太陽 2015-12-22 01:12:59 |
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《12話》
それから、いつもの場所に行っても桃菜に会う事はできなかった。
放課後の時間を利用して毎日探し回ったが、桃菜はどこにも見当たらなかった。
その日も俺は半ば無駄だと分かりつつも、町中を徘徊していた。
狭い路地や電柱の後等、幽霊の好みそうな場所を重点的に。
……野良猫と桃菜以外の霊ならいくらでも見付かったが、いつまで経っても桃菜は見付けられなかった。
「……疲れた」
大した距離は歩いていない筈だが、常に周囲に気を配っている為か心身ともに限界が近付いている。
一休みしようと、俺は目の前にあったコンビニに足を踏み入れた。
適当に飲み物を見繕い、数人が並んでいるレジに向かう。
「ん?」
と、そこで俺は前に並んでいる男に見覚えがある事に気が付いた。
くるんとそいつの正面に回り込み、真っ直ぐ顔を見据える。
「うお!?」
「……やっぱりお前だったか……」
驚いて飛び退くそいつを俺は睨み付けた。
「……満束」
「うわうわうわ! なっんだよお前! びっくりしたぁ!」
「うるせぇよ、店内で騒がしくすんじゃねぇ」
相当驚いたらしく、満束は心臓に手を当て息を整えている。
何堂々とコンビニ来てんだ、この不登校野郎。
大人しく引き込もって敗北の悔しさを反芻してろ。
「ふ、不良のお前にマナーを説かれたくねえよ……何だお前、この近く住んでんのか?」
あからさまに嫌な表情を見せる満束。
露骨な奴だ。
お前と御近所同士なんてこっちこそ御免被りたい。
「いや、今日はちょっとだけ遠出しててな…………ん」
と、そこで俺の脳裏に一つの考えが過った。
そうだ。
まだこいつに、聞いていない事があった。
「…………」
「な、何だよ」
突然沈黙して考え込んだ俺を、満束は気味悪そうに睨んだ。
「満束」
「お、おう」
「レジ。買わねぇんだったら抜かせてもらうぜ」
「うおっ、ちょ、てめえ!」
レジ待ちの順番が自分に回ってきている事に気付かなかった彼を、俺はひょいと抜かして会計に向かう。
「順番はきちんと守れ!」
「不良のお前にマナーを説かれたくねえよ……ところで満束、ちょっと聞きてえ事があるんだが、後で付き合ってくれないか?」
「は、はあ?」
※
「で? 何だよ聞きてえ事って」
コンビニの前で待っていると、暫くしてレジ袋を下げた満塚が出てきた。
「……結構買ったなお前」
「か、関係ねえだろ」
「ちょっ見せろ、何買ったんだよ」
「止めろ!」
抵抗する満束のレジ袋を強引に毟りとり、中を覗き込む。
炭酸飲料(2L)×3
スナック菓子×5
アイス×2
「……お前ニートしてんなぁ……」
「黙れ!」
羞恥と屈辱に真っ赤になって叫ぶ満束。
楽しい。
こいつが俺に手を出せないのは雪と俺の仲が良いからだろう。
虎の威を借る狐以外の何者でも無いが、この優越感はなかなかのものだ。
にしてもこいつ弄り甲斐あるなあ。
今なら沖花にちょっかいを出したくなったこいつの気持ちも少し分かる。
だが俺はこれ以上しつこく苛めるつもりは無い。
満束にレジ袋を返すと早々に本題に入った。
「で、満束。体育倉庫についてなんだが」
「体育倉庫? ああ、お前らまだあの御守り探してんのか? だから言ったろ、あれは盗られた、って」
「誰にだ?」
「は?」
満束が怪訝な顔で聞き返してくる。
「知るわけねえじゃん、それが分かれば最初から言ってるわ」
「そうか……まあそれはそうだろうが……」
「な、何なんだよ……」
「容疑者」
「あ?」
そうだ。
こいつは仮にも(元)学年トップ。
雪には至らなかったが、その実力も相当のものだ。
当然その強さに憧れて、もしくは保身のために、満束の配下に着く生徒も多いだろう。
沖花を苛めていたのはこいつ一人でも、こいつが御守りを隠した事を知っている奴も居るのでは無いか?
「お前以外に、倉庫に御守りが隠してあるって知っていたのは、誰だ?」
そこから、御守りを探し出せる可能性も、まだある。
「……かなり居ると思うぞ。とりあえず学校には…………30人ちょいか」
何か癪だが、やはりこいつに着く生徒は多い。
恐らく大半が一年生だと思われるが、入学してまだ一ヶ月も経たない内にここまでのコミュニティを築けるのは実力だろうか。
いや?
ちょっと待て。
「『学校には』? 校外にも居るのか?」
「おお。ウチの学校、セキュリティがガバガバだろ? 他校の不良が攻め込んでくる事もよくあるし。逆に仲良いトコの連中も来る。そいつらだって知ってるかも知れねえ」
「…………」
だとすると容疑者の数は計れない。
更に個人の特定も出来ない…………やはり無理か。
「あと前あの辺でガキも見かけたな」
「え?」
子供?
「体育倉庫の周りをフラフラしてたぜ? こんくらいの女のガキ。近所の子供か?」
そう言って満束は自分の胸くらいで手の甲を上に向ける。
彼の身長は180足らず。
そうすると、その子供は140前後……。
「!」
──桃菜?
──そう言えば沖花の様子見に来てたっつってたな──
──て事はこいつも視える?──
──いやちょっと待て──
──となると──
「お、おい? マジで何なんだよ……」
満束は熟考する俺を半眼で眺めていた。
が、俺はそんな事は気にせず、真っ直ぐに走り出した。
「うっわ!? ……訳わかんねえアイツ……」
困惑するような声が遠ざかっていくのを感じながら、俺は強く足を踏み込んだ。
《12話・完》
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