太陽 2015-12-22 01:12:59 |
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後ろ姿だったので表情は窺えなかったが、正面に立っているであろう誰かに対し、声を荒らげている。
「なっ……!?」
思わず声を漏らし身を乗り出す。
と、桃菜がはっと振り向いた。
その顔は涙で濡れている。
『~~っ!』
俺と目が合った桃菜は苦しそうに顔を歪め、声を詰まらせた。
その小さな背の向こうに立つ、一つの影。
「…………」
沖花杏菜。
以前雨の中で出会った少女。
桃菜の、双子の妹だ。
俺の存在を意にも介さない虚ろな瞳には、俺の姿も桃菜の姿も映っていなかった。
無機質に無感情に足を踏み出し、踵を返して去っていった。
「あ……」
その、存在自体が掠れたような後ろ姿に手を伸ばしかけるが、呼び掛けるべき言葉が見当たらない。
立ち尽くす俺の脇をふらりと桃菜が抜けていった。
「ちょ、桃菜!」
桃菜が足を止める。
だが、振り返る事はしない。
「な、何があったんだよ……と言うか、杏菜とは喋れ──」
『ごめん』
「ッ……」
一切の干渉を拒むような、一言。
抱えるものの重さに必死に堪えるように、桃菜の身体が、声が、震えていた。
『やっぱ良いよ、御守りはもう。ありがとね』
「な……」
何で、と口を突いて出そうになったのを、俺は飲み込んだ。
あんなにも執着していた御守りをあっさり諦めてしまった桃菜に、それを許してしまった俺が問い質す気にはなれなかった。
問い質す権利は──俺には無いように思えた。
《11話・完》
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