≪　神の隨に　≫

今度こそ繋ぎ得た縁は本物なのだと信じております故に、待てが苦手な狐めは此処で長らくお待ち致す事にしましょう。

──扨々、お待たせしてしてすいやせん。彼方でお声掛けしたヒトガタ成るモノで御座います。先ずは縁を結べた事に感謝を。ヒトではなく単なるヒトガタではある身ですが、暫しの戯れにどうかお付き合い下さいな。どうぞ、宜しくお願いしやす。

＿＿あゝ、お呼びしておいてお相手様に此の仕打ち、心からお詫び致します。此方こそ酷く待たせてしまった事でしょう？
扨、私めも唯の狐に過ぎぬモノ。長らく楽も無い此の生を、僅かばかり共に居てくれると言うのであれば其れこそ重畳。…どうぞ宜しくお願いいたしまする、こんこん。

先ずは世界観、其れから貴方様の望むしちゅえーしょん、とやら。様々な事をお聞き願いたく＿＿お願いしても？

さてはて、一先ずはお帰りなさいませ。残念では御座いやすが、此度の御縁、打ち切りとさせて頂きたく足を運びました。

一つ、勘違いしないで頂きたいのは待たされる分には何も問題は御座いませぬ。然し、ヒトの身らざるこの眼には、何分、狐様が誠実さを欠いているように見受けた次第です。私も掛け持ちの身。御相手を探す事は結構。然れども、御連絡もなしに待たされた身である私としてはこのタイミングは如何なものかと思ったのです。一度出来た染みは薄れど消える事はなく。こうして御挨拶に参った次第に御座います。

口煩く申し訳御座いません。私としても楽しみとしていただけに、残念でなりませぬ。美しき言の葉を紡ぐ貴方ならばきっと他に良い御縁を結べましょうぞ。

扨、其れではこれにて失礼致します。貴方に良き巡りがありますよう。

最後の御言葉を確りと告げる貴方様に対して、酷く不誠実な態度を取ってしまったこと、心よりの謝罪を。
最後の最後迄綺麗な物を紡ぐ貴方様とこれ以上の言の葉を紡ぐ事が出来ぬのは酷く＿＿それも、私の行動故。本当に不甲斐ないばかりで御座いまする。

この様なお別れになってしまいましたが、貴方様の今後の生で素敵な人と縁を結える事を、お祈りしている次第。
不愉快な思いをさせてしまいました事、申し訳御座いませぬ。

何れ何処かで貴方様の美しい言の葉を拝見出来ることを願う事のみ、お許し下さい。今迄有難う御座いました。