ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「先生。」
窓から外の景色を眺めながら、未感染者対策を模索していた”女医”にカレシが話しかけた。
「あの子をあのまま行かせてよかったんですか?」
「引き止める理由がないわ。」
「しかし先生、彼女は未感染だ。HIVに感染する前にAKに感染したら・・・。」
「分かってるわ。それはさっき手伝ってくれたコがこの病院のNICUに預けている新生児も同じよ。あたいも未感染者対策をあれこれ考えているの。」
「アネキ。女が気を失っている間にHIVを仕込んでおきゃあ良かったんじゃねーの?」
「それも考えた。でもね、”治験”は”患者”の同意がないとできない。」
「アネキが優秀な医者だってことぐらい、俺にだって分かる。しかし何もこんな時に医者の看板出さなくても・・・すまねぇ、言い過ぎた。」
「謝らなくても良いわ。アンタの話にも一理ある。あたいが医師免許を持っていなかったら、あたいも多分そうするはずよ。事実あたいはあの腹を撃たれた男に”治験”を施した、治るという確証のないままね。」
「男にはできた”治験”があの子にはできないって・・・。先生、それは・・・。」
「『主治医の判断』よ。男は”患者”だからあたいの判断でできた。しかしいくら医者でも”健常者”のあの子に人体実験の様なことはできないわ。だからあたいは、あの子が目を覚ましてから同意を得ることにしたの。」
「アネキ、その筋じゃあ、女が目を覚ましても覚まさなくても人体実験じゃねえのか?」
「そうよ。医者のあたいが人体実験の同意をとるなんて・・・あたいは最悪の医者ね。」
「先生、今の俺たちに何かできることはありませんか?」
”女医”はため息を1つついた。
「あの男の回復を待つ。あたいは医者として最善を尽くすつもりだけど、この病棟に保管している薬も医療器具も限られている。お2人には他の病棟へ薬や器具を受け取りに行ってもらうつもりよ。あの3人のコ等にも手伝ってもらうわ。後は・・・。」
「アネキ、アネキのためなら俺は何でもやるぜ。」
「・・・あの子が未感染のままここへ戻ってくることを祈るしかないわ、あそこに座ってる神父さんみたいにね。」
2人の”恋人同士”は”女医”の指を差す方へ振り向いた。片時も聖書を手放さない神父は、ロザリオを手に、神に祈りを捧げていた。
「あの子が目を覚ましたときの目は、初恋の目だった。そう、あの子は男に恋してる。だから、出てき行く時も、なんとなく『この男のもとに戻ってくるはず』と思ったの。」
「『だから止めなかった』ですね、先生。」
”女医”は男の方へ歩み寄った。
「調子はどう?」
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