太陽 2015-12-22 01:12:59 |
通報 |
《20話》
「あ、杏菜。やっぱりここにいた」
『桃菜? お兄ちゃんと帰ったんじゃ……』
「えっとね、ちょっと訊きたいことがあって来たんだ」
『……何?』
「うーん……違うならそれで良いんだけどね……単刀直入に訊くと……
覚えてる?」
『──!!』
「あ、やっぱり」
『な、違、何のこと……』
「あ~、駄目だよ。やっぱ嘘下手だね、杏菜。これじゃあバレるのも当然だよ……」
「で? 覚えてるんでしょ? 死んだ瞬間ときのこと」
『…………覚え……てる……』
「何であの人にそれを言わなかったの? 私を庇ってたの?」
『…………』
「馬鹿だね」
「言っちゃえば良かったのに」
「私に殺されたって・・・・・・・・」
「車道に突き飛ばされて・・・・・・・・・・、死んだって・・・・・」
『…………』
「分かってるよ。罪悪感を覚えてるんだよね」
「自分が殺されたのは、自分が私を追い詰めていたせいだ、って思ってるんだよね」
『…………』
「でもね、桃菜がそうやってお人好し気取ってるせいで、桃菜を救ってくれた人達が傷付くかもしれないんだよ」
『!? どういう……!』
「分かってないね。自分が何で死んだか」
『……え? それは……桃菜が私を憎んでた、から……?』
「まあそれは事実だよ。私は杏菜を憎んでいた。でもそれは殺す程じゃあ無いよ」
『え?』
「嫉妬が理由で人を殺すなんて虚しいだけだよ。私が杏菜を殺したのは、もっと明確な利益があったから」
『え? ……え?』
「私ね……お兄ちゃんが好きなの」
『 』
「親愛でもない。恋愛でもない。そんな言葉で括れない程、大好きなの」
『 』
「お兄ちゃんに嫌われるのは何よりの恐怖」
「お兄ちゃんに愛されることが私の全て。お兄ちゃんにとっても、私が全てであって欲しい」
「だから、杏菜の分の愛も欲しくなったの。それだけ」
『あ……あぁあ……』
「あ、やっと反応した」
「その感じだと、分かったみたいだね」
「そうだよ」
「お兄ちゃんと仲良くするあの人達の分も、私は欲しい」
『っ……桃菜ぁ!!』
「わ、怒んないでよ」
「大丈夫、私だってあの二人には感謝してる。本当、してもしきれないくらいに」
『……っ……』
「でもね、私は自信がある。あの人達に勝てる自信が」
『嘘……できるわけない!』
『桃菜はまだ子供だよ!? 力も弱い。私のときみたいに、上手く行くわけがない!』
「ううん、上手く行くよ」
「子供とか大人とか、力が強いとか弱いとか、関係ない」
「殺せる力より殺す勇気と覚悟。それが大切なんだよ」
「戦場で強力なミサイルや爆弾があっても、それが使える人がいないと人は殺せない」
「逆に、小さな拳銃一丁でも、引き金を引く覚悟さえあれば人は殺せるんだよ」
「生憎、私は桃菜を殺した今、何も後悔してない」
「お兄ちゃんに愛して貰うためなら、何でもできるんだ!」
『……っ!』
「それにね、杏菜も聞いてたでしょ?」
「お兄ちゃんは、私がどんな罪を犯しても味方でいてくれるって!」
「あれ、物凄く嬉しかった!!」
『……桃菜』
「私、あの言葉を聞いて勇気が湧いたの! 今はもう何も怖くない!」
『桃菜!!』
「……何?」
『あの人達に、あの人に、手を、出さないで……! お願ぃ、だから……!』
「…………それは、杏菜次第だね」
『……え?』
「手を出して欲しく無かったら、お兄ちゃんから人を遠ざけてよ」
『遠ざけ……る?』
「お兄ちゃんを一人にしてよ。もう誰にもお兄ちゃんの愛を取られたくないの」
『そん……な……どうやって……』
「それくらい考えれば分かるでしょ?」
「上手く行ったら私はもう誰にも手を出さないって約束するよ」
『…………』
「大丈夫だよ、お兄ちゃんの事は私が何十人、何百人分も愛すから。お兄ちゃん、寂しくないよ」
「それじゃあね、杏菜」
「別に急かしはしないけど、待ってるよ」
「期待してるよ」
「私はまだ、この話を終わらせる気は無いから」
「今日までの事は序章も序章」
「これからが、本番だよ」
「美しい兄妹愛を描いた物語は、ハッピーエンドじゃないとね」
《20話・完》
トピック検索 |