僕は、神の裁きを待っている。

僕は、神の裁きを待っている。

ゴースト  2015-12-19 22:24:54 
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この話しは、20年以上前に起きたユーゴスラビア紛争の話しです。
子供の頃に、色々あって母に捨てられた僕は、単身赴任で外国に行っていた父と暮らす事になりました。

言葉も分からぬ異国の地で、まさかあんな事が起こるとは思いもしていなかったのです。



だから僕は、今も神の裁きを待っているのです…。

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  • No.81 by ゴースト  2015-12-21 20:35:25 

スルツキ達が居る場所を過ぎて、少し数百メートル歩いたところで、僕達は数時間待ってたんだ。
母親が後から来るっていってたからさ。
でも、結局母親は来なかった。

今思えばだけど、後から追うっていうのは、赤ちゃんの後を追うって意味だったんだろうな…。

次の日になると、先頭を進む人と、後方の人の距離がかなり広がっていた。
もう休んでいる時間も体力もない。
もし休んだら、そのまま動けなくなってしまうような状態だったんだ。
だから、この時になると、暗黙の了解じゃないけど、体力のない人はどんどん遅れていくようになった。
幼児とかは、まだ小さいから、体力のある大人が背負えるんだ。
だけど、僕達ぐらいになると、体重が多少あるから、背負えないんだよ。

  • No.82 by ゴースト  2015-12-21 20:39:47 

そして、丁度最後尾に居たのは、僕とソニア、メルヴィナだったんだ。
ソニアは体力的にも、精神的にも参っててさ、僕とメルヴィナが引っ張りながら歩いていたんだけど、子どもだからただでさえ歩くのが遅いんだ。
引っ張りながらだと、さらに遅くなって、全然追いつけないんだ。

気づいたら、僕達は皆とはぐれてたんだ。
遠くの方からは、爆発音みたいな音とかが聞こえてきてて、どこかでまたあのような惨状が繰り広げられているかもといった考えが過ぎった。

もしかしたら、大人が心配して引き返してきてくれるかもって思った。
だから、僕はメルヴィナにここで大人達を待とうって言ったんだ。
だけど、メルヴィナは駄目って言うんだ。
「戻ってこないよ。自分達で進まなきゃ。」
って言うんだ。

  • No.83 by ゴースト  2015-12-21 20:47:30 

僕達は三人だけで、道もわからないのに、進んだんだ。
メルヴィナがさ、もしかしたら、味方が来てスルツキの兵士をやっつけてるかもって言うんだ。
確かに、そうかもって。
何かにすがりつかないと前に進めなかった。
だから、僕達は、音がする方に味方がいるって希望を持って、そっちに向かったんだ。

でも、それが間違いだった。

  • No.84 by ゴースト  2015-12-22 17:50:21 

山と山の間に、少し開けたところがあって、僕達はそこに出たんだ。
あんなに体力が落ちてなければ、疲れていなければ、もっと冷静に考えられたのかもしれない。
だけど、この時の僕達は、子どもでそこまで思考能力もなかったし、そして疲れ果てていて、頭が回らなかったんだ。

開けた場所の半分くらいまで歩いた時だった。
横の道から、振動と共に何かが近づいてくる音がしたんだ。

もうさ、前の方からは爆発音とかがしてて、そんなの聞こえないはずなのに、聞き間違いだって思いたかったんだ。
だけど、爆発音の合間に、何かが向かってくる音がするんだ。

味方かもしれない。
でももしスルツキだったらどうしよう。
色々不安と期待があった。

僕は怖くて、迷って、そしてその場で止まってたんだ。
そしたら、メルヴィナがとりあえず逃げなきゃって言ってさ、僕はソニアの手をつかみながら全力で前の森というか、山に向かって走ったんだ。

  • No.85 by ゴースト  2015-12-22 17:54:05 

それで、何とか木のところまで来て、良かった。何とか隠れられたって。そう思ったんだ。
それで後ろを振り返ったら、メルヴィナがいないんだよ。
何でって思ったら、メルヴィナがさ、メルヴィナがこんな時にだよ。
こんな時に限ってさ、転んじゃってるんだよ。

もう近づいてくる音もかなり大きくなっていて、振動もしてきていたんだ。
メルヴィナ早く立ってこっちに来いって叫んだんだ。
だけど、メルヴィナは立たないんだ。
いや、立てないんだよ。
3日間も、殆ど寝ないで飲まず食わずで歩いてきたんだ。
体力的にも精神的にも、限界なんてとっくに通り越してたんだよ。

僕は助けに行かなきゃって、もう見つかってもいい。
ここで僕がおとりになれば、もしかしたら二人は助かるかもしれないって。
それで飛び出してメルヴィナの所に走って駆け寄ったんだ。

でも、メルヴィナを起こそうとしても、メルヴィナは足に力が入らない、立てないって言うんだ。
だけど、こんな所で見捨てるなんてできるわけないじゃないか。
ここまで一緒に生き抜いてきたのに、もう三人だけになってしまったのに、見捨てるなんて出来るわけじゃないないか。

  • No.86 by ゴースト  2015-12-22 17:56:37 

だから、メルヴィナを背負ったんだ。
だけどさ、情けないよ。
全然前に進めないんだ。
この時、僕は8歳で、小学3年ぐらいだったんだ。
男女の差といっても、体格的にも、肉体的にもまだそこまで差がなかったんだ。
普段だったら、それでも何とか歩けたはずなんだ。
でも、この時の僕にはそんな力なんて残っていなかったんだよ。
頼むから前に進んでくれって頭の中で思っても、全然前に進めないし、足のふんばりも効かないんだ。
もう、向かってくる音はかなり鮮明になっていて、金属音も混じっていたんだ。
僕とメルヴィナの姿が相手に見られるのも、時間の問題だった。

  • No.87 by ゴースト  2015-12-22 18:01:06 

僕はメルヴィナに大丈夫だから、僕が何とかするからって言ったんだ。
だけど、メルヴィナがさ。
泣きながら、「もういいから、ソニアの所に行って隠れて」って言うんだ。
そんな事出来るわけないじゃないかって怒ったんだ。
だけど、メルヴィナはこのままじゃ見つかるって。
今ならまだ間に合うって。
今隠れれば、ソニアと僕は助かるって言うんだよ。

僕は嫌だ嫌だって言って、背負ったまま前に進もうとしたんだ。
そしたら、メルヴィナが暴れてさ、地面に落ちてしまったんだ。
すぐにまた背負おうとしたんだけど、メルヴィナがあばれて、背負えないんだよ。
何するんだって言ったらさ、お願いだから隠れて!って。
僕とメルヴィナが見つかったら、ソニアはどうなるって、このままじゃ全員捕まっちゃうって叫ぶんだ。

だから二人だけでも逃げてって泣きながら叫ぶんだ・・・。

僕は弱虫なんだよ。
僕はメルヴィナの所に留まっておくべきだったんだ。
それなのに、体が勝手にソニアの所に向かってるんだよ。
何やってるんだよ やめろって自分にいっても、体が勝手に逃げちゃうんだよ。

  • No.88 by ゴースト  2015-12-22 18:05:49 

ソニアの所へ入る直前か、直後かわからない。
隠れて振り返ったら、戦車が向かってきていた。
メルヴィナは僕が隠れたのを確認したら、横になりながら体を動かして僕達の方向に背を向けたんだ。

頼むから味方でいてくれって、敵だとしたら、気づかないでそのまま通り過ぎてくれってそう祈った。
だけど、現実は全然幸運なんてないんだよ。
思ったとおりにならないし、神様なんていなかったんだ。
戦車はメルヴィナの横で止まって、上からスルツキの軍服を着た兵士が出てきたんだ。

降りてきた兵士はさ、メルヴィナの事を蹴ったんだ。
メルヴィナは濁った叫び声を一瞬だしてさ、生きているって確認した兵士は、笑いながら何かを言った。
そしたらもう一人、兵士が出てきて、暴れるメルヴィナを叩いて、服を脱がせて乱暴したんだ。
たった8歳の少女に乱暴したんだよ。
メルヴィナは泣き叫んでもおかしくないのに、自分の口を手で押さえて、叫ばないようにしてるんだよ。

  • No.89 by ゴースト  2015-12-22 18:11:00 

僕らに助けを求めないように、僕らが見つからないようにしてるんだよ。
自分が酷い目にあってるのに、怖くて痛くて辛いはずなのに、メルヴィナは自分よりも僕達を心配して、自分の口を押さえてるんだよ。

僕とソニアを助ける為に必死に耐えてたんだ。


すぐにでも飛び出さなきゃいけない。
助けなきゃいけない。
でも、それをしたらメルヴィナの行動は全て無駄になってしまう。
僕には決断できなかった。
何でこんな選択をしなきゃいけないんだって、山中の生活を通して、感情をあまり外に出せなくなっていたソニアや僕は、泣きながら見ていることしか出来なかった。

これが戦争なんだって。
これが人間なんだって。
これが神様の作った世界なんだって。
神様なんて、残酷な悪魔だと思った。

僕は本当に無力で、何も出来ない弱虫で。
本当は僕があそこで殺されているべきなのに、僕はメルヴィナに代わって死ぬほどの勇気を持っていなかったんだ。
持っていたとしても、それは本当の勇気だとか決意じゃなかったんだ。

日本に居る頃は、自分は何でも出来る。
やろうと思えば何でも出来る人間だと思っていた。
だけど、実際の僕はあまりに無力で何も出来ない弱虫だったんだ。

  • No.90 by ゴースト  2015-12-22 18:13:02 

ソニアはずっとごめんなさいと繰り返し言っていた。
僕は、メルヴィナが乱暴されて、連れ去られるのを見ている事しか出来なかった。

この時だったよ。
今まで憎しみだとか、悲しみだった心が、自分には抑えられないぐらいの怒りと殺意みたいなのに変わっていた。
絶対にあいつらを殺すって。
殺したいって。

  • No.91 by ゴースト  2015-12-22 18:44:46 

それから数時間くらい、僕とソニアはそこから動けないでいたんだ。
だけど、ここにずっと居たって何も変わらない。
僕とソニアは手を繋ぎながら、轟音止まない方向へ向かった。

世界は不幸なことばかりじゃなくて、幸せもあるかもしれない。
だけど、不幸幸せ不幸みたいに、交互に来るとは限らないんだ。
僕達は、ずっと目指していたゴラジュデに、沢山の大切な犠牲を払って辿り着いたと思ったよ。
だけど、街には入れないんだ。

もう、街はスルプスカの軍に包囲されて、攻撃を受けていたんだ。
近付く事も出来ないんだ。

街に居た人達もさ、街から出れないんだよ。
陸路で街に入る事も、出ることも出来ないんだよ。
包囲された街に残された人々には、包囲が解けるのを待ち続けて、生き抜くしかないんだよ。
援軍も見込めない中、いつ包囲が解けるのか、それとも死ぬのか、わからないままそこで生き抜くしかないんだ

  • No.92 by ゴースト  2015-12-22 18:48:37 

山の中にもスルプスカの兵士が大勢居て、全ての希望を打ち砕かれてさ。
声も出なかった。

ここに留まることも、街へ入ることもできない。
僕とソニアは、世界で二人だけ取り残された気分になってさ。
でも諦めたら駄目だって、自分に言い聞かせて、ゴラジュデから離れて延々と、山の中を歩き続けたんだ。

ここらへんは、日記もちゃんとかいてなくてさ、何日歩き続けたかわからない。
でも、今思えば、約2ヶ月くらい山中で生活した経験がなかったら、僕とソニアはここで死んでいたと思う。

  • No.93 by ゴースト  2015-12-22 18:53:27 

歩き続けて何日目かわからないけどさ、小さな川というか湧き水みたいなところがあって、そこで休んでいたら、銃をもった人が駆け寄ってきたんだ。
スルプスカの兵士かと思ったけれど、そうじゃなくてさ、ボシュニャチの民兵の人たちだった。

それから93年の10月くらいまで、一年半くらいボシュニャチの民兵の人と行動を共にしたんだ。
僕はさ、彼らと過ごして1ヶ月ほど経った頃に、僕も戦わせてと頼んだんだ。
何でもするって。
死んでもいいって。
だから僕も戦わせてって頼んだんだ。

勇気を出すって。
勇気を出して戦う。
もう逃げないって。
だからお願いって。

でも、彼らはそれを許してくれなかった。
中学生くらいの子どもにも銃を持たせているのに、何で僕は駄目なのかってしつこく聞いたんだよ。
スルプスカの兵士が許せないって。

そしたら、名前は書けないけど、民兵の一人が僕に言ったんだ。

  • No.94 by ゴースト  2015-12-22 18:54:53 

戦いに勇気なんて必要ない。
生きる事にこそ勇気が必要なんだ。
君は戦う以外にも出来る事があるだろう。
君だから出来る事があるだろう。
俺達は戦争が終わるまで生きていられないだろう。
君は、ここで何が起きたかを伝えなさい。
同じ事が起きないように。
辛くても生き抜いて、そして胸を張って
友人に天国で会えるようにしなさいって。

  • No.95 by ゴースト  2015-12-22 18:59:05 

彼らと過ごした間、僕は色んなものを目にした。
僕の中で、この時スルツキの人々や軍、警察、民兵は絶対的な悪のような存在になっていたんだ。
そして、ボシュニャチは被害者だと。
だけど、違ったんだよ。

民兵の人たちはさ、スルツキの集落を襲って、食料を奪ったり、スルツキの大人や子どもを殺害したり、女性を暴行したりしていたんだ。

僕はわからなくなっちゃったんだ。
何が正しくて、何が間違っているのかとか。
何が悪で、何が正義なのか。
あんなに被害を受けて、その苦しみを知っているはずの人たちが、同じ事を、相手の民族に、人々にするんだ。

僕は、何でそんなことをするの?やめようよって何度も言った。
それはやっちゃいけないことだよって。

そういうと、決まって民兵の人は悲しそうな顔をしてさ、そんなのはわかっているんだって。
でもこうしないと、自分達の仲間が同じ目に合うって。

矛盾に気づいているのに、それをしなければいけない状況だったんだ。
ボシュニャチもスルツキも。
僕はこの時、まだ彼らの紛争の歴史も何も知らなかった。
前にも書いたと思うけれど、スルツキの人々も同じように、歴史上で何度もこういった虐殺の被害に合ってるんだ。
どちらも被害を受ける苦しみや怒り、恨みをしっているのに、それでも尚、お互いにそうしなければ、やられる状況になっていたんだ。

  • No.96 by ゴースト  2015-12-22 19:04:31 

恨みや禍根は残されたまま、次の世代へと引き継がれて、また同じ悲劇を繰り返している。
それがこの時の紛争だったんだ。

前に、国は3つの勢力に別れたって書いたよね。
ボシュニャチ、フルヴァツキ、スルツキの3勢力に。

ボシュニャチとフルヴァツキは最初は味方同士のような感じだったけれど、連携は取れていなくてさ、国内で、つまりヘルツェグ=ボスナではフルヴァツキの軍や人々によって、ボシュニャチやスルツキの人々が虐殺された。

一つの民族が、一方的に虐殺するのではなく、お互いに民族浄化の応報を
繰り広げていたんだ。

でも、暴行までする必要なんてあるのか?って思うよね。

それは、単に性的欲求を満たす為の行為じゃないんだ。
敵対する、憎む民族の女性を凌辱する、それは自分達の民族が、敵対する民族に勝利する、やっつけるといった優越感を示す行為でもあったんだ。
だから、女性は標的になったんだ。

  • No.97 by ゴースト  2015-12-22 19:52:42 

9月に入ると、フルヴァツキとスルツキの二つの勢力が同盟を結んでさ、ボシュニャチは二つの民族から挟まれる状況になったんだ。

その理由は、フルヴァツキの人々も、自分たちによる、自分達の国が、このボスニア・ヘルツェゴビナの領内で欲しかったんだ。
そして、最初は共に戦ってもヘルツェグ=ボスナ内でスルツキの人々が一掃されて、領地の争いが減ったんだ。
フルヴァツキからすれば、次はボシュニャチだったんだ。

10月の中旬ぐらいだった。
ボシュニャチの勢力は、スルツキ・フルバツキの二つの勢力に挟まれ、絶望的な状況になっていた。
僕はそういった経緯は、日本に帰ってきてから知ることになったけど、この時、自分達がかなり追い詰められているというのは何となく認識していた。

僕とソニアが一緒に過ごしていた民兵達の部隊も、人数がどんどん減っていって、人手が不足していた。
この日も、殆どの人が離れた街に行ってしまって、拠点としていた洞窟には十数人しか残っていなかったんだ。


  • No.98 by ゴースト  2015-12-22 19:56:13 

もう秋になって、辺りが暗くなる時間も早くなってきていた。
拠点に残っている大人はさ、殆どが負傷した人だったんだ。
だから、僕は暗くなる前にさ、水を汲んでくる必要があった。
この時、ソニアも一緒につれて行けば良かったんだよ・・・。
だけど、誰かが負傷した人を見てなきゃいけなくて、僕が水を汲んできて、その間にソニアが負傷した人を看ている。
そうするしかなかったんだ。

水を汲む場所までは、山を下らなきゃいけなくて、子どもの足で往復4時間くらいかかるんだ。
水を汲んで洞窟の近くまで来た時には、もう辺りは暗くなっていた。
ソニアはちゃんと看てるのかなって心配しながら、水汲んできたよって洞窟の中に入ったんだ。

  • No.99 by ゴースト  2015-12-22 19:59:33 

だけどさ、洞窟の中に明かりが点いてないんだ。
もう外は暗くて、洞窟の中も真っ暗なのに、明かりが点いてないんだよ。
最初はおかしいなって思ったんだ。
だけど、ソニア疲れて寝ちゃったのかって。
ちゃんと看病しなきゃ駄目じゃないかって。
ソニアちゃんと看ててって言ったでしょって言いながら、スイッチを押したんだ。

だけど、明かりが点かないんだ。
何回押しても点かないんだ。
僕さ、民兵の人たちと過ごしている間、前のように本当に危険な目に合う事が殆どなかったんだ。

ソニアを守るって、だからどんな時でも僕はソニアから離れちゃ駄目だし、どんな時でも警戒して、気をつけてなきゃいけなかったんだ。

でも、馬鹿な僕はその大切なことも忘れて平和ぼけしてさ、それを怠ったんだ。
信じたくなかった。
ただ電球が切れただけだと思いたかった。

  • No.100 by ゴースト  2015-12-22 20:02:31 

確かめるのが怖かった。
誤解であってくれって、神様どうか誤解であってくださいって祈ったんだ。
だけど、洞窟の奥に進んでいくに連れて、真っ暗で何も見えなくても、嗅いだ覚えのある臭いがするんだ。

錯覚だって。
これは錯覚だって。
気のせいだって。

でも、うめき声とかも微かに聞こえてきて、何かが焼ける臭いもしてきてさ。
気づいたら両手に抱えていた水の入れ物を落としていた。

ソニアの名前を何度も呼んだんだ。
ソニアソニアどこにいるのって。
隠れないで出てきてよって。
だけどソニア全然出てこないし返事しないんだ。

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