昔々、戦国時代初期。雪国の小さな村に一人の青年が住んでおりました。その青年は若くして弓の名士と呼ばれ、村を支えていました。
その頃、町の方では『異形の者』と呼ばれる怪異が発生していました。魔に取り憑かれる者も居れば、魔に取り殺される者、魔に拐かされて自我をなくす者などが急激に増え始めたのです。
陰陽師や寺社の人間は挙って退魔を始めたのですが、何しろその大半が似非祓魔師。本物の怪異を祓うなんて出来る筈もありませんでした。
そんな中、雪国の小さな村に住まう青年は不思議な夢を見ました。己が村の小さな祠に出向き、退魔の力を得る、というもの。起きてもはっきりと憶えている夢に違和感を感じつつも、雪が降り積もったこともあり、しばらくは祠へ足を向けることはありませんでした。祠は山中にあり、雪が深い為、冬場は特に出入りを禁じられていたのです。
春になり、再び青年は夢を見ました。あの祠に向かう夢でした。鮮明な夢で、夢から醒めても現実に行った様な心地で腕を見ると、不思議な文字の羅列と真っ青な玉石の腕輪があったのです。大層驚くかと思いきや、青年はすっくと立ち上がると村長の元へと向かいました。いつの間にか枕元に置いてあった葛篭を抱え…。
青年は妹を村に残すこと、自分は退魔の旅に出ることを告げ、村長や付き添いの制止を振り切り、村を出ました。村長が肩を落とし、葛篭を開けると沢山の金が入っていたのです。添えられた手紙には、『村へ』と一言ありました。
やがて、年の離れた青年の妹は大人になり、村から嫁ぎに出ました。その嫁ぎ先は陰の気が漂う他所の村の地主の所でした。妹の兄、つまりは青年と同い年の青年は見目麗しく、まるで西洋の人間の様に女慣れした人物でした。青年は妹に一目惚れをし、あの手この手で見合いを設けてしまったのです。しかし、元々妹は身体が弱いこともあり、嫁いでから数年、身篭った子供と共に命を落としたのです。
嘆き悲しんだ青年は密葬が済んで三日後、一人その村から姿を消しました。
それから─────
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