北風 2016-09-11 16:47:48 |
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「さて、作戦会議だ」
皆が一通り食事を終えた所で、退屈そうにしていた昶くんがおもむろにそう切り出した。
「作戦会議……って何の作戦?」
「おや、風実君が其れを訊ねるのかい?」
私としては昶くんに聞いたつもりだったが、返事は鴫羽さんから帰って来た。
「無論、君をこの状況から救い出す為の会議だ。君が一生此処で隠れて暮らして居たいと言うのなら話は別だがね」
「ま、現状を変えたいなら動かなきゃダメだって事だよ。『こっちの世界』は今、蛍ちゃんが思ってる以上に大騒ぎになってる」
「……!」
ドクン、と心臓が鳴った。
二人の言葉が私を忘れていた現実に引き戻す。
「蛍ちゃんがそうしたいなら鴫羽荘でニートとして生きても良いんだけどね? ボクとしてはその方が楽しいし」
……それはちょっと遠慮しておきたい。
それに自宅に帰らず学校にも行かないとなると、失踪事件として取り扱われ、両親にも迷惑をかける事になるし……。
「どうする? 正直作戦を綿密に練ったとしても、上手く行くとは限らないよ。何せ裏の人間を敵に回しちゃったんだからねー」
「うぅ……」
「最悪の事態も考え有るな」
「うあぁぁ……」
淡々と私を追い詰めるように言葉を重ねる二人。
重圧に耐えられなくなり、私はテーブルに肘を突いて頭を抱えた。
そうだ、私はもう戻れない所まで来てしまっている。
前に進むしか無い。
この先にどんな悪路が待っているとしても、選択肢は二つしか無いんだ。
「ふ、ふたりとも、やめてあげて……? けーちゃんこまってる……」
「今決断出来ないんなら、これから動いたとしてもすぐ死んじゃうよ。困るくらいならニートを選びな、蛍ちゃん。命が惜しいならね」
ヒオちゃんがオロオロしながらフォローしてくれるが、昶くんは到ってドライだ。
鴫羽さんも頷いて同意を示している。
あぁ、もう!!
「昶くん!」
私はテーブルをバン!と叩いて立ち上がった。
「作戦会議をしよう」
あの路地裏で昶くんに拾って貰っていなかったら、きっと私は今頃殺されていた。
仮に数日生き延びる事が出来たとしても、完全に逃げ切る事なんて絶対に無理だろう。
昶くんに救われた命だ。
昶くんに委ねてやろうじゃないか。
「私は現状を変えたい。手を貸して」
そう言い切って、私は昶くんの目を見つめる。
暫しの沈黙の後、昶くんは不敵に笑った。
「──いいよ。言っとくけど、後悔しても戻れないからね?」
「分かってる」
私もそう言って、笑い返した。
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