目的ない潜考

目的ない潜考

青葉  2013-10-19 22:21:19 
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忘れないうちに、短い話を。

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  • No.45 by 青葉  2014-12-16 01:30:59 

早野君の言葉を聞いて、初穂は直ぐに訊く。
「何よ、切り札って?」
僕にとっても、非常に知りたいことだ。
「僕はね、小学生になってから日記をつけることを習慣としていたんだ。誰にも見られたくはなかったから書く時以外は、鍵の掛かる引き出しにしまっていたけどね。それには、全てが書いてあるんだよ。それが僕の切り札だよ。」
初穂の顔色が変わる。
「全てって、何よ?」
「だから、言葉通り全てだよ。まず、僕が女子達から虐めにあっていること。そして授業中に失禁してしまったこと。それから、掛井君が病気で苦しんでいる中でも自分を悪者にしてまで、僕の失禁を隠してくれたこと。さらに、二人の女子が僕に謝りに来たことと、僕が虐めに遭う羽目になった理由もね。つまり、初穂ちゃんのせいで僕は虐めに遭ったということをだよ。ここは初穂ちゃんにとって隠したいところだろうね……。最後の五日間は、掛井君に早く会いたい気持ちを書いたんだ。会ってお礼を言いたいことと、掛井君を悪者にして自分を守ったことをお詫びしたい気持ちがあることをね。お母さんは、僕が死んだ後、哀しみのあまりか僕の部屋を封印してしまった。だから、その日記は誰も読んでいないんだ。お母さんは、僕の部屋をあの時のままの状態にして、誰も入れていない。お母さん自身さえね。それがまた掛井君にとっての不幸になってしまったね。」
早野君は初穂の顔を見据える。
「僕のお母さんは、曲がったことが大嫌いで、妥協を赦さない厳しい人だよ。掛井君の無実を知ったら、必ず掛井君にコンタクトを取って、疑ったことを謝罪するよ。その後に、掛井君の無実を世間に公表することに奔走するのは間違いないね。そして、初穂ちゃんのことはどうするだろう……。さっき言った通り、お母さんは曲がったことが嫌いなんだ。初穂ちゃんが、女子達に僕を虐めるよう仕向けながら、僕が死んだ後、全ての罪を掛井君になすりつけるように掛井君を責めたことを知ったら、お母さんはどうするんだろう。例えばマスコミを使ってでも真実を公表しようとするかもしれない。まあ、どこまでするかは僕にも判らないけど。でももう、それは僕にはあまり興味がないことだよ。掛井君が無実の罪で苦しむことがなければそれで良いんだ。だから、初穂ちゃんが何も思わないならばそれでいいよ。でも、何も感じないならば、僕は初穂ちゃんを軽蔑くらいはするかな。もし生まれ変わりがあるとしても、初穂ちゃんとは未来永劫に会いたくない。それだけだよ。」
早野君は唐突に立ち上がる。
「さて、もう掛井君にも初穂ちゃんにも話すことは何もない。僕はお母さんの所に行くよ。夢枕に立って、僕の部屋に入って日記を読むよう話をしてくる。最初はお母さんも、ただの夢だと思うだろうけど、何度も何度も訴えてくるよ。お母さんが僕の日記を読むまで僕はお母さんの夢枕に立ち続ける。掛井君、色々ごめんなさい。僕の弱さが、長い間掛井君を苦しめてしまったね。掛井君だけでなく掛井君の家族をもだね。でも、苦しみは終わらせるよ。掛井君、僕を恨んでくれてかまわないよ。でも、僕は掛井君が大好きなんだ。もう、僕にとらわれることなく生きてね。どうか、今までに失った人生を取り戻して。……僕は掛井君と一緒に大人になりたかった。ずっと友達でいたかったな……。もし本当に生まれ変わりがあるならば、僕は掛井君とまた会いたい。また掛井君と友達になりたいよ……。」
早野君の話す内容から、別れが迫っていることを理解した。
次の瞬間、早野君の姿が薄れていく。
「掛井君には迷惑ばかりかけたね。それが心残りだよ。さようなら……掛井君。また会う日まで。さようなら……。」
その言葉を最後に早野君は消えた。それは、あっという間のことだった。
「早野君、僕もまた早野君に会いたいよ……。」
早野君がもういないことは分かってはいたが、遅まきながらそう呟いた。それと同時に僕の目頭が熱くなった。二度目の早野君との別れに感情が抑えられなくなったのか、気持ちが高ぶり、無意識に言葉が出てしまう。
「また会いたいよ……。でも勝手だよ、早野君は。今度も、突然に僕の前から去ってしまうんだね。また、僕はお別れが言えなかったよ。少しぐらい別れを惜しむ時間を呉れてもいいじゃないか……。」
暫く僕は心の動揺で動けずにいたが、どうにか心を落ち着かせると立ち上がる。僕も早野君と同様に、もう初穂に何の感情もなかった。初穂がどんな表情をしているのか見ることもなく、声をかけることもなく、初穂の部屋を出た。
明け方前の外は肌寒かったが、あまり気にならない。ただ、早野君との昔の思い出が浮かんできた。
とっくに終電は終わっている。
僕は早野君のことを考えながら、遠い我が家に向かって街を歩いた。


数日後、僕は大学に行くと畠田先輩を探しだし、オカルト研究会を辞めると話した。畠田先輩は引き留めようとしたが、僕は頑として聞き入れなかった。
そして、その日の夕方、授業を終えて家に帰るとお母さんが手ぐすね引く様に僕を待っていた。
「お帰りなさい!あのね、昼間に早野君のお母さんから手紙が届いたの。生前の早野君が書いた日記のコピーも手紙と一緒に入ってたわ。読んでみて。」
そう言って、僕にその手紙を差し出す。
宛名は僕だけになっていた。が、お母さんは先に封を開けて読んでいる様だった。きっと、僕を傷つける内容ならば、僕に渡すことなく握り潰すつもりだったのだろう。その気持ちが嬉しかった。
お母さんが、僕に手紙を読ませようとするのだから、内容は分かっている。
早野君は、早野君のお母さんに日記を読ませたのだ。早野君の日記が添えられていることも、それを裏付けている。
「読んでみるよ。」
僕が笑顔で手紙を受け取ると、
「あら、あなたが笑うなんて珍しい。」
お母さんは驚きの顔でそう言った。
そうだった。僕は、早野君が亡くなってから笑っていなかった。七年間も。
僕の笑顔をまじまじと見て、お母さんも微笑む。微笑みながら、お母さんの目から涙が溢れ出した。
僕は戸惑う。そして、お母さんの気持ちを考えると心が痛くなった。
そういえば、お母さんも僕と同じで七年間笑っていなかった。だから、久しぶりのお母さんの笑顔だった。この七年間、僕の苦悩を見守り、僕を守ろうと必死だったお母さんは、笑顔を失った僕をどんな気持ちで見ていたのだろう。
僕の目からも涙が溢れ出す。その顔をお母さんに見られないように、さりげなく横を向き手紙を封筒から取り出して読み始めた。
お母さん、もう僕は苦しまないよ。もう、心配させないよ。
そう、心の中で呟きながら。

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