を抱きかかえた上、バズーカ砲まで担ぎ、女の手には拳銃を握らせて立っていた。
「消火器のおねーさん。バズーカ砲は俺がやるから、俺が撃てと言ったらこの子が握っている拳銃の引き金を引いてくれないか。安全装置はもう外してある。」
”女医”はぎょっと驚いた。
『この前腹を撃たれたばかりなのに、この体力はなんなの?』
少女は言葉を続けた。
『私にはなんにもないのに。なぜみんなはなんでも手に入れるの?』
「え…」
それは私の心の声だった。
でもこんな汚い思いには蓋をして来た。
生きてきた。
なのになんで。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしすぎる
『異常だよ。こんなのが正常な訳がないwそれとも…』
そういって嘲笑う少女。そして言う
『男の人、自分の物にしちゃう?』
医科大学理事長室にて。
専務理事は言う。
「理事長。まずいことになりましたね。」
理事長が答える。
「そうだな。厳重管理のAKウィルスがまさか我が校の不備で拡散したとはな・・・。」
常務理事はグチをこぼす。
「我々学校経営陣だけの問題ではありません。日米両政府の要人も特別背任の罪に問われ、国際社会からの非難も受けることになります。」
「常務。そもそもこうなった直接の原因は、平昌オリンピックや米朝会談の成功を認めなかった北朝鮮の旧保守系陣営が企てた日本と韓国へのミサイル攻撃だ。我々だけの責任ではなかろう。」
「理事長。ごもっともな意見ですが、我が校でのHIVとAKに関する研究を目的として米国から管理を委託されたAKウィルスを日米両政府にも秘密で韓国の製薬会社に再委託したのは、我々の独断です。国際社会は、我々の危機管理に問題があると非難するに違いありません。」
「専務。我が校と韓国とのパイプ役として大阪のTKD製薬経由を提案したのは君だ。TKD製薬は何と言っているかね?」
「TKD製薬経由に関する実務は病院長が指揮しています。日本もアメリカも韓国も資本主義ですから、多国間の取引に関する会計事務、とりわけ、『ウラ帳簿』の経理処理ができる人物を直接管理しているのは病院長です。」
理事長は病院長に問うた。
「病院長。我々のウラ帳簿を管理しているのは誰かね?」
病院長は答えた。
「病院の医事課総合主任です。」
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